上 下
101 / 142
聖女の旅立ち

16.事の後で(一花)

しおりを挟む
久しぶりの爽快感で目が覚めたら、隣に裸の男が寝ていた。

「はぁ?」

おもわず低い声が出た。
自分自身も何も着ていないのに気が付いて、血の気が引いていく。
なんでこんなことになった?どう考えてもやっちゃってる。
身体のあちこちが痛んで、普通の状態じゃないのを感じる。

ぐっすり寝てる…これ、王子だよね。

隣で寝ている男を見ると、水色の手入れされた髪と色白の毛穴なんて無さそうな肌。
寝ている横顔だけでも完璧王子様のカイラン王子に腹が立ってきた。
何のんきに寝てんのよ…。

「ちょっと、これどういうことよ。」

「…ん?あぁ、起きたのか。身体の調子はどうだ?」

「身体?あぁ、そういう気づかいはいらない。処女ってわけじゃないから。」

変に気遣われるのは嫌でそっけなく答えたら、王子の顔色が変わる。

「は?お前、誰としたんだ。恋人がいたのか?」

いきなり機嫌が悪くなった王子にいらないことを言ったかと思ったけれど、
恋人でもない王子にそんな風に責められるいわれはない。

「誰って、幼馴染。練習相手になってあげただけよ。
 恋人とかそういうんじゃない。」

「イチカ、お前馬鹿なのか?」

「馬鹿って何よ。」

「なぜ恋人でもない男に身体を許した。」

「恋人なんて作るつもりがなかったんだから、どうでもいいじゃない。
 それよりも、なんでこんなことになってるか説明して。」

私の経験とかどうでもいい。まずは説明しろ。
にらみつけながら訴えると不機嫌なのは変わらずに話をしだす。
この状況に納得できるとは思えないけど、
どうして王子とこうなったのかは聞かなきゃいけない。

「イチカ、ここのところずっと体調が悪かっただろう。」

「体調?あぁ、ぐったりはしてたけど、どこか悪いとかそういうのはないよ。
 ただやる気がでなかったっていうか、動きたくなかったっていうか。」

「それは魔力不足だったからだ。」

「魔力不足?……私、魔力なんてあったの?」

「無いよ。」

「じゃあ、無いのに不足っておかしくない?
 元から無いものなんでしょう?」

悠里のように聖女だっていうならともかく。
私は普通の人間なんだし、と思ったけど、私って聖女だと思われていたんだった。
でも、あれ?今、私には魔力が無いって言わなかった?


「……イチカ、俺はお前が聖女じゃないのは知っていた。」

「は?」

じゃあ、なんで私を解放してくれなかったの?
聖女だからって後宮に入れるために連れてこられたんじゃなかったの?
普通の人間なら連れてくる意味ないじゃない。

「言いたいことはあるだろうが、まずは最初から説明させてくれ。
 まず、イチカがここに連れてこられた時、
 父上の後宮じゃなくここに置いたのは俺の指示だ。
 父上には聖女を守るためだなんだと言い訳したが、
 本当は他国から攻め込まれない様にこっそり帰すつもりだった。」

あぁ、聖女を連れ去るなんてバレたら戦争だって言ってた。
じゃあ、私を帰すために保護してくれていたのか。

「でも、俺には俺の情報網というものがあってな。
 調べてみたらお前は聖女じゃなく寄生者だった。」

「…きせいしゃ?」

「聖女のように魔力を持つ者の力を吸って、寄生して生きている者のことだ。」

「え。」

「イチカ、それにもう一人の男は、二人ともユウリという聖女に寄生して、
 そのままこの世界に転移してきたと聞いた。
 聖女の害になるから離して幽閉されていたということも。」

きせいって寄生?私が悠里の魔力を吸って生きていた?律も?
…夜会の時に悠里が言っていたのはそういうこと?
何を言っているのかよくわかっていなかったけれど、あれはこういうこと?
でも、私そんなことしてた覚えなんて無い。

