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5章 失われた記憶

21.王妃になるもの

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ミランダ王女が私室として使っている客室に向かうと、意外にもすぐに通された。
泣いているか、それを誤魔化すために化粧をする時間が必要かと思っていた。
初めて会うミランダ王女は王女らしく、所作に乱れも無く挨拶を交わした。
少し顔色が悪いが、それも気にしていなければわからないくらいだろう。

「アンジェラ嬢は助かると思う。腕のいい魔術師を連れて来ている。
 ここで話しているうちに連絡が来るかもしれない。」

「…良かった。レオルド様ありがとうございます。」

さすがにアンジェラの容態は気にしていたようで、静かにほうっと息をついた。
多分、ミランダ王女はこの後される話をわかっている。そう思った。

「あまり説明する必要もなさそうだな。」

「アンジェラ様の今後のお話ですわね?」

「ああ。怪我が治り次第、側妃として迎えることになるだろう。
 ミランダ王女もそれでいい?」

「私が決めることではありませんが、意見として聞いてもらえるのであれば、
 いずれ側妃は娶られると知っていましたので、アンジェラ様なら問題ありません。
 あの時アンジェラ様は私を置いて逃げることもできました。
 今の私は他国の王女にすぎません。
 もしアンジェラ様に権力を求める欲があるのなら、
 私がいなくなった方が良かったでしょう。
 助けてくれたのが友人としてなのか、未来の王妃としてなのかはわかりません。
 それでも、とっさに盾になってくれるものを遠ざける気持ちはありません。
 ぜひアンジェラ様を側妃として迎えたいと思います。」

なるほど。18歳ではあるが、きちんと王妃になる心構えはあるらしい。
女性としての気持ちは他にあるかもしれないが、俺が聞くことじゃないよな。

「わかった。おそらく兄貴も議会もそう判断すると思う。
 ミランダ王女との婚姻が済み次第、側妃の話も出ると思うが、
 ケガのこともあるし側妃だから式はせずに後宮に迎えることになるだろう。
 その時は王妃が後宮を采配することになる。
 …まぁ、ミランダ王女は大丈夫そうだな。
 申し訳ないが、リリーアンヌは王宮には顔を出さない。
 何か聞きたいことがあれば兄貴に伝えてくれ。手紙くらいはやり取りできる。」

「かしこまりました。
 リリーアンヌ様とは一度お会いしたかったですが、事情があるのでしょう。
 いつか落ち着いたらお茶をご一緒したいとお伝えください。」

「わかった。
 …兄貴はああ見えて繊細だ。側妃が増えることで悩みも増えるだろう。
 ミランダ王女なら兄貴を助けられると思う。兄貴をよろしく頼む。」

意外だったのか、その言葉にミランダ王女の表情が崩れた。
あぁ、ミランダ王女はきちんと兄貴を見てくれているんだ。
陛下という立場だけじゃなく、兄貴を支えてくれる存在になってくれるといいな。

限界に近いだろうミランダ王女の顔は見ないように軽く挨拶をして部屋を出た。
大丈夫だとは思っているが何が手助けが必要かもしれないと思い、
医術室にいるシーナの様子を見に行くことにした。




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