上 下
20 / 29

20.王宮の終わり

しおりを挟む
アーンフェ公爵家の父親と令嬢を呼び出し、
当主の変更を確認できたことで国王は安心しきっていた。

前国王に無理やり決められた結婚した王妃と、
王妃が産んだ王太子と第二王子とは顔を合わせるのも嫌だった。
自分で選んだ妃が産んだ息子ベッティルのことは可愛がっていたが、
どう見ても自分と同じで馬鹿だと思っていた。

家庭教師から逃げ回っているとの報告は聞いていたので、
馬鹿なのは仕方ないとは思っていたが。

そんなベッティルがわざわざ苦労しなくても良いように、
公爵家の婿として結婚できるようにしてやったのに。
まさか自分とは関係のない学園の卒業式典で、
婚約破棄を言い渡すほど愚かだとは思っていなかった。

あの後、ベッティルを呼び出して話を聞けば簡単な話だ。
自分の選んだ女と結婚したいと。イザベラというのがその相手らしい。
いくらなんでも平民の女と結婚したいと言われても難しい。
あきらめさせようかと思ったが、
アーンフェ公爵家のブランカの企みだと言われ、話を聞くことにした。

エルヴィラと婚約破棄をした後は、
アーンフェ公爵家を妹のブランカに継がせ、
イザベラは公爵家の養女とした上でベッティルに嫁がせる。

四大公爵家の娘を嫁にしたとなれば王族として残る権利ができる。
アーンフェ公爵家からの支援も約束されている。

なるほど。それならば許してやってもいいと思った。
聞けばエルヴィラは自分の大嫌いな王妃にそっくりだった。

美人とはいえ、愛想も無く、馬鹿にしたような目で見てくる。
政略結婚だから仕方ないという態度。こっちが嫌だと思っているというのに。
これではベッティルが嫌がるのも無理はない。

国王になれないベッティルでは側妃で好きな女を娶るということもできない。
婚約破棄するのも当然だと思ってしまった。


幸い、話し合いはうまくいった。
これでエミールがアーンフェ公爵になり、その後ブランカを跡継ぎとする。
イザベラを養女に迎え、ベッティルの卒業と同時に結婚させる。
計画が順調にいったのは初めてで、意外と自分も捨てたもんじゃないと笑った。

大事な息子を悲しませずにうまくいった喜びで、
その日の夕食はとっておきのワインを出して楽しんだ。

翌朝、さすがに飲み過ぎたようで頭が重い。
目が覚めたら辺りは暗かった。まだ朝じゃないんだろうか。
呼び鈴を鳴らすと侍従が入ってくる。

「まだ朝じゃないのか?」

「いいえ、とっくに朝になっています。昨日の夕方からひどい大雨で……」

「なに?雨だと?」

エルヴィラが当主変更の儀を行った時は晴天が続いたと言っていたのに。
そう思ったが、一か月もあれば雨の日もあるのが当然だろう。
気にすることなく起きて朝食をとることにした。


いつもどおりに昼過ぎから謁見室に向かう。
何も用はないけれど、行かないと何かあった時に言い訳できない。
一日一回、謁見室に行って変わりはないかと聞いて帰る。
これが国王としての唯一の仕事だ。

「宰相、変わりは……」

無いかと聞く前に扉を閉めて帰りたくなった。
謁見室には騎士団長と王太子が待ち構えていた。
どう見ても怒っている顔で。……これはまずそうだ。

「おはようございます、陛下。ゆっくりとした朝ですなぁ」

「父上、なにやらアーンフェ公爵家の当主変更の儀が行われているとか?
 どういうことでしょうか。しっかり説明してもらえますね?」

「あ、ああ」

騎士団長は四大公爵家の当主でもある。武術のバルテウス家だ。
王太子妃の父親でもあるので、王太子にしてみれば義理の父親になる。

武術のバルテウス家の生まれなのに、王太子妃のクリスティーナは美しく賢い。
その才能を前国王に気に入られ、王太子妃に選ばれたが、
こざかしい性格が王妃にそっくりだった。

せっかく王妃を離宮に行かせ静かになったと喜んでいたというのに、
その代わりに王太子と王太子妃がうるさくなっていく。
事務的な仕事などは勝手にやらせているが、国王の座を譲る気はない。
譲ってしまったら好き勝手できなくなってしまうのが嫌だからだ。

ずっと避けていた王太子と騎士団長がそろって謁見室に来ているとは。
本気で怒っている雰囲気を感じ取って涙目で宰相を見ると、
もうすでに宰相は言い負かされたようで青い顔をしている。
どうしよう。どうやって逃げよう。

「そうですか。エルヴィラ嬢が当主を変更してもいいと」

「そ、そうだ。令嬢が当主になるなんて無理だろう。
 私のせいじゃないぞ?」

「……。当主変更の儀を行っていいと許可を出したのは陛下です。
 それをお忘れなく」

「なんでだ?」

「おそらく、この雨は止みません」

「は?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

処理中です...