「イチカ自体に寄生者としての認識はなさそうだったが、
 自然に周りから魔力を吸い続けていた。
 その魔力を自分の力として使うことに慣れていた。
 おそらく向こうの世界でもずっとその聖女の力を利用していたんだろう。」

「…私は悠里を利用してなんて…。」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

〖完結〗聖女の力を隠して生きて来たのに、妹に利用されました。このまま利用されたくないので、家を出て楽しく暮らします。

藍川みいな
恋愛
公爵令嬢のサンドラは、生まれた時から王太子であるエヴァンの婚約者だった。 サンドラの母は、魔力が強いとされる小国の王族で、サンドラを生んですぐに亡くなった。 サンドラの父はその後再婚し、妹のアンナが生まれた。 魔力が強い事を前提に、エヴァンの婚約者になったサンドラだったが、6歳までほとんど魔力がなかった。 父親からは役立たずと言われ、婚約者には見た目が気味悪いと言われ続けていたある日、聖女の力が覚醒する。だが、婚約者を好きになれず、国の道具になりたくなかったサンドラは、力を隠して生きていた。 力を隠して8年が経ったある日、妹のアンナが聖女だという噂が流れた。 そして、エヴァンから婚約を破棄すると言われ…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 ストックを全部出してしまったので、次からは1日1話投稿になります。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

完璧すぎる王太子に愛されていると思っていたら、自称聖女が現れて私の人生が狂わされましたが、最愛の人との再会で軌道修正を始めたようです

珠宮さくら
恋愛
テネリアという国に生まれた公爵家の令嬢エウリュディケ・グリーヒェンライトは、全てのものに恵まれていた。 誰もが羨むような環境の中にいながら、見た目も中身も完璧なはずの婚約者の王太子に殺意を抱くほど嫌っていた。その顔をエウリュディケが見ると抑えようもないほどの殺意が沸き起こってしまって仕方がなかったが、それをひた隠しにして、相思相愛に見えるように努力を惜しまなかった。 そんな彼女の癒しであり、ストッパーとなっていたのが、幼なじみだったが彼と離れることになってしまい、そこから殺意を抱く理由や色んなことを知ることになっていっぱいいっぱいの中で、突然自称聖女がテネリアに現れ、それでテネリアの人たちがおかしくなっていく。 エウリュディケは次第に追いつめられていくことになるのだが……。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。 それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。 誰にも信じてもらえず、罵倒される。 そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。 実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。 彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。 故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。 彼はミレイナを快く受け入れてくれた。 こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。 そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。 しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。 むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。

殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう
恋愛
 聖女認定の儀式をするから王宮に来いと招聘された、クルード女公爵ハーミア。  数人の聖女候補がいる中、次期皇帝のエミリオ皇太子と婚約している彼女。  周囲から最有力候補とみられていたらしい。  未亡人の自分でも役に立てるならば、とその命令を受けたのだった。  そして、聖女認定の日、登城した彼女を待っていたのは借金取りのザイール大公。  女癖の悪い、極悪なヤクザ貴族だ。  その一週間前、ポーカーで負けた殿下は婚約者を賭けの対象にしていて負けていた。  ハーミアは借金のカタにザイール大公に取り押さえられたのだ。  そして、放蕩息子のエミリオ皇太子はハーミアに宣言する。 「残念だよ、ハーミア。  そんな質草になった貴族令嬢なんて奴隷以下だ。  僕はこの可愛い女性、レベン公爵令嬢カーラと婚約するよ。  僕が選んだ女性だ、聖女になることは間違いないだろう。  君は‥‥‥お払い箱だ」  平然と婚約破棄をするエミリオ皇太子とその横でほくそ笑むカーラ。  聖女認定どころではなく、ハーミアは怒り大公とその場を後にする。  そして、聖女は選ばれなかった.  ハーミアはヤクザ大公から債権を回収し、魔王へとそれを売り飛ばす。  魔王とハーミアは共謀して帝国から債権回収をするのだった。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

処理中です...