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1、婚約破棄

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「やはりマリーンの言っていた事は本当だったんだな。
 幻滅したよ。アイリーン。
 オマエとの婚約は破棄する!」

 マンチン公爵家の跡取り息子、アラン様の誕生パーテイが始まってすぐの出来事だった。

 マンチン家は筆頭公爵家である。

「その権力は王家と並ぶほどだ。
 けど、そのマンチン家もアラン様の代になるとおわる」と王都の貴族は噂をしていたが。

「アラン様。
 私が一体何をしたとおっしゃるのですか?」

 そう言うと、目を見開いてコクンと首を傾げた。

 目から1滴の涙もこぼさず、いたって冷静にだ。

 なぜって、私はアラン様を全く愛してなかったからだ。

 もっと言えば大嫌いだった。 

 アラン様は典型的な顔だけ男だ。

 スラリとした長い足。

 鍛えあげられた身体。

 自然なウエーブのかかった群青色の髪と、同じ色の瞳。

 アラン様の容姿は一瞬で、令嬢達をとりこにした。

 けれど、彼と話した令嬢達は一瞬で、アラン様に幻滅するのだ。

 会話からにじみでる、バカさかげんにうんざりして。

「まだシラをきるつもりか。
 マリーンから、『アイリーンお姉様はなんでも私の真似ばかりするの』って聞いてはいたが、まさかここまでするとはな。
 マリーンのドレスを見てみろ」

 アラン様はフンと鼻をならして、向こうからやってくる妹のマリーンを指さした。

「アラン様。
 どうか姉を許してやって下さいね。
 幼い頃に母親を失った姉を可哀想に思って、言いなりになっていたマリーンが悪いのですから」

 マリーンはそう言うと、両手で顔をおおう。

「マリーンの優しさには感動するな」

 マリーンの肩にソッと手をそえて、アラン様は優しい声をだす。

 茶番に耐えられなくなったのだろう。

 首からぶら下げていたペンダントの先にあるクマが眉をひそめて、短い足をバタつかせる。

「バッカじゃないんの。
 どうみてもあれは嘘泣きだよ。
 アイリーン。
 本当の事を言ってやったら」

 クマの名前はミーナという。

 一見、ピンク色をした普通のクマだけど、実は魔道具で、母が残してくれた唯一の形見である。

 ミーナはいつも私の味方なのだ。

「ミーナ。
 バカ達に何を言っても同じだからよ」

「バカだって!
 それはオマエだろう。アイリーン。
 パーテイに妹と同じドレスで出席するなんて、信じられない」

 ミーナだけにささやいたつもりの言葉が、アラン様に聞こえてしまったようで、アレン様が顔を真っ赤にして声をあらげる。

「私はね。
 マリーンにはめられたの。
 このドレスはね。
 『お姉様。次のパーテイの時に着てね』とマリーンからもらったものだもん」

あまりのアラン様の激昂に、言わずにするはずだった事実を、ポロリと口にした。

「え?
 そうなのか。マリーン」

 アラン様がちょっと戸惑ったような表情を見せる。

妹は、もの心ついた時から、嘘をついて私を悪役におとしめてきた強者だ。

今回はどんな手を使うのかしらね。






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