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26.魔力譲渡

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学園に編入してから三か月が過ぎた。
エレーナ様が守ってくれていることもあり、
シルヴィ様にからまれた以来、特に問題はない。

初めての定期試験も終わり、結果はエレーナ様に次いで二位の成績だった。
エレーナ様に負けたというよりも、魔術実技の試験が受けられなかったので、
その分加点がなかったからだ。

魔術院に所属している魔術師は魔術の授業を受けなくていい。
それはわかっているけれど、少しだけ残念だった。

魔術を学び始めてから四か月ほど。
まだ一度も魔術を使ったことがない。
ジルベール様に止められているためだが、
そろそろ使ってみてもいいんじゃないだろうか。

昼食の後で定期試験の結果を報告しながら、
魔術を使わせてもらえないことを聞いてみる。

「どうしてまだ魔術を使ってはダメなんですか?」

「あぁ、言ってなかったか。
 お前の魔力はそれ以上増えないんだ。
 何かの魔術式の影響が残っていて、
 自己回復するのと同じくらい魔力を消費している。
 今、シャルが魔力を使ってしまえば、
 また身体が小さくなってしまうぞ」

「え?魔力が増えない?」

「そうだ。放っておけば数日でまた三歳の大きさに戻るぞ」

「えええ?また小さくなるかもしれないんですか?
 でも、なんともないですけど……?」

「それは俺が魔力譲渡しているからだ。
 小さくならないように毎晩キスしているだろう?」

え?そんな理由だったって、聞いてないんですけど。
それじゃあ、あの毎晩キスでふにゃふにゃにされるのは魔力を渡すため?
あれにはちゃんと理由があったんだ。

婚約者だからキスされているんじゃなかったんだ。
単に魔力譲渡のためだったとわかり、心の中がもやもやする。
あんなにキスされるのは好かれているからかもと思っていたのに、
私の勘違いだったんだとさみしくなった。

「それは……毎晩お手数おかけしてすみません。
 あれは魔力譲渡のためだったんですね」

「いや、魔力のためなら一回か二回すればいいし、
 手をつなぐだけでもできるんだけどな」

「は?」

「魔力譲渡が必要なくてもしているのは、
 シャルが可愛いせいだ」

「え?」

私が可愛い?その言葉を理解したとたん、
顔が熱くなってジルベール様の胸に顔を隠す。

「怒ったのか?」

「……怒ってません。恥ずかしいだけです」

「怒ってないならいいか」

「ジルベール様、あまりシャル様を困らせないでくださいね」

「困らせるつもりなかったんだが。
 婚約者ならあの程度のふれあいは大丈夫だと思ったんだ」

「するのは構いませんけど、人前で話すのはおやめくださいね」

「そういうものか。わかった」

マリーナさんに注意されて、ジルベール様は首をかしげながらもうなずく。
ジルベール様は私をからかったわけじゃないんだろうけど、
羞恥心というものが少し欠けている気がする。

「ジルベール様、来月の夜会ですが、
 シャル様のドレスを用意してもよろしいでしょうか?」

「あぁ、来月の夜会にはシャルも出席させる。
 俺の婚約者として公表しよう」

「ええ?……大丈夫なんですか?」

ジルベール様の婚約者だとシルヴィ様とドリアーヌが噂されている。
そんな中、私が婚約者として夜会に出席したらどうなるのか。

「問題ない。その日で全部、方がつく」

ジルベール様はあっさり大丈夫だというけれど、
私を婚約者だと公表して文句は言われないだろうか。
学園に通うのにもベールが必要なのに、
夜会でも髪を隠して出席するのかな。

エクトル様に言われたことを思い出す。
ジルベール様が黒に呪われてると言いふらすと言っていた。

あれは本気だったと思う。
社交界で噂になっているだろうか。
エクトル様は私が小さいところしか見ていないから、
婚約者が私だとは思っていないだろうけど。

不安はあるけれど、マリーナさんにドレスを縫ってもらい、
夜会に出る準備がすすめられる。

そうして夜会の日になり、夜会用のドレスに着替える。
ジルベール様の目のように美しい緑色。
胸から腰にかけて金糸で小さな薔薇が刺繍されている。

「マリーナさん、ドレス用のベールは?」

「いえ、ジルベール様が今日は髪を隠さなくていいと。
 猫耳は髪を編んでその上から髪飾りをつけましょう」

「え?髪を隠さなくていいの?騒ぎになってしまわない?」

「ええ、大丈夫ですよ。
 ジルベール様を信じましょう?」

「…………はい」

髪の上部を編みこまれ、造花がついた髪飾りをつけられる。
猫耳は見えなくなったけれど、黒髪が胸元にさらりと落ちてくる。
いつもなら目立たないようにまとめてベールで隠している。
本当にこのまま夜会に出席するんだろうか。

正直言って不安でしかないけれど、
ジルベール様を信じてと言われたらうなずくしかない。

準備ができたら馬車で王宮へと向かう。
さすがにドレス姿ではひざの上にのせられないのか、
ジルベール様の隣に座った。

黒のタキシード姿のジルベール様は素敵で、
見とれてしまいそうになるけれど、
それでもベールがないことが不安で仕方ない。

「シャル」

「……はい。んぅ?」

うつむいていたら、上を向かせられて長いキスをされる。
魔力譲渡かと思ったけど違うようだ。

「うつむいたら、その度にキスしよう」

「ええ?」

「人前でキスされるのは嫌なんだろう?
 だったら、ちゃんと前を向いておくんだな」

「ええぇ……わかりました」

ジルベール様が本気で言っているのがわかって、何度もうなずく。
もう二度とうつむいたりしないと誓ったら、
ジルベール様がにやりと笑う。

「心配するな。もう黒色に文句を言わせたりはしない」

「はい……」




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