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本編
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風邪を引いたらしい。
せっかくの盆休みだというのに、最悪だ。
高熱が出ていて、一人暮らしの身にはあまりにも心細い。
彼氏に連絡しても既読がつかない。帰省中とはいえ、婚約までしてる彼女なんだから、私からメッセージが来てないかもっと頻繁に確認してくれればいいのに。
本当に最悪。1人だと心細い。
止まらない咳。下がらない熱。
大袈裟だけど、死んじゃうんじゃないかって怖くなる。
思考が悪い方向に向かっている。そんな気持ちを打ち消すためにも、必死に目を瞑って寝ようとする。
しばらくすると、ふと額に冷たい手が当たる。
驚いて目を覚ますと、そこには、私のストーカーがいた。
「おはよう」
「えっ……?はぁっ……!?何であんたが私の家にいるのよ!?」
「いや……だって……君が体調悪そうにしてたから……」
私のストーカーは悪びれもせずにそのまま私の額に手を置き続ける。
前から思ってたけど、こいつは本当に頭がおかしい。
彼氏ができたと言ってもしつこくストーカーしてきた。1回逮捕されたこともあるのに、それでも諦めずに私のことを追い続けているのだ。
「てか手、冷たくない!?何でそんな冷たいの!?」
「君の熱を冷ますために、手を冷水で冷やしまくったんだ」
こいつ、本当にバカなんじゃないの……?
「バカ。そんなことするくらいなら冷却シートとか買ってきなさいよ」
「ごめんごめん。僕自身で君を救いたかったんだ」
「気持ち悪……。何かあんたといると悪寒がして熱が下がる気がする……」
「僕のお陰で快方に向かってるみたいだね。僕が一緒にいて良かったでしょ?」
はあ……。ポジティブもここまでいくと病気だわ。早く頭の病院に行くべきだと思う。
このイカれたストーカーはせっせと私を看病してくる。こいつもたまには役に立つもんだ。
熱はどんどん上がっていく。意識が遠のいていく。
ストーカーは、苦しそうにしている私を心配そうな表情で抱きしめてくる。
今の私にはこいつを跳ね除ける元気もない。
ただされるがまま抱きしめられている。
彼氏が見たら何て言うだろうか、なんて考えていたところで気付く。
私を抱きしめるこいつの身体は、酷く冷たいのだ。
「あんた……なんか冷たくない……?」
「そんなことないよ?」
「いや、おかしいでしょ……。まるで……死んでる……みたい……」
身体が震える。
今度はこいつが気持ち悪いからなんかじゃない。
もっと、本能的な恐怖。
自分でもおかしなことを言っていると思っていたのに、彼は気にすることもなく、笑顔でとんでもないことを口にする。
「バレちゃったなら仕方ないな。僕さ、実はもう死んでるんだよね」
「えっ……?」
「事故でね。崖から落ちちゃったんだ……」
気付くと私の目からは涙が溢れていた。
こんな奴でも、死んでしまったら悲しいのだ。
「もしかして……泣いてる……?僕の死を悼んでくれてるの……?」
「当たり前でしょ……。そんな……誰だって身近な人間が死んだら悲しいわ。生前のあんたは、ストーカーで気持ち悪かったけど……それでもあんたが死んだのは悲しい……」
気持ち悪かったけど、死んで欲しいわけじゃなかった。
そんな私の悲しみを気にもせず、ストーカーは「君が僕が死んだことを悲しんでくれるなら、死んだ甲斐があったよ!」なんて喜んでいる。死んでも変わらないところが、呆れるような寂しいような気がした。
「死んじゃったけどさ、君の熱が治るまで、僕はずっとここにいるよ。今がお盆で、現世に帰って来られる時で本当によかった」
「ありがとう。正直心細かったから、あんたがいてくれて良かったよ。キモいストーカーでも、誰もいないよりはマシ」
「ははっ。お礼言われてるのか貶されてるのか分かんない」
こいつがあの世に戻ったら、線香の1つでもあげてやろう。
身近な人間が死んでしまったのは悲しいし、それに、こいつは今、私のことを助けてくれているのだから。
「でも意外。あんたのことだから、早く自分のところに来て欲しいからって、私のことを道連れにでもすると思ってた」
「酷いなぁ……。僕のことそんな考えなしだと思ってたの?」
「うん」
「そんな……今君が死んだら困るよ……」
「まあ、私も困る。まだ若いし、死ぬには早過ぎるしね」
そう言って、彼女は笑った。
うん。僕も今君に死なれたら困るんだ。
だって、今君が死んでしまったら、君は地獄に落ちてくれないでしょ?
