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第1章 その女、超常に見舞われるにつき
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しおりを挟む驚いたことに、現れた医者も外人さんだった。私は触りまくられ(断じていやらしい意味ではなく)、ひっくり返され、その間中ドクターは誰にともなく早口で喋り続ける。時々質問のようなものがこちらに向けられているのはイントネーションでわかったが、内容はさっぱりわからない。それに、ほとんどジャックが相槌を打っていたので、私の出番はほぼ無かった。かろうじてわかったのは、ジャックさんが「彼女はショックで自分のことは何も覚えていない」というような意味合いのことを言い、対してその医者は厳しい顔で「無理もないな」というような返事をしたことくらいだ。
そして、彼の下した診断は明確だった。
二本指で私を指し、それはそれは厳かに
『Sleep』。
いや、診断じゃないな。お告げか?
多分、私がほとんど英語を解さないと聞いて簡潔な言葉で言ったんだろうけど。
とにかくそう告げるなりバッサーと白衣を翻して颯爽と部屋を出て行く仕草なんか、ドラマみたいだった。見た目的に初老の域に達してるんじゃないかと思うんだけど、まず足が長い上に姿勢がめちゃくちゃ良いから、人型のコンパスが歩いてる感じ(褒めてるつもり)。ここはあなたのランウェイですか?
結局、最後以外ほとんど目も合わないままだったし。おまけに、金髪でやはり外国人の看護師らしきお姉さんがやってきて、サイドテーブルに水さしとコップを置いて出て行った。
「……」
…自分で言うのもなんだが、私の性格は能天気な方だ。
それでもこれは、異常事態だった。
まず、これが何かのサプライズだとしたら、通訳もいなければカメラも回っていないのはおかしい。
それに、ここが日本の病院なら、外国人の医者がいることはあり得るにしても、私の怪我について通じない言葉で本人を蚊帳の外にして説明が行われるというのはありえない。
もっと言わせてもらえば、そもそも、病室の扉が内向きに開いた時点でおかしい。日本の病院の扉は大抵スライド式だ。少なくとも、私の家の近所の病院はそうだ。どうも、この病室を見る限り、建物全体が古臭い印象を受ける。
と、いうわけで。
扉が閉まるや否や、私はベッドの下に置かれていたブーツをつっかけ、窓に駆け寄った。
窓の外には、朝焼けの中見たこともない街が広がっていた。
見たことはないが、どう見ても日本のそれではない。異国だ。
ビルとビルの隙間から顔を出した朝日が目を焼き、顔を背けるついでに、部屋に目を戻す。
『…外に出たいのか?気の毒だが、当分は無理だ』
ラディ・ミラーと名乗った彼は、とにかく落ち着いて、ベッドに戻れと促してくる。
そんな彼を、私はいっそ失礼なくらいまじまじと見つめた。
朝日に照らされ、ゴールドに輝く髪。俳優ジャック・ローレンスの地毛はカラスのような黒髪だから、それはラディを演じる上で染めたんだとしても、その下にある目の色といい、体格といい、よくよく見れば容姿に差異がある。そんな彼に今更な質問をぶつけてみる。
「……Where am I?」
『ニューヨークの××××××病院だが』
なあ、大丈夫か、本当に記憶が…など、彼が色々聞いてくるが、お願いだからちょっと待ってほしい。
名前は早くて聞き取れなかったが、とにかくここは病院で、それより何より聞き捨てならない言葉が。
今、彼は確かにnewyork cityと言った。
…マジで?
本当に、ここ、ニューヨークなの?アメリカの?
そもそも、なんで国を越えてるんだ。
私、買い物に行くのにパスポートなんて持ち歩いてなかったんですけど。これっていわゆる不法入国者になるのでは?
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