1 / 1
本編
しおりを挟む
一夜の過ちを犯してしまった。
昨日、私は恋人の浮気が発覚したショックから、行きつけのバーでヤケ酒をした。その時たまたま隣にいた男性が慰めてくれて、大量に酒を飲んだ私の分の会計を支払ってくれた。
飲みの席の赤裸々な話で、彼は恥ずかしそうに、「恋人がいたことがない」なんて言うもんだから、「お世話になったお礼に、貴方の童貞を卒業させてあげる」なんて言ってしまったのだ。
彼の顔が良かったのと、恋人に浮気されたんだから、私だって男遊びでもしてやる。なんてしょーもない意地で気が変になっていたのだ。
そこから記憶がない。でもここはラブホテルで、彼も私も裸でベッドにいるのだから、そういうことなのだろう。
思い出しただけで自己嫌悪に陥る。昨日の私は完全にただの痴女だった。
「はぁ……」
ため息をついて、眠ったまま私に抱きついてる彼をそっと引き剥がして服を着る。勢いに任せて、奥手そうな年下くんの童貞を奪ってしまった申し訳なさから、財布を漁って諭吉を数枚出す。
それらのお金と、「昨日は完全に酔っていました。お願いですから、一夜の過ちとして忘れてください。それから、嫌な思いをさせていたら本当に申し訳ございません。ホテル代と奢っていただいたバーの代金とお詫び金を置いておきます」と書いた手紙をテーブルに置いてそっとホテルを出る。
雲1つない青空。照りつける太陽。
そんな爽やかな真昼間に包まれていると、恋人に裏切られ、それから一夜の過ちを犯してしまった残念な自分が、余計に浮き彫りになるような気がする。
そのまま私は、昨日起こった辛いことや間違いを忘れるために、ATMでお金を下ろして、1人でカラオケやショッピングを楽しんだ。
それから家に帰った。
家のドアを開けると、そこには信じられない光景があった。
「おかえりなさい。どうして僕を置いて帰ったんですか?今日は特に予定とかなかったですよね?」
「えっ……?」
家の中に、彼がいた。昨日ホテルで過ちを犯してしまった相手である、彼が。
「ああ、すみません。そういえば、お金返さないとですよね。僕はやっと貴方と繋がれてすごく嬉しくて、むしろお礼代も払いたいくらいなのに、こんなの受け取れませんよ」
そう言って彼は、私が置いておいたお金を差し出してくる。
違う。私が聞きたいのはそんなことじゃない。
「何で……うちにいるんですか……?」
「え?何でそんなに驚いてるんですか?もしかして、恋人が先に帰っちゃったら、家で待つのってそんなに変でしたか?すみません。僕、交際経験がないので、そこらへんの常識がなくて……」
もしかしたら、酔っていたから記憶がないだけで、私は彼に「付き合って」と言ったのかもしれない。彼は私の手紙に気付かなくて、そのまま私の告白を間に受けたままなのかも。
でも、もしそうだったとしても、昨日会ったばかりなのに、どうして私の家を知っているの?
酔って彼に家を教えたのだろうか。仮にそうだとしても、何で鍵を開けられたの?出かける前に戸締りができてなかったとか?
「あの……私、もしかして貴方に家を教えたんですか……?もしかして、鍵、閉め忘れてたんですかね……?」
「いえ。昔から貴方の家は知ってましたし、貴方が寝ている間に合鍵を作らせてもらったんですよ。だって、恋人同士は合鍵を持ってるのが普通でしょう?僕の家の合鍵も作ったので、今お渡ししますね」
彼は自分のバッグを漁りながら、「勇気を出して、バーまでついていってよかったなぁ……」なんてつぶやいている。
確信した。彼は私のストーカーだったのだ。一緒のバーにいたのも、ただの偶然なんかじゃなくて、私の跡をつけていたのだ。
「ごめんなさい……。その……昨日は本当に酔っていたんです……。だから……その……もしかしたら私は貴方に告白したのかもしれませんが……それは……その……間違いで……」
体が震える。彼を刺激しないよう、恐怖で動かない頭を必死に働かせて言葉を紡ぐ。
けれど、彼は信じられないという顔をして、私の肩を強く掴む。
「間違い……?何でそんな酷いこと言うんですか……!?あんなことまでしたのに……。責任を取ってくれないんですか!?もしかして……僕のこと……弄んだんですか……!?」
そのまま彼は私を抱き寄せてキスをしてくる。
「やめっ……!たすけ……!」
「ちょっと……『助けて』なんて言われたら、勘違いで警察呼ばれちゃうじゃないですか……」
彼のネクタイで口を塞がれて、そのままベッドに押し倒される。
「手紙見ましたよ。一夜の過ち……?違うでしょう?一夜で終わりじゃなくて、これからも毎晩しましょう♡それから、僕を選んだのは過ちなんかじゃなくて、大正解です♡だって僕は、貴方の元彼と違って浮気なんかしないですから♡」
「んっ……んむっ……」
否定しようとしてもネクタイで塞がれた口は、何も言葉を発せない。
「子供が出来たら、流石に貴方も認めてくれますかね?」
「んぅっ……んぅっ……」
「貴方は僕と一緒にいるのが大正解なんです♡これからは……毎晩大正解でいましょうね♡」
誰も助けてくれない。私はただ、彼にされるがままになるしかなかった。
たった一度の過ちが、人生を壊すこともあるのだ。