僕ね、生前悪いことをしたんだ。
君の婚約者を殺したの。
その時に、僕も相討ちになっちゃったんだ。あいつは最期の力を振り絞って、自分の死後も彼女の身を守るために、僕のことも巻き込んで崖から落ちていった。
君と一緒に生きていくために、邪魔者を排除するつもりだったのに、死んでしまったのは誤算だったよ。
そんなこんなで、神様の怒りを買って、地獄に落ちちゃった。
でも僕ね、死んじゃったけど、代わりに何でか君の未来が見えるようになったんだ。これも君への愛がなせる技かな?
僕が見た未来によると、君はこれから数日以内にあいつの死を知るんだ。
そして君は、大好きな婚約者が亡くなったことに絶望して、悩みに悩んだ末、自ら死を選ぶんだ。
ねえ、君は知らないでしょ?
自殺した人間って、天国には行けなくて、地獄に落ちるんだよ。
あいつは、正当防衛だったからか、地獄には落ちないみたいだから、大好きなあいつとは離れ離れになるね!
そして、僕とは一緒になれるんだ!♡現世では結ばれなかったけど、地獄で結ばれようね!♡
だからね、早くこの世に絶望して地獄に落ちてね。
それまで僕は、君の最期が変わらないように、ずーっと守ってあげるから♡
せっかくの盆休みだというのに、最悪だ。
高熱が出ていて、一人暮らしの身にはあまりにも心細い。
彼氏に連絡しても既読がつかない。帰省中とはいえ、婚約までしてる彼女なんだから、私からメッセージが来てないかもっと頻繁に確認してくれればいいのに。
本当に最悪。1人だと心細い。
止まらない咳。下がらない熱。
大袈裟だけど、死んじゃうんじゃないかって怖くなる。
思考が悪い方向に向かっている。そんな気持ちを打ち消すためにも、必死に目を瞑って寝ようとする。
しばらくすると、ふと額に冷たい手が当たる。
驚いて目を覚ますと、そこには、私のストーカーがいた。
「おはよう」
「えっ……?はぁっ……!?何であんたが私の家にいるのよ!?」
「いや……だって……君が体調悪そうにしてたから……」
私のストーカーは悪びれもせずにそのまま私の額に手を置き続ける。
前から思ってたけど、こいつは本当に頭がおかしい。
彼氏ができたと言ってもしつこくストーカーしてきた。1回逮捕されたこともあるのに、それでも諦めずに私のことを追い続けているのだ。
「てか手、冷たくない!?何でそんな冷たいの!?」
「君の熱を冷ますために、手を冷水で冷やしまくったんだ」
こいつ、本当にバカなんじゃないの……?
