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エオズ学園 1年R組 入学式編
賢い学校だからといって、食堂の飯が美味いとは限らない
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そうあの『リア充』である。
しかし、勘違いされてもらっては困る。
別に彼女を作って、イチャイチャする、とかではない。むしろ彼女は当分作らない予定だ。
俺は単に「リアルを充実させる・・・・・・・・・ 」ことを目標としただけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
理由、は折角の自由にできる高校生だし、高校を卒業してしまえば軍に所属。つまりこれ以降、老後まで自由はないのだ。
大学に行くという手もあるが、それは金持ちでなおかつ、自分でいうのもなんだが能力の才能がない者が行く。つまりエオズ、いやそれより二ランク下の高校でもほぼ全員が大学に行かず、軍に所属する。それが今の日本においての進学事情だ。
すみと話してから二時間経った頃だろうか。
俺は宿のところへちょっかいを出しに行ったり、ごろごろしながら暇を潰した。別に昼間なら立ち入ってもいいが、女子寮へ遊びに行くことはあまり望ましくないとされている。今日に関してはすみ以外の女子と特に仲がいい人なんていないので、遊びに行ったりはしないとしよう。
「もう準備の出来ている者は十号館ラウンジに集合。ラウンジは一階の大きいスぺースだ。今から昼飯を食べる。」
部屋に設置されていたテレビを見ていた瞬間に、真上についているスピーカーで連絡の放送が流れた。
時刻は午後一時を回ったところ。小腹がちょうど空く時間だ。
俺はテレビの電源を消した後、寝転がっていた身体を起こし、制服のジャケットを着た。
外に出て、3102号室のインターホンを押して、宿を呼んだ後、それと同時に、たった今玄関を出た水栗を誘って一緒にラウンジへ向かう事にした。
「美味い飯だといいな」
今、キュウシュウ戦争が起こっているからか、味に関しては嫌な予感がする。
ただエオズは食費は学校が全額負担してくれるため、味に関して俺たちがどうこう言う権利はない。
ましてや、この戦争下でタダで飯を食わさせて貰うのはどれだけ不味くても感謝をいうべき事がらだ。
一階『Lounge』というマークが貼られた施設のドアを開ける。
各クラスの先生が壁にもたれて、腕を組んでいる。唯一もたれずに立っている原がぞろぞろ部屋に入ってきた生徒に呼びかけるように「担任の先生のところに並べ。出席番号順じゃなくても構わん」
R組も粛々と列を作っており、俺たちは最後尾である四人組の女子集団の後ろへと並ぶ。
五分ほど待ち、先生たちは全員揃っているか、確認する。
原は目でR組の人数確認をした後、軽く頷く。そしてH.S組の担任が原に点呼の報告をして了解の合図をする。
「さて、今日は一号館にある食堂を利用してもらう。お前たちが朝・昼・晩。お世話になるところだ。食堂の人には挨拶をしっかりすること。あと上級生も食べているだろうから、失礼のないように」
食堂は七階。というわけで今から地獄の階段かと思いきや、ここはニッポン一の学校。たくさんの偉い人がここへ来るというのは、百も承知だ。その偉い人が使用する一号館の施設というものは唯一無二の存在。それが食堂。もちろん若い人も来校する時もあるが、大抵は年寄り。足を悪くしている人もいるだろう。
そこで設置されたのが最新型『テレポートマシン』。
設置した二点を自由自在に移動できる代物だ。最新の魔術を応用したものであり、それはもう夢のような機械だ。
なら「階段を廃止してこれに変えればいいじゃん」と思うかもしれないが、そうにはいかない。まず、二点のみの移動でしか使用することはできない。要するに一、二、三階をそれぞれ自由に移動するにはマシンを二つ用意しなければならない。三階建てで二倍、四階建てで三倍、と階が上がるごとに値段が上がってしまう点だ。