昨日、私は恋人の浮気が発覚したショックから、行きつけのバーでヤケ酒をした。その時たまたま隣にいた男性が慰めてくれて、大量に酒を飲んだ私の分の会計を支払ってくれた。
飲みの席の赤裸々な話で、彼は恥ずかしそうに、「恋人がいたことがない」なんて言うもんだから、「お世話になったお礼に、貴方の童貞を卒業させてあげる」なんて言ってしまったのだ。
彼の顔が良かったのと、恋人に浮気されたんだから、私だって男遊びでもしてやる。なんてしょーもない意地で気が変になっていたのだ。
そこから記憶がない。でもここはラブホテルで、彼も私も裸でベッドにいるのだから、そういうことなのだろう。
思い出しただけで自己嫌悪に陥る。昨日の私は完全にただの痴女だった。
「はぁ……」
ため息をついて、眠ったまま私に抱きついてる彼をそっと引き剥がして服を着る。勢いに任せて、奥手そうな年下くんの童貞を奪ってしまった申し訳なさから、財布を漁って諭吉を数枚出す。
それらのお金と、「昨日は完全に酔っていました。お願いですから、一夜の過ちとして忘れてください。それから、嫌な思いをさせていたら本当に申し訳ございません。ホテル代と奢っていただいたバーの代金とお詫び金を置いておきます」と書いた手紙をテーブルに置いてそっとホテルを出る。
雲1つない青空。照りつける太陽。
そんな爽やかな真昼間に包まれていると、恋人に裏切られ、それから一夜の過ちを犯してしまった残念な自分が、余計に浮き彫りになるような気がする。
そのまま私は、昨日起こった辛いことや間違いを忘れるために、ATMでお金を下ろして、1人でカラオケやショッピングを楽しんだ。
それから家に帰った。
家のドアを開けると、そこには信じられない光景があった。
「おかえりなさい。どうして僕を置いて帰ったんですか?今日は特に予定とかなかったですよね?」
「えっ……?」
家の中に、彼がいた。昨日ホテルで過ちを犯してしまった相手である、彼が。
「ああ、すみません。そういえば、お金返さないとですよね。僕はやっと貴方と繋がれてすごく嬉しくて、むしろお礼代も払いたいくらいなのに、こんなの受け取れませんよ」
そう言って彼は、私が置いておいたお金を差し出してくる。
違う。私が聞きたいのはそんなことじゃない。
「何で……うちにいるんですか……?」
「え?何でそんなに驚いてるんですか?もしかして、恋人が先に帰っちゃったら、家で待つのってそんなに変でしたか?すみません。僕、交際経験がないので、そこらへんの常識がなくて……」
もしかしたら、酔っていたから記憶がないだけで、私は彼に「付き合って」と言ったのかもしれない。彼は私の手紙に気付かなくて、そのまま私の告白を間に受けたままなのかも。
でも、もしそうだったとしても、昨日会ったばかりなのに、どうして私の家を知っているの?
酔って彼に家を教えたのだろうか。仮にそうだとしても、何で鍵を開けられたの?出かける前に戸締りができてなかったとか?
「あの……私、もしかして貴方に家を教えたんですか……?もしかして、鍵、閉め忘れてたんですかね……?」
「いえ。昔から貴方の家は知ってましたし、貴方が寝ている間に合鍵を作らせてもらったんですよ。だって、恋人同士は合鍵を持ってるのが普通でしょう?僕の家の合鍵も作ったので、今お渡ししますね」
彼は自分のバッグを漁りながら、「勇気を出して、バーまでついていってよかったなぁ……」なんてつぶやいている。
確信した。彼は私のストーカーだったのだ。一緒のバーにいたのも、ただの偶然なんかじゃなくて、私の跡をつけていたのだ。
「ごめんなさい……。その……昨日は本当に酔っていたんです……。だから……その……もしかしたら私は貴方に告白したのかもしれませんが……それは……その……間違いで……」
体が震える。彼を刺激しないよう、恐怖で動かない頭を必死に働かせて言葉を紡ぐ。
けれど、彼は信じられないという顔をして、私の肩を強く掴む。
「間違い……?何でそんな酷いこと言うんですか……!?あんなことまでしたのに……。責任を取ってくれないんですか!?もしかして……僕のこと……弄んだんですか……!?」
そのまま彼は私を抱き寄せてキスをしてくる。
「やめっ……!たすけ……!」
「ちょっと……『助けて』なんて言われたら、勘違いで警察呼ばれちゃうじゃないですか……」
彼のネクタイで口を塞がれて、そのままベッドに押し倒される。
「手紙見ましたよ。一夜の過ち……?違うでしょう?一夜で終わりじゃなくて、これからも毎晩しましょう♡それから、僕を選んだのは過ちなんかじゃなくて、大正解です♡だって僕は、貴方の元彼と違って浮気なんかしないですから♡」
「んっ……んむっ……」
否定しようとしてもネクタイで塞がれた口は、何も言葉を発せない。
「子供が出来たら、流石に貴方も認めてくれますかね?」
「んぅっ……んぅっ……」
「貴方は僕と一緒にいるのが大正解なんです♡これからは……毎晩大正解でいましょうね♡」
誰も助けてくれない。私はただ、彼にされるがままになるしかなかった。
たった一度の過ちが、人生を壊すこともあるのだ。
91
お気に入りに追加
63
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる