陰キャストーカー男の受難

名乃坂

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本編

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日高は、お洒落なケーキ屋さんの前に立っていた。
もちろん、日高がこんなお店に自分から行くことはない。そう、昨日、愛しの彼女がこの店でケーキを食べていたのを見かけたからだ。これは日高なりの聖地巡礼なのである。
(気になるけど、ちょっと入りにくいな……。店員さん、全員髪の色明るいし……ピアスしてるし……)
将来彼女と結婚する時のために、彼女の味覚を調査することは大切だ。
そう、日高は努力家なのだ。幼い頃から、祖父母を喜ばせるために料理の練習をし、下手だった某対戦ゲームも練習を重ね、今じゃかなりの腕前だ。もっとも、ぼっちな上に何となくオンライン対戦が苦手なため、基本はNPCと戦っているだけなのだが。

じっと店内を見つめていた日高だったが、あまりにも陽のオーラが漂っている店内を前に、思わず踵を返す。そのまま駅に戻る……はずだった……。

「いらっしゃいませー!」

何と、突然店のドアは開かれ、店員が挨拶をしてきたのだ。

「1名様でよろしいですか?」
「えっ……あっ……」
「当店のおすすめはモンブランです!」
「そっ……そうなんですね……」

日高はたじろぐ。だが、そんな日高を気にする様子もなく、店員は日高を店内に招き入れる。

「1名様いらっしゃいましたー!!!」

店員が店内に響き渡るほどの大声で日高の来店を告げると、拍手が上がり、店員が全員、元気な声で「いらっしゃいませ!!!」と続く。
厨房から、客席から、日高に向かって強い視線が注がれる。
本人に自覚はないが、日高の顔は世間一般から見て整っている方なのだ。
好きな子が出来てから、少しずつおしゃれを覚えた。(マネキンと同じ服を買っているだけだが。)昔の日高なら、垢抜けなさのせいで気付かれなかった顔の良さが今は周りにもバレバレだ。だから、店内の女性達は、みんな好意的な目で日高を見ていた。
だが、陰キャな日高にそんなことが伝わるはずがない。
(見られてる……。やっぱりこんなおしゃれなお店に入るべきじゃなかったんだ……。帰りたい……)
「どちらの席になさいますかー?」
「あっ、こちらの席でお願いします……」

流石ストーカー。こんな時も、好きな子が座っていた席に座ることだけは忘れない。

そのまま日高は席に座る。好きな子が座った席だと思うと、先程削れたSAN値も回復していくのを感じる。

「ご注文はどちらになさいますか?当店のおすすめはモンブランです!」

この店員、妙に押しが強い。モンブランがおすすめなのは、日高にもとっくに伝わっているだろうに。

「あっ……えっと……モンブランと……ハーブティーでお願いします……」

消え入りそうな声で注文をする。このオーダーも、しっかり好きな子が注文していたものと同じである。

「モンブランとハーブティーですね!お飲み物は食後にお持ちしますか?」
「えっと……食前で……」
「かしこまりました!」

店員は厨房に向かう。何とか注文を終えて安心したのも束の間、何故か日高の席に戻ってきた店員は、続けて日高に話しかけてくる。

「学生さんですか?」
「えっ……は……はい……」
「えー!私も学生なんですよ!近くの大学だったりします?どこ大ですか?」

個人情報を根掘り葉掘り聞かれる。
日高は、何故ただの客にここまで聞いてくるのかと、恐怖を感じ始めた。無論、日高が勝手に特定している好きな子の情報の方が遥かにやばいのだが。

店員はあまりにも受け答えが弱々しい様子の日高の対応に困ったのか、別の客席に向かう。
日高は安心して店内を見回す。この店は、店員と客の距離が近いようだ。

「お待たせしました!ショートケーキとキャラメルラテです!」

さっきと違う店員が持ってきたそれらは、明らかに注文したものと違った。

「えっ……」

日高は困惑した。違う人のメニューと間違われていると思ったからだ。

「どうぞ!」
「あっ……ありがとうございます……」

違うのに、堂々とした店員の態度に思わずお礼を言って受け取ってしまう。
日高は、甘いものは好きだけれど、甘いケーキ×甘い飲み物は合うのだろうかと不安になっていた。普段のおやつタイムは、緑茶と羊羹を食する日高には、少し胃もたれするメニューではなかろうか。

「ちょっと、愛梨沙ちゃん、注文間違えてるよ」
「えっ?ほんとですか~?」
「愛梨沙さんはうっかりさんですからね~」

アハハ!と店内が笑い声に包まれる。店員だけならまだしも、客までもみんな笑っているのである。

「失礼しました!すぐにお持ちしますね!」
「お……お気遣いなく……」
そう言って厨房に戻ったのも束の間、また店員は日高の元に戻ってきた。
「お待たせしました!チョコレートケーキとルイボスティーです!」
その瞬間、また店内に笑いが溢れる。日高は笑顔の人達に囲まれる。
日高は、昔ネット記事で見た、カルト集団のことを思い浮かべていた。
間違いに気付いた店員は、また厨房へと向かう。そして、またすぐに日高の席へと戻る。

「お待たせしました!モンブランとカフェラテです!」

その瞬間、店内に一際大きな笑いが訪れる。

「愛梨沙ちゃん、間違えすぎ~!笑」
「私もうだめ~!笑」
「愛梨沙さん、大丈夫ですか~?笑」
「ほら、流石に次間違えたらお客さんもお怒りだよこれは~笑 仏の顔も三度までだよ笑」

日高は、この異様な空間でどうすることもできなかった。
ただただ、引き攣った笑顔でその場をやり過ごしていた。
その後のことはあまり記憶がない。

帰宅後、風呂を済ませると、疲れた心を癒すように、ベッドの中で愛しい想い人の写真を眺める。
そして、しばしの癒しタイムを終えると、今日新たに撮った彼女の写真と、新たに録音した彼女の音声をフォルダ分けし、新たに得た彼女の情報をエクセルにまとめる。
(思い出は大切に保管しておかないと……)
日高のマメな性格はあまりにもストーカーに向いていた。ターゲットにされた彼女が不憫でならない。
(それにしても……あの店怖かったな……。もしかしたら、彼女も怖かったかもしれない……。友達といたから大丈夫だったとは思うけど……)
そこまで考えたところで、日高は立ち上がる。
(そうだ!モンブランを作る練習をしよう!あのお店と同じようなものが作れれば、彼女もあの店じゃなくて、僕の家に来てくれるかもしれない!)
そんなわけないだろう。
だが、そんなツッコミはこの愛の追跡者には届かないのである。

90分後、店顔負けの美味しそうなモンブランが出来上がる。
このストーカー、料理が上手いのである。それから、掃除も得意で簡単なものであれば服の修繕もできる。花嫁修行をした箱入り娘顔負けの家事スキルを持っているのである。どうしてこんな末期の変態ストーカーに、その才能が宿ってしまったのか。
(できた!いつか彼女に食べさせてあげたいなぁ♡)
その日が来るのはまだまだ先のことである。
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みんなの感想(1件)

ゴリゴリ@陰キャピンク

めちゃくちゃ最高です!あの子ちゃんの為に情報収集するヤンデレくん最高です!

解除

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