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おわり
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ーずっと。ずっと続くと思っていた。なずなが入院してからも、なんとなく助かるんじゃないかと、そんな希望を抱いていた。毎日毎日なずなと会って。話して。写真を撮って。思い出づくりを続けていた。幸せだった。でも、幸せな時間こそあっという間に過ぎ去ってしまうのだ。
季節はあっという間に巡った。
「なんかもう…ダメみたい…。」
あのうさぎを抱きしめて、なずなは言った。
「諦めるな…!」
「自分のことは自分が1番わかってるよ。」
「……っ」
言いたいことは山ほどあるのに、言葉が詰まって出てこない。
「今までありがとうね。」
あまりにも急すぎる。なずなはずっと平気そうに振る舞っていた。でも、病の進行が止まっていたわけじゃない。
「もう、帰って。お願い…。」
「でも……っ。」
「お願いだから。」
懇願される。なずなの視線が真っ直ぐにこちらを捉えている。
「わかったよ…。」
そっと背を向ける。その刹那。
「だいすきだよ。」
彼女が背中に投げかけた言葉はあまりにも切なくて。
「俺もなずなを…愛してるよ。」
涙に濡れた顔を見せたくなくて、振り返らずにそう返した。
「ああもう、どうしてなずななんだよ。」
彼女と別れ、帰宅した俺は、ベッドに倒れ込んだ。
「どうして……。」
彼女は善人だ。素直で真っ直ぐで、優しい人だ。この世にはきっと、極悪人だっている。どうしてそんな奴らがのうのうと生きていて、なずなが死ななきゃいけないんだ。八つ当たりだとはわかっていた。でも、止められなかった。
「くそ……っ。」
もし…。もし俺に力があったら。なずなを救えるくらいの力があったら。もしもなんて考えても仕方がないが、この状況を俺は受け入れることができなかった。なずなが死んでしまったら、俺はどうなるんだろうな。少し想像してみる。今まで通りに生きるのか。それとも希望を失ってしまうのか。おそらく後者だろうな。なずながいない世界なんて考えられない。依存は良くないことだとはわかっている。なずながそんなことを望んでいないことも。
その夜はなかなか眠れなかった。でも人間とは不思議なもので、大事な人が危ないと言うのに、眠気というのは襲ってくるもので、いつのまにか寝付いていた。次の日にはーー彼女の面会が謝絶された。
会えない時間が続いて、数日後。
「……。」
母親が泣き腫らした目をしてこちらを見つめた。その瞬間、わかってしまった。
「なずなちゃんが……。」
母がそう言い出すと同時に、俺は駆け出した。
「なずな……!」
叫ぶ。涙が止まらない。いかなくては。今すぐに。
季節はあっという間に巡った。
「なんかもう…ダメみたい…。」
あのうさぎを抱きしめて、なずなは言った。
「諦めるな…!」
「自分のことは自分が1番わかってるよ。」
「……っ」
言いたいことは山ほどあるのに、言葉が詰まって出てこない。
「今までありがとうね。」
あまりにも急すぎる。なずなはずっと平気そうに振る舞っていた。でも、病の進行が止まっていたわけじゃない。
「もう、帰って。お願い…。」
「でも……っ。」
「お願いだから。」
懇願される。なずなの視線が真っ直ぐにこちらを捉えている。
「わかったよ…。」
そっと背を向ける。その刹那。
「だいすきだよ。」
彼女が背中に投げかけた言葉はあまりにも切なくて。
「俺もなずなを…愛してるよ。」
涙に濡れた顔を見せたくなくて、振り返らずにそう返した。
「ああもう、どうしてなずななんだよ。」
彼女と別れ、帰宅した俺は、ベッドに倒れ込んだ。
「どうして……。」
彼女は善人だ。素直で真っ直ぐで、優しい人だ。この世にはきっと、極悪人だっている。どうしてそんな奴らがのうのうと生きていて、なずなが死ななきゃいけないんだ。八つ当たりだとはわかっていた。でも、止められなかった。
「くそ……っ。」
もし…。もし俺に力があったら。なずなを救えるくらいの力があったら。もしもなんて考えても仕方がないが、この状況を俺は受け入れることができなかった。なずなが死んでしまったら、俺はどうなるんだろうな。少し想像してみる。今まで通りに生きるのか。それとも希望を失ってしまうのか。おそらく後者だろうな。なずながいない世界なんて考えられない。依存は良くないことだとはわかっている。なずながそんなことを望んでいないことも。
その夜はなかなか眠れなかった。でも人間とは不思議なもので、大事な人が危ないと言うのに、眠気というのは襲ってくるもので、いつのまにか寝付いていた。次の日にはーー彼女の面会が謝絶された。
会えない時間が続いて、数日後。
「……。」
母親が泣き腫らした目をしてこちらを見つめた。その瞬間、わかってしまった。
「なずなちゃんが……。」
母がそう言い出すと同時に、俺は駆け出した。
「なずな……!」
叫ぶ。涙が止まらない。いかなくては。今すぐに。
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