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第1章 その女、超常に見舞われるにつき
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しおりを挟む老人を含め唖然とした沈黙がその場を支配し、棍棒野郎も固まったのをいいことに、今度は右手で掴んでいたソレを顔面に吹き付けてやった。
みんな大好き(?)整髪料、●ープである。
体の毒になるような成分は含まれてないし、殺虫剤ほど攻撃力は高くないはずだが、直に目に入れば痛いはずだ。
狙い通り、棍棒野郎は私の上から跳びのき、ム●カ大佐のごとく悶え苦しみ始めた。
フッ、決まった。と1人で悦に入っていると、誰かが叫びながら駆け寄ってくる足音がした。
またもや背の高いシルエットのその新参者は幸いにして老人の味方であったらしく、壁に背をつけてへたり込んでいるた彼を助け起こそうとしている。
老人が何か言ったのか、慌ててこちらを振り返ったそのノッポが水溜まりをベッドにしている私に手を伸ばした、
その光景を最後に私の視界は暗転。
*
次に目を覚ますと、1番に目を焼く蛍光灯の眩しさに呻いた。
知らない天井だ…などと感慨に浸るよりも先に、眩しさに顔を背けた。それから自分の首に何もつけられていないことに気づいて戦慄し、慌てて周囲の状況を確認しようと視線を巡らせる。
私の寝かされたベッドの左側にサイドテーブルがあり、私のカバンに紙袋、
それから何より大事なロケットペンダントが、誰のものかはわからない白い上質なハンカチに丁寧に乗せられているのを確かめて、ホッとする。
よし、とりあえず生きてるし、どうやら五体満足っぽい。トラックに跳ねられた上に頭に成人男性(おそらく)の渾身の一撃を食らっておいて、意識もハッキリしているし我ながら驚異の悪運の強さだ。
間違いなくここは病院だろうしナースコールを…と、反対側に顔を倒すと、
目の前にハリウッド俳優がいた。
何を言ってるかわからないかもしれないが、目の前の光景を見たまま言うと、そうなる。
……蝋人形?でも、今瞬きした。
動いてるんですけど。
『やあ、気分はどう?』
しかも、何か話しかけてきた。
…え、動いてるんですけど(2回目)。
まさか本物?
咄嗟に起き上がろうとすると、彼に『だめだめ、まだ動かない方がいい』というような事を言われて肩を押し戻され、初めて自分がベッドに寝かされていたらしいことに気づく。ついでに妙に視野が狭いのは、右目ごと頭全体を覆うように包帯が巻かれているからか、
いや、自分のことはどうでもいい。
とにかく、目の前の彼だ。
どこからどう見ても、米国の俳優のジャック・ローレンスに見える。
でも、それにしてはおかしなこともある。本物のジャックの目はヘーゼルで、こんな、冬の晴天を思わせるアイスブルーではないはずだ。それに、なんだか全体的に細い気がする。
私が上から下まであんまりマジマジと見ていたからか、彼は優しく微笑んで名乗った。
『僕はラディ。ラディ・ミラーだ』
…………いや、それはあなたの役名では?
という疑問を、咄嗟に英語に変換できるほどの語彙力は私に備わっていない。
その混乱による沈黙の間を彼はどう取られたものか、ん?とどこかイタズラっぽく覗き込むようにしてその精悍な顔を近づけてくるので、私は頭が真っ白になった。
文字通りの真っ白、である。
(何故か)役名とはいえ仮にも自己紹介をされたんだから、こちらも自己紹介を返すのが礼儀だとか、そんな常識はぶっ飛んでしまった。
しかし、何か言わなければ、と口を開いて飛び出した言葉が、
「か…っ」
『KA?』
「顔が良い……‼︎‼︎」
立花百合子、23歳。魂の叫びであった。
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