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第2章 その女、現状を把握するにつき

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…あー、スマホが欲しい。切実に。
映画は何度も見たけど、細かい設定に関しては自分でも意外に知らないことが多い。
調べたい。グー●ル先生を召喚したい。
まあ、まず電波が通じないだろうけど。それにあったらあったでこの時代に存在しないはずの文明の利器をどう説明したものか、という別の問題も発生したわけだけど。

とにかく、その辺の繊細な事情はおいおい控えめに探っていくことにして、おかしな要素その3。
これは、おかしいというか、事実の一環でしかないんだけど、

私の痛覚がどっかいった。
文字通り、痛いという感覚がなくなったのだ。

今思えば、あの路地裏でぶん殴られたときに既に痛みを感じなかった時点で、薄々そんな予兆はあったんだけど。
それでもあの時は、私史上限界値までアドレナリンが大放出されたからかと楽観視してた。
が、入院生活を続けるうちに気づいた。私は今、包帯のせいで片目しか開かない状況なので、うまく距離感が掴めず、体をモノにぶつけたりする。それで“ぶつけた”衝撃はあるものの、どうもその感覚が鈍いなあ、と。
それから、そもそも頭に大怪我してるのに全然痛くねえな?アレ?と、なってようやく自覚した。
だからこそ、今のこの状況に対して現実味というものが持てないんだよね。
どういう事かと言うと、例えるとするなら、「これは夢だな」という自覚のある状態で、夢を見た経験はお有りだろうか。身体の感覚はふわふわしてるけど、頭は冷静な、あの感じだ。それが、ずっと続いているような気がする。
この不思議な感覚のせいで、「今起こっていることは、事故で意識不明になっている私が脳内で展開している夢である説」が私の中で浮上している。
だとすれば全然頭も冷静じゃないな。どうしようね。

まあ、その説の真偽はさておき、おかしな要素その4。これが最大にして混迷を極める事態なんだけど、


私の目が緑色になってた。


…いやもう、ホントに、どういうこと?痛覚と一緒にメラニン色素もサヨナラしたの?
緑がかって見える、とかそんなレベルじゃない。もう、誰がどう見ても緑以外の表現ができない色なのだ。
最初は脳への衝撃で色彩感覚に異常を来したとかで、そう見えるだけなのかと思ったが、周りの景色は正常に見えているのだからそれもない。
もともと、私の目は日本人にありがちな、黒に近い焦げ茶色のはずだった。
事故の後遺症で目の色素が抜けることなんてあるんだろうか。

ああ、でも。
実は、私のおじいちゃんの目は青色だった。れっきとした日本人なのだが、本人&周囲の人曰く後天的にそうなったらしい。
理由は知らない。聞いたところで、
「アメリカで交通事故にあい、目が覚めたら後遺症で目の色が変わっていた」
と言ったかと思えば、
「昔から空ばかり見ていたから、ある日突然目が空色になった」
なんて詩的なことを言い出したり、
「ツアーガイドとしてとある国の遺跡の案内をしていた最中に、誤って人が触ってはいけないところに手を触れてしまい、目の色を抜かれた」
などと、
聞くたびに理由が変わる上に話がどんどん荒唐無稽になっていくので、途中で追求を諦めたのだ。

…とまあ、そんな前例(?)を思い出したのは後になってからの話で、鏡を見て初めて己の変化に気づいた私はパニックになった。
が、咄嗟のことで母国語しか飛び出さなかったのが幸いしたらしく、私は自分の怪我の凄惨たる状態を目の当たりにしてヒステリーを起こしたと思われ、慰められただけだった(先述したラディからの額にキス事件はこの流れで起こった)。
ただ、そのせいでダリウスさんの罪悪感を余計に煽ってしまったらしい。
申し訳ないとは思うが、かと言ってパニックを起こした本当の理由を言うわけにもいかない。

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