消えた令息が見えるのは私だけのようです

gacchi

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10.ブランカの企み(アロルド)

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エルヴィラと一緒に学園に通うようになってから、
何度かベッティル王子とイザベラの後をつけて監視していた。
たいていは個室に行っていちゃいちゃしているだけ。
見ても面白くないし、どうでもいいのだが、
婚約解消させるための材料になるかもしれないと魔石に記録させていた。

王宮で陛下に見せたらどんな顔するだろうか。
さすがに婿入りするのに最初から愛人を認めるのは無理な話だ。
そんなことを王子がすれば、他国から呆れた目で見られるのは間違いない。

だが、それを言い出さないとは限らないのが陛下だった。
前国王の一人息子だった陛下はきちんとした教育を受けていない。
王妃との間に子どもが産まれず、三人目の側妃でようやく生まれた王子。
身体が弱かったこともあり、甘やかされたまま大きくなった。
そのせいで陛下になった後もわがままばかり言っている。
国王なのだからと王国法を無視してやりたい放題。
エルヴィラの婚約もその一つだった。

前国王はぎりぎりまで陛下に譲位するのを待っていたが、
孫の王太子の教育が終わるまでは待てずに亡くなった。
陛下が即位してからもう十年になる。
そろそろ王太子に譲位してもいいころだ。
そのための準備はしているものの、とどめを刺す最後のきっかけが無かった。

……これで精霊王を怒らせたら、いけるかもしれないな。




監視を始めて十日過ぎた頃、エルヴィラと昼食をとっていたら、
二つ隣の個室にベッティル王子とイザベラがいるのに気がついた。
急いで食事を終わらせて個室にのぞきに行ってみると、
そこにはベッティル王子とイザベラだけではなく赤髪の女がいた。
制服を着ているということは学生だが見たことのない顔だ。
俺たちと同じ学年では無さそうだ。

「ねぇ、本当にこんな調子で婚約破棄できるのぉ?」

「ええ。大丈夫です、うまくいっていますわ。
 このままお姉様の評判を少しずつ落としていきましょう。
 あの冷たい人形のようなお義姉様を嫌う令嬢は多いです。
 嘘だとわかっていても、噂にするでしょうから」

…お姉様?あぁ、あれか。エルヴィラの異母妹か。
名前は確かブランカと言ったか。
目立つ赤髪をくるくると縦に巻いて、今から夜会にでも行くような派手さ。
茶色の目は釣りあがっていて、少しきつそうに見える顔立ち。
肌が異様に白いのは化粧が濃いからだろうか。
父親が同じとはいえ、妖精のようなエルヴィラとは全く似ていない。

一つ下の学年のブランカが、なぜベッティル王子とイザベラと一緒にいる?
しかも、この話の流れだとイザベラの行動はブランカが指示している?

「まったく……あの女が俺と婚約したいだなんて言い出さなければ、
 俺たちがこんな苦労しなくても済んだというのに」

「仕方ないわ。ベッティルは素敵だもの。
 公爵令嬢としてエルヴィラ様以上に身分の高い令嬢は他にいないし。
 ベッティルとの婚約を望むのも当然だわ」

「なんだよ。エルヴィラの味方なのか?」

「ううん。そんなわけないじゃない。
 だって、エルヴィラ様がいくら望んだとしても、ベッティルは私のものだもの!」

「そういうことか。そうだな。
 いくらエルヴィラがわがまま言っても俺の意思は固い。
 俺が結婚するのはイザベラだよ」

「ふふ。うれしい」

陛下があれだけエルヴィラと結婚させようとしているのに、
ベッティル王子が婚約解消させようとしているのはこういうことか。
王家から申し出て無理やり結んだ婚約だと知らないらしい。

目の前でいちゃつき始めたベッティル王子とイザベラに、
ブランカは少しうんざりしたように話を戻した。

「いいですか?お姉様の評判は落ち始めています。
 この調子で続けて、最後の仕上げに入りましょう」

「最後の仕上げ?」

「イザベラ様がひどい目に遭ったと陛下の前で証言するのです」

「ひどい目って、どうやって?
 こんなに嫌がらせされたって言ってもエルヴィラ様は動じないのよ?
 文句を言ってくるなり、本当に嫌がらせをしてくれたら良かったのに、
 何もしてこないんだから」

「そんなものは作ればいいじゃないですか。
 あの性格の悪いお姉様がやりそうなことを考えればいいのです。
 それをされたように見せれば問題ありません」

エルヴィラの性格が悪い?ブランカとは関わってこなかったはずだが。
本来なら公爵家の敷地内にすら入ることが許されなかった愛人とブランカを、
本宅に住むことを許したのはエルヴィラだ。
感謝するべきであって、恨まれるようなことはしていない。
それなのにどうしてブランカはエルヴィラを陥れようとしている?

「……そんなことして、大丈夫かしら」

「あら。いいのですか?イザベラ様。
 このままではベッティル様はお姉様に取られてしまいますよ?
 性悪なお姉様に権力で奪われていいのですか?
 きっとイザベラ様が愛人になるなんて許さず、二度と会えなくなりますよ?」

「……嫌よ。ベッティルは私のものよ!」

「では、迷うことないじゃないですか。
 どうせお姉様ならやりかねないことですよ?
 ぐずぐずしていたら、本当にイザベラ様は危害を加えられるかもしれません」

「なんだと!イザベラがそんな目に遭うのを許せるわけないだろう!
 よし。先に手を打とう。
 さっさとエルヴィラと婚約破棄して、あいつは廃嫡させる。
 ブランカ、その後はわかっているだろうな?」

「もちろんです。約束通り、お二人を支えますわ」

ブランカは満足そうに笑って個室から出て行った。
もう少し詳しく聞きたかったが、会話が終わってしまったからには仕方ない。
ブランカは自分の教室に戻り、ベッティル王子とイザベラは個室でいちゃつき始めた。
これ以上の情報は得られないと思い、エルヴィラの元に戻った。
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