そしてもう一つ、一番致命的な点がある。それは、莫大なお金がかかる、という点だ。一台当たり、十五億円。さらに公共の場での魔術の使用なので国からの厳正なチェックの上での許可が必要だ。ニッポン全国に三百台もない。
「ではR組から移動を始める。これからは自分たちで行ってもらうから。その辺、頼んだぞ」
どの辺を頼まれたのか分からないが、まあいい。
俺たちは原が歩くことにただついていくだけだ。
また五分くらい歩いて、教室がある一号館へと着く。
そこから俺たちがよく使っていたA階段とは真逆のC階段の方へと向かう。
「C階段から一階に下りたところにエオズ名物の食堂行きテレポートマシンがある。二階からはS組の教室の傍に階段があるから。教室から食堂行きたいときには一旦下りてからそのマシンを使って食堂に行け。ま、階段を使ってもいいが」
そう言いながら、すぐにテレポートマシンの近くに着く。半径一mくらいでその地面は青くラピスラズリのような輝きを見せる。
「これがテレポートマシンだ。乗ってから五秒待ったら起動して転送される。定員体重は三〇〇㎏。それをオーバーしたら動かないから注意だ」
原はこのマシンについての短い説明をした後、一番前にならんでいた生徒らを連れてそのマシンの上にのる。
すると確かに五秒ほど経つと、原とその連れられた三人の生徒が一瞬にして消えた。
R組の生徒は特別驚くわけでもなく、ただただ感心していただけだった。
「私らも乗ろうか?」
前の女子組四人の一人が他の三人に対してその質問を問いかける。
「うん!いこいこ」
「えー体重オーバー大丈夫?」
「体重オーバーって、私ら一人七五㎏あんの!?」
そんな冗談に対して真面目なツッコミに笑いながら四人とも、そのマシンの上にのる。
そして、またしても同じ条件、同じ感覚で一瞬にして消えた。
「じゃ俺たちも乗ろう」
「そうだな」
「そうですね」
俺たちはそのマシンの方へ歩みを進めた後、「まって」という声が聞こえた。
「ん?すみか。どうした?」
そこにはすみと……、あともう一人青いフレームの眼鏡をかけた身長がすみよりも低い少女が立っていた。
すると宿が俺に小声で「知り合い?」と尋ねる。
俺は軽く頷いた後、「隣の子は?」と重複質問をする。
「あ、この子は植澤揚子ちゃん。私の住む部屋の隣の子。それでね!ウチが
ダンボール捨てに行った後、この子がねお風呂の――」
「あーあーあー!江頭ちゃん、それは言わないお約束って言ったでしょ!!」
「えーいいじゃん別に!」
俺ら三人は頭にハテナマークを浮かべながら話を聞く。なんだ?風呂?やらしいイベントでもあったのか?
「それで何の用だ」
こんなことをしながら後ろのヤツらが抜かしてさきにマシンにのっている。
「あーそうそう。それで私たちと一緒にご飯を食べないかーって。それで……そこのイケメン君と小っちゃい男の子は?」
「誰が小っちゃいだ。お前とおんなじくらいだろ!?」
既視感がある返答の仕方だが……、まあいい。
「そのお前が言うイケメン君が龍川宿、そして小っちゃい男の子が水栗一平だ」
「な、、だから誰が小っちゃい男の子だ!」
すると俺たちのショートコントがウケたらしく、二人はクスクスと笑っている。しかしそこで一番大きな声で笑っていたのがすみでも植澤さんでもなく宿だった、というのはまた別のお話。
「――で俺たちと食べていいか、っていう件だが、答えは『オフコース』。もちろんだ」
すると、すみではなく、植澤さんがぱぁっと顔を明るくして「あ、ありがとうございます!」と明るい口調でお礼をした。
「じゃあいこうか」
R組はほとんどの人がもう食堂にいったらしく、ここには俺たち含め、十人ほどしか残っていない。
そして俺ら五人はこのマシンで転送された。一瞬すぎてもはやなにが起こっているのかわからなかった、というのが俺の感想だ。
そんな非科学的な存在を皆はただの移動手段と考えたらしく、誰一人マシンについて触れることはなかった。
いや、考えても無駄な存在、という方が正しいかもしれない。
