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5章 失われた記憶

14.前世から

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「俺が記憶が最初に戻ったのは、母親が死んだときだ。
 死んだ母親に泣いてすがっている父親を見て思い出した。
 俺も誰かの死で泣いてすがっていたって…。
 その時はまだエミリを思い出したわけじゃなかった。
 だけど、強烈に誰かを求める気持ちと、強くならなきゃって気持ちがあって。
 魔術師になって、ずっといろんなところへ探しに行った。
 誰を求めているのかわからなくて、でも、探さなきゃいけないって思ってた。
 リリーに会えて、その気持ちが落ち着いたけど、
 まだリリーがその人だとはわかってなくて。
 少しずつ思い出せたのは、リリーに告白する手前くらい。
 リリーと結婚したいって思った時に、エミリと結婚していたことを思いだした。
 全部を思い出したのは、王宮を出てリリーとここで暮らすようになってから。
 離れていたのがつらくて、ようやくリリーに会えたと思ったら、
 ぶわっと記憶が流れ込んできた。
 それで、前世あんな風にエミリを失ったことを知ったんだ。」

王宮から出て、私の所へ戻って来た日。
思い出した。泣きながら私を抱いていた日。だからだったんだ…。
あの後からずっと私を離さないとは思ってたけど、
私がレオから離れたせいだと思っていた。
ずっと前世の記憶を抱えて苦しんでいたんだ…。

「…思い出さなくてごめんなさい。
 レオが苦しんでいたのに気が付かなくて…。」

「いや、それはいいんだ。俺たちは無理に思い出させる気は無かった。
 あんなにつらい思いをさせたのはバルのせいだし、
 俺たちはエミリを助けられなかった。
 記憶の中だとしても、もう一度苦しい思いをさせたくなかった。
 悪夢のことが無かったら、そのまま思い出させずにいたと思う。
 苦しかっただろう?痛かっただろう?助けられなくてごめん…。」

「ううん…私もバルを、レンとララを苦しめてしまってごめんなさい。
 自分の身も子どもの身も何一つ守れなかった。
 無力な自分が苦しかったの。
 リリーになってから魔術を学ぼうと思ったのはきっとそのせいね。
 今度こそ大事なものを守れるようになりたかったんだわ。」

そっと手をお腹にあててしまう。大事な大事な、バルとの子を守れなかった。
必死にかばったけど、何の抵抗もできずに殺されてしまった。
あの時、エミリは生きることをあきらめてしまっていた。
子を守れなかったから、せめて一緒に死んであげようと思っていた。

「リリー。今度はちゃんと俺が、俺たちが守る。
 そのために一緒に生まれ変わって来たんだ。
 子どものことは悲しいよ。
 だからきっと子を作ることから逃げてきたんだと思う。
 子が出来たら思い出してしまうから。」

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