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4、完璧な誤解

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「まあ、お嬢様。
 今日はアラン様のお誕生日パーテイにいかれたのでしょう。
 こんなに早くお戻りになって、一体どうなさったのですか。
 もっとアラン様のお邸でゆっくりされてくればよろしかったのに。
 お嬢様は、近いうちにマンチン公爵家にお嫁にいくのですから」

 心配そうな顔をして、私の顔をのぞきこんだのはリーフ家の侍女頭リンダだ。

 リンダは私の母が生きていた時から、侍女として邸につかえてくれている。

 自慢の赤毛にはすっかり白髪が目立っているが、小太りした身体はいたって健康そうだ。

「リンダ。
 もうその話はなくなったの。
 アラン様はね、マリーンと結婚することになったのよ」

 壁にかけてある使用人用のエプロンをつけて、山のようなジャガイモの前に立つとその中の1つを手にする。

 そして、包丁でスルスルと皮をむいてゆく。

 私の好きな仕事の1つだ。

「お嬢様。鼻歌なんて歌っている場合じゃありませんよ。
 マリーン様もマリーン様です。
 姉の婚約者を横取りするなんて、いくらなんでもやりすぎですよ」

 リンダがそばにあったザルをとって、勢いよく投げつけた時だった。

「危ないでしょ。リンダ。
 もう少しで、私の奇麗な顔に傷がつくとこだったわ」

 身体をひねり、飛んできたザルをよけたマリーンが、出入り口でどなり声をあげたのだ。

いつのまに、ここにきてたのね。

どうせ、嫌味を言うためでしょうけど。

「本当にイライラする女だわ。
 ねえ。アイリーン。
 包丁に変身して、あの泥棒ブスの顔を刺してきてもいい」 

 ミーナが、ペンダントの先っぽで激しく揺れている。

「それはダメよ。
 私ははやく部屋に帰って、物語の続きを書きたいの。
 マリーンを傷つけると大騒ぎになって、ますます部屋に戻れなくなるわ」

 昔から他の人にはミーナの言葉は聞こえない。

 私は小さな声でそう言うと、ひとさし指でミーナの頭をヨシヨシとなでた。

「マリーン。
 アラン様と結婚するのね。
 おめでとう」

「はーん。お姉さま、それってずいぶんな嫌味ね」

 マリーンは胸の前で両手を組んで、厳しい視線で私を見すえる。

 パーテイドレスままの姿だけど、会場でみせた可憐さなんて微塵もない。

「誤解よ。
 そりゃ、アラン様もマリーンも跡取りだわ。
 結婚するにはかなりの障害だと思う。 
 けど、真実の愛があるなら、きっとのりこえられるわよ」 

 私の言葉がおわるやいなや、厨房に罵声がひびきわたる。

「そこの腹黒女、たわ言はおやめ!
 自分がリーフ家の跡取りになる為に、マリーンがアラン様と結婚するようにしむけたくせに。
 ついに悪役令嬢の本領発揮ね」

 驚いて声の方をふりかえると、そこには怒りで肩をワナワナ震わせたカーラが立っていたのだ。 
 
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