――さて、ここは食堂。教師も含めて、四百人前後しかいないのに対して、席数は驚異の六百席。
上級生とR組でもう飯を受け取った人のみが座っていた。
「じゃあ僕が真ん中あたりの席とっておくので、和田君は、僕の料理まで取っておいてください」
「了解。ほらお前ら行くぞ」
そう言って俺はリーダーを気取り、歩みを進める。
原は階段で一階に戻ったらしく、ここには俺たち生徒しかいない。
『食堂』と言えど、給食形式だ。日替わりで皆同じものを食べる。
注文方式は入学合格書類の中に入っていた生徒カードを食堂のおばちゃんに渡して受け取る。簡単なものだ。
水栗の生徒カードはもう受け取り済みで、二つ分の丼ぶりを注文することができる。
「お、あそこに今日のメニューが書いてあるじゃない!なんて書いてあるか分かる?和田」
「あー、えーと『Healthy and strange丼』だってよ」
おいおいなんだその地雷英語ネームは。不安でしかない。
「こりゃあ、ヤバそうだな」
宿がそう呟く。
すると、さっきの女子たちがそのどんぶりを置いたトレイを持ってギャーギャー言って俺の横を通り過ぎようとする。
「……なぁ、その『Healthy and strange丼』ってどんなやつだ?」
すると、あのツッコミ少女が振り向いて「あ、、これのこと?スゴいよこれ!ごはんの上にほうれん草を醤油かなにかであえたやつがあって、その上にその、臭い肉?がのってるのよ!」とこれまた天然口調で説明をしてくれた。
「……そんな男に構ってないで、ほら癒音いくよっ」
その四人組のうちの一人がツッコミ少女に声をかけ、それに対して「今いく!」と返事をする。
「じゃあね」
「おう、ありがと」
しかし、臭い肉とは何だろうか。一番カウンターに近い上級生は何食わぬ顔で食べているが。
順番が回ってきた。
俺は食堂のおばちゃんに水栗と俺の学生カードを見せたあと、二つ分の調理済みどんぶりがどんと出る。
「おばちゃん。これ何の肉使ってるんだ?」
「……ああ、秘密だよ、秘密。食べたらわかるさ」
「…………」
俺は大人しくトレイに丼ぶりを二つのせる。
「……宿。俺、先水栗のところいってるわ」
「おう、了解」
そう言った後、すぐさま息を止めて水栗のところへ運ぶ。
「お疲れ様です、ってちょ、トレイを投げなくてもいいじゃないですか!」
おっと、あまりにも嗅ぎたくないという意思に思いやられ、ついついトレイを投げてしまった。
しかし水栗は何もこぼすことなくキャッチをし、そのまま机の上に置く。
「……………………って臭っ!なんですか、これ!?」
「俺が聞きたい」
「あ、もしかして嗅ぎたくなかったから。トレイ投げたんですか!?」
俺はこくりと頷いた後、呆れたのか、ため息をつく。
そんな生産性の欠片もない会話をしていると、他三人がここに来た。
「みんな臭さに参っているわね」
「はは、江頭ちゃんはこの丼ぶり臭いって感じる?」
「まあ、多少はね。龍川は?」
「凄く臭いな、あれこれは江頭の匂いか?」
「え!ウチそんな臭い!?」
すみが、すんすんと左手を上げて、制服の匂いをすんすんと嗅ぐ。
なにこの学校天然しかいないの?港じゃないよここ。
さて、全員が揃う。
宿と水栗、すみと植澤さんが向かい合う。
……あれ、俺向かい合う人いなくね?(仕方ないので宿の隣に座るとする。)
「さて、誰が食べる」
そう切り出したのは宿だ。
「言い出しっぺの龍川君で」
「俺!?」
「…………あのじゃあ、じゃんけんで決めましょう」
「いいわね、それ!」
植澤さんの意見にすみが賛成する。
「俺も賛成」
「俺も」
「僕も」
満場一致の決定。
皆右手を出し、グーの手を作る。
「じゃあいくぞ、最初はグー。じゃんけん」
「ほい」
チョキ
グー グー
グー グー
あ。
「はい、和田の負けー。おめでとー!」
「伊尾屋、一気食いだ、一気食い!」
「くっ……」
なにがおめでたいもんか。あとこういうじゃんけんは最後に二人残って激熱のバトルを繰り広げるものじゃないの!?