「バカ。そんなことするくらいなら冷却シートとか買ってきなさいよ」
「ごめんごめん。僕自身で君を救いたかったんだ」
「気持ち悪……。何かあんたといると悪寒がして熱が下がる気がする……」
「僕のお陰で快方に向かってるみたいだね。僕が一緒にいて良かったでしょ?」
はあ……。ポジティブもここまでいくと病気だわ。早く頭の病院に行くべきだと思う。
このイカれたストーカーはせっせと私を看病してくる。こいつもたまには役に立つもんだ。
熱はどんどん上がっていく。意識が遠のいていく。
ストーカーは、苦しそうにしている私を心配そうな表情で抱きしめてくる。
今の私にはこいつを跳ね除ける元気もない。
ただされるがまま抱きしめられている。
彼氏が見たら何て言うだろうか、なんて考えていたところで気付く。
私を抱きしめるこいつの身体は、酷く冷たいのだ。
「あんた……なんか冷たくない……?」
「そんなことないよ?」
「いや、おかしいでしょ……。まるで……死んでる……みたい……」
身体が震える。
今度はこいつが気持ち悪いからなんかじゃない。
もっと、本能的な恐怖。
自分でもおかしなことを言っていると思っていたのに、彼は気にすることもなく、笑顔でとんでもないことを口にする。
「バレちゃったなら仕方ないな。僕さ、実はもう死んでるんだよね」
「えっ……?」
「事故でね。崖から落ちちゃったんだ……」
気付くと私の目からは涙が溢れていた。
こんな奴でも、死んでしまったら悲しいのだ。
「もしかして……泣いてる……?僕の死を悼んでくれてるの……?」
「当たり前でしょ……。そんな……誰だって身近な人間が死んだら悲しいわ。生前のあんたは、ストーカーで気持ち悪かったけど……それでもあんたが死んだのは悲しい……」
気持ち悪かったけど、死んで欲しいわけじゃなかった。
そんな私の悲しみを気にもせず、ストーカーは「君が僕が死んだことを悲しんでくれるなら、死んだ甲斐があったよ!」なんて喜んでいる。死んでも変わらないところが、呆れるような寂しいような気がした。
「死んじゃったけどさ、君の熱が治るまで、僕はずっとここにいるよ。今がお盆で、現世に帰って来られる時で本当によかった」
「ありがとう。正直心細かったから、あんたがいてくれて良かったよ。キモいストーカーでも、誰もいないよりはマシ」
「ははっ。お礼言われてるのか貶されてるのか分かんない」
こいつがあの世に戻ったら、線香の1つでもあげてやろう。
身近な人間が死んでしまったのは悲しいし、それに、こいつは今、私のことを助けてくれているのだから。
「でも意外。あんたのことだから、早く自分のところに来て欲しいからって、私のことを道連れにでもすると思ってた」
「酷いなぁ……。僕のことそんな考えなしだと思ってたの?」
「うん」
「そんな……今君が死んだら困るよ……」
「まあ、私も困る。まだ若いし、死ぬには早過ぎるしね」
そう言って、彼女は笑った。
うん。僕も今君に死なれたら困るんだ。
だって、今君が死んでしまったら、君は地獄に落ちてくれないでしょ?
僕ね、生前悪いことをしたんだ。
君の婚約者を殺したの。
その時に、僕も相討ちになっちゃったんだ。あいつは最期の力を振り絞って、自分の死後も彼女の身を守るために、僕のことも巻き込んで崖から落ちていった。
君と一緒に生きていくために、邪魔者を排除するつもりだったのに、死んでしまったのは誤算だったよ。
そんなこんなで、神様の怒りを買って、地獄に落ちちゃった。
でも僕ね、死んじゃったけど、代わりに何でか君の未来が見えるようになったんだ。これも君への愛がなせる技かな?
僕が見た未来によると、君はこれから数日以内にあいつの死を知るんだ。
そして君は、大好きな婚約者が亡くなったことに絶望して、悩みに悩んだ末、自ら死を選ぶんだ。
ねえ、君は知らないでしょ?
自殺した人間って、天国には行けなくて、地獄に落ちるんだよ。
あいつは、正当防衛だったからか、地獄には落ちないみたいだから、大好きなあいつとは離れ離れになるね!
そして、僕とは一緒になれるんだ!♡現世では結ばれなかったけど、地獄で結ばれようね!♡
だからね、早くこの世に絶望して地獄に落ちてね。
それまで僕は、君の最期が変わらないように、ずーっと守ってあげるから♡
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