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10.互いの立場

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王妃の私室なのだろう。
奥の部屋に入ると、ソファに座っているのが見えて、声をかける。

「この馬鹿兄貴!いいかげんにしろよ、なぁ?」

びくっとして身体を縮めている、この男が陛下だ。
金髪に碧眼、小柄な体格、何一つ俺とは似ていない兄貴。
横にいる王妃はどうしていいか困っているようだ。
抱きかかえているのが半年前に生まれた王子だろう。

「もういいよな?俺は公爵になるから、後は自分たちでなんとかしろよ。」

「そんな~レオルドがいなかったら、無理だよ。」

「あのな?新婚だからって国王の仕事押し付けて、
 その後も妊娠中だ出産したばかりだと逃げやがって。
 お前が陛下なんだぞ。
 周りにだって、すっかり俺が陛下だと思われてるじゃないか。
 いいかげんにしろっ。」

いや、二人で泣きそうな顔してもダメだぞ。
俺たちの仕事じゃないものを2年も押し付けておいて。

「今、リリーアンヌもいない。
 王妃の仕事もきちんとしてくれよ、義姉さん。」

「えっ。だって、赤ちゃんいるし…。」

「そのために乳母や女官がいるんだろう?
 リリー、もう王宮にいないからな。
 泣き落としで頼もうとしても、会うこと無いからな。」

「そんな…無理よ…。」

「何とかならないのか?レオルド…頼むよ。」

二人に頼まれても、もう無理だ。
リリーがいない。おそらく、リリーは限界だったはずだ。
それが俺の不実を疑うきっかけにもなってる。
もう迷ったりしない。

「嫌だ。俺も、もう王宮から出る。
 自分たちが何とかしないと、この国が滅ぶよ?」

「だから、お前がいてくれれば!」

「だーかーら、俺はもう嫌なんだよ。
 2年も仕事してやったんだから、後は自分たちでなんとかしなよ。
 俺は、王家の血なんて入ってないんだからさ。」


俺は王子とは名ばかりだ。
女王の王配だった父親と、その公妾だった母との間に生まれている。
だから、王家の血は一滴も入っていない。
形だけは王子で、成人するとともに公爵になる予定だった。
こいつらがきちんと仕事してくれていれば、
去年には公爵になって領地にいるはずなのに。

「待って、待ってよ。」

もう言うことは済んだと、後宮から出ようとする。
後ろから兄貴が追いすがってくるが、もう知らん。

「明日、謁見室で貴族たちに公表するから。
 俺は公爵になって王宮には来ない。
 もう王政には一切、関わらない。
 その後どうするかは自分で考えてよ。」

「…!」

肩をつかまれた手をはらって、外に出る。
門番たちが驚いた目で見ている。
先ほどの言葉が聞こえたのかもしれない。
大丈夫、ここに俺を通したことは注意されないと思うよ。
陛下も王妃も、今はそれどころじゃないから。

門番たちに下がるよう命じ、後宮の扉を壊す。
これでもかと粉々に壊してやった。
これで、もう閉じこもる気にもならないだろう。
門番には、ここの番はもうしなくていいと去らせた。


王宮内にいたら誰か泣き落としに来そうだから、また身を隠すことにする。
市井には慣れているから、その辺の問題はない。
明日の昼に召集するように指示を出し、そっと転移する。
リリーを迎えに行けるようになるまで、あと少し。
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