からかわなかった二人もくすくす笑い、この状況を楽しんでいる。
……覚えてろよ畜生。
「じ、じゃあ……」
机に置いている小さな箱からスプーンを取り出す。
醤油か、ソースなのかもわからない黒い液体をごはんと絡める。
そして、ちぎれた例の臭い肉と緑の野菜、ごはんを同時にスプーンですくう。
「………………い、いっきまーす」
口を全開に開け、舌を歯茎の裏へつける。
目を瞑り、息を止める。
そして、スプーンですくったものを一口で頬張る。
味覚が発動した。
嗅覚も聴覚も知らない、ただ唯一その物体を知っているものは視覚のみ。
感覚神経を通り、せきずい、そして脳をポイントとして一往復。そして運動神経を伝わり、味が解る。
心臓が高鳴る。
そう、俺はもうこのどんぶりの味を知っている。
そうこのどんぶりの味は―――。
絶望的に不味かった。
しかし、勘違いされてもらっては困る。
別に彼女を作って、イチャイチャする、とかではない。むしろ彼女は当分作らない予定だ。
俺は単に「リアルを充実させる・・・・・・・・・ 」ことを目標としただけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
理由、は折角の自由にできる高校生だし、高校を卒業してしまえば軍に所属。つまりこれ以降、老後まで自由はないのだ。
大学に行くという手もあるが、それは金持ちでなおかつ、自分でいうのもなんだが能力の才能がない者が行く。つまりエオズ、いやそれより二ランク下の高校でもほぼ全員が大学に行かず、軍に所属する。それが今の日本においての進学事情だ。
すみと話してから二時間経った頃だろうか。
俺は宿のところへちょっかいを出しに行ったり、ごろごろしながら暇を潰した。別に昼間なら立ち入ってもいいが、女子寮へ遊びに行くことはあまり望ましくないとされている。今日に関してはすみ以外の女子と特に仲がいい人なんていないので、遊びに行ったりはしないとしよう。
「もう準備の出来ている者は十号館ラウンジに集合。ラウンジは一階の大きいスぺースだ。今から昼飯を食べる。」
部屋に設置されていたテレビを見ていた瞬間に、真上についているスピーカーで連絡の放送が流れた。
時刻は午後一時を回ったところ。小腹がちょうど空く時間だ。
俺はテレビの電源を消した後、寝転がっていた身体を起こし、制服のジャケットを着た。
外に出て、3102号室のインターホンを押して、宿を呼んだ後、それと同時に、たった今玄関を出た水栗を誘って一緒にラウンジへ向かう事にした。
「美味い飯だといいな」
今、キュウシュウ戦争が起こっているからか、味に関しては嫌な予感がする。
ただエオズは食費は学校が全額負担してくれるため、味に関して俺たちがどうこう言う権利はない。
ましてや、この戦争下でタダで飯を食わさせて貰うのはどれだけ不味くても感謝をいうべき事がらだ。
一階『Lounge』というマークが貼られた施設のドアを開ける。
各クラスの先生が壁にもたれて、腕を組んでいる。唯一もたれずに立っている原がぞろぞろ部屋に入ってきた生徒に呼びかけるように「担任の先生のところに並べ。出席番号順じゃなくても構わん」
R組も粛々と列を作っており、俺たちは最後尾である四人組の女子集団の後ろへと並ぶ。
五分ほど待ち、先生たちは全員揃っているか、確認する。
原は目でR組の人数確認をした後、軽く頷く。そしてH.S組の担任が原に点呼の報告をして了解の合図をする。
「さて、今日は一号館にある食堂を利用してもらう。お前たちが朝・昼・晩。お世話になるところだ。食堂の人には挨拶をしっかりすること。あと上級生も食べているだろうから、失礼のないように」
食堂は七階。というわけで今から地獄の階段かと思いきや、ここはニッポン一の学校。たくさんの偉い人がここへ来るというのは、百も承知だ。その偉い人が使用する一号館の施設というものは唯一無二の存在。それが食堂。もちろん若い人も来校する時もあるが、大抵は年寄り。足を悪くしている人もいるだろう。
そこで設置されたのが最新型『テレポートマシン』。
設置した二点を自由自在に移動できる代物だ。最新の魔術を応用したものであり、それはもう夢のような機械だ。
なら「階段を廃止してこれに変えればいいじゃん」と思うかもしれないが、そうにはいかない。まず、二点のみの移動でしか使用することはできない。要するに一、二、三階をそれぞれ自由に移動するにはマシンを二つ用意しなければならない。三階建てで二倍、四階建てで三倍、と階が上がるごとに値段が上がってしまう点だ。
そしてもう一つ、一番致命的な点がある。それは、莫大なお金がかかる、という点だ。一台当たり、十五億円。さらに公共の場での魔術の使用なので国からの厳正なチェックの上での許可が必要だ。ニッポン全国に三百台もない。
「ではR組から移動を始める。これからは自分たちで行ってもらうから。その辺、頼んだぞ」
どの辺を頼まれたのか分からないが、まあいい。
俺たちは原が歩くことにただついていくだけだ。
また五分くらい歩いて、教室がある一号館へと着く。
そこから俺たちがよく使っていたA階段とは真逆のC階段の方へと向かう。
「C階段から一階に下りたところにエオズ名物の食堂行きテレポートマシンがある。二階からはS組の教室の傍に階段があるから。教室から食堂行きたいときには一旦下りてからそのマシンを使って食堂に行け。ま、階段を使ってもいいが」
そう言いながら、すぐにテレポートマシンの近くに着く。半径一mくらいでその地面は青くラピスラズリのような輝きを見せる。
「これがテレポートマシンだ。乗ってから五秒待ったら起動して転送される。定員体重は三〇〇㎏。それをオーバーしたら動かないから注意だ」
原はこのマシンについての短い説明をした後、一番前にならんでいた生徒らを連れてそのマシンの上にのる。
すると確かに五秒ほど経つと、原とその連れられた三人の生徒が一瞬にして消えた。
R組の生徒は特別驚くわけでもなく、ただただ感心していただけだった。
「私らも乗ろうか?」
前の女子組四人の一人が他の三人に対してその質問を問いかける。
「うん!いこいこ」
「えー体重オーバー大丈夫?」
「体重オーバーって、私ら一人七五㎏あんの!?」
そんな冗談に対して真面目なツッコミに笑いながら四人とも、そのマシンの上にのる。
そして、またしても同じ条件、同じ感覚で一瞬にして消えた。
「じゃ俺たちも乗ろう」
「そうだな」
「そうですね」
俺たちはそのマシンの方へ歩みを進めた後、「まって」という声が聞こえた。
「ん?すみか。どうした?」
そこにはすみと……、あともう一人青いフレームの眼鏡をかけた身長がすみよりも低い少女が立っていた。
すると宿が俺に小声で「知り合い?」と尋ねる。
俺は軽く頷いた後、「隣の子は?」と重複質問をする。
「あ、この子は植澤揚子ちゃん。私の住む部屋の隣の子。それでね!ウチが
ダンボール捨てに行った後、この子がねお風呂の――」
「あーあーあー!江頭ちゃん、それは言わないお約束って言ったでしょ!!」
「えーいいじゃん別に!」
俺ら三人は頭にハテナマークを浮かべながら話を聞く。なんだ?風呂?やらしいイベントでもあったのか?
「それで何の用だ」
こんなことをしながら後ろのヤツらが抜かしてさきにマシンにのっている。
「あーそうそう。それで私たちと一緒にご飯を食べないかーって。それで……そこのイケメン君と小っちゃい男の子は?」
「誰が小っちゃいだ。お前とおんなじくらいだろ!?」
既視感がある返答の仕方だが……、まあいい。
「そのお前が言うイケメン君が龍川宿、そして小っちゃい男の子が水栗一平だ」
「な、、だから誰が小っちゃい男の子だ!」
すると俺たちのショートコントがウケたらしく、二人はクスクスと笑っている。しかしそこで一番大きな声で笑っていたのがすみでも植澤さんでもなく宿だった、というのはまた別のお話。
「――で俺たちと食べていいか、っていう件だが、答えは『オフコース』。もちろんだ」
すると、すみではなく、植澤さんがぱぁっと顔を明るくして「あ、ありがとうございます!」と明るい口調でお礼をした。
「じゃあいこうか」
R組はほとんどの人がもう食堂にいったらしく、ここには俺たち含め、十人ほどしか残っていない。
そして俺ら五人はこのマシンで転送された。一瞬すぎてもはやなにが起こっているのかわからなかった、というのが俺の感想だ。
そんな非科学的な存在を皆はただの移動手段と考えたらしく、誰一人マシンについて触れることはなかった。
いや、考えても無駄な存在、という方が正しいかもしれない。
――さて、ここは食堂。教師も含めて、四百人前後しかいないのに対して、席数は驚異の六百席。
上級生とR組でもう飯を受け取った人のみが座っていた。
「じゃあ僕が真ん中あたりの席とっておくので、和田君は、僕の料理まで取っておいてください」
「了解。ほらお前ら行くぞ」
そう言って俺はリーダーを気取り、歩みを進める。
原は階段で一階に戻ったらしく、ここには俺たち生徒しかいない。
『食堂』と言えど、給食形式だ。日替わりで皆同じものを食べる。
注文方式は入学合格書類の中に入っていた生徒カードを食堂のおばちゃんに渡して受け取る。簡単なものだ。
水栗の生徒カードはもう受け取り済みで、二つ分の丼ぶりを注文することができる。
「お、あそこに今日のメニューが書いてあるじゃない!なんて書いてあるか分かる?和田」
「あー、えーと『Healthy and strange丼』だってよ」
おいおいなんだその地雷英語ネームは。不安でしかない。
「こりゃあ、ヤバそうだな」
宿がそう呟く。
すると、さっきの女子たちがそのどんぶりを置いたトレイを持ってギャーギャー言って俺の横を通り過ぎようとする。
「……なぁ、その『Healthy and strange丼』ってどんなやつだ?」
すると、あのツッコミ少女が振り向いて「あ、、これのこと?スゴいよこれ!ごはんの上にほうれん草を醤油かなにかであえたやつがあって、その上にその、臭い肉?がのってるのよ!」とこれまた天然口調で説明をしてくれた。
「……そんな男に構ってないで、ほら癒音いくよっ」
その四人組のうちの一人がツッコミ少女に声をかけ、それに対して「今いく!」と返事をする。
「じゃあね」
「おう、ありがと」
しかし、臭い肉とは何だろうか。一番カウンターに近い上級生は何食わぬ顔で食べているが。
順番が回ってきた。
俺は食堂のおばちゃんに水栗と俺の学生カードを見せたあと、二つ分の調理済みどんぶりがどんと出る。
「おばちゃん。これ何の肉使ってるんだ?」
「……ああ、秘密だよ、秘密。食べたらわかるさ」
「…………」
俺は大人しくトレイに丼ぶりを二つのせる。
「……宿。俺、先水栗のところいってるわ」
「おう、了解」
そう言った後、すぐさま息を止めて水栗のところへ運ぶ。
「お疲れ様です、ってちょ、トレイを投げなくてもいいじゃないですか!」
おっと、あまりにも嗅ぎたくないという意思に思いやられ、ついついトレイを投げてしまった。
しかし水栗は何もこぼすことなくキャッチをし、そのまま机の上に置く。
「……………………って臭っ!なんですか、これ!?」
「俺が聞きたい」
「あ、もしかして嗅ぎたくなかったから。トレイ投げたんですか!?」
俺はこくりと頷いた後、呆れたのか、ため息をつく。
そんな生産性の欠片もない会話をしていると、他三人がここに来た。
「みんな臭さに参っているわね」
「はは、江頭ちゃんはこの丼ぶり臭いって感じる?」
「まあ、多少はね。龍川は?」
「凄く臭いな、あれこれは江頭の匂いか?」
「え!ウチそんな臭い!?」
すみが、すんすんと左手を上げて、制服の匂いをすんすんと嗅ぐ。
なにこの学校天然しかいないの?港じゃないよここ。
さて、全員が揃う。
宿と水栗、すみと植澤さんが向かい合う。
……あれ、俺向かい合う人いなくね?(仕方ないので宿の隣に座るとする。)
「さて、誰が食べる」
そう切り出したのは宿だ。
「言い出しっぺの龍川君で」
「俺!?」
「…………あのじゃあ、じゃんけんで決めましょう」
「いいわね、それ!」
植澤さんの意見にすみが賛成する。
「俺も賛成」
「俺も」
「僕も」
満場一致の決定。
皆右手を出し、グーの手を作る。
「じゃあいくぞ、最初はグー。じゃんけん」
「ほい」
チョキ
グー グー
グー グー
あ。
「はい、和田の負けー。おめでとー!」
「伊尾屋、一気食いだ、一気食い!」
「くっ……」
なにがおめでたいもんか。あとこういうじゃんけんは最後に二人残って激熱のバトルを繰り広げるものじゃないの!?
からかわなかった二人もくすくす笑い、この状況を楽しんでいる。
……覚えてろよ畜生。
「じ、じゃあ……」
机に置いている小さな箱からスプーンを取り出す。
醤油か、ソースなのかもわからない黒い液体をごはんと絡める。
そして、ちぎれた例の臭い肉と緑の野菜、ごはんを同時にスプーンですくう。
「………………い、いっきまーす」
口を全開に開け、舌を歯茎の裏へつける。
目を瞑り、息を止める。
そして、スプーンですくったものを一口で頬張る。
味覚が発動した。
嗅覚も聴覚も知らない、ただ唯一その物体を知っているものは視覚のみ。
感覚神経を通り、せきずい、そして脳をポイントとして一往復。そして運動神経を伝わり、味が解る。
心臓が高鳴る。
そう、俺はもうこのどんぶりの味を知っている。
そうこのどんぶりの味は―――。
絶望的に不味かった。
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