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5.消えないで
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「ん?なんだ。アロルド。お前、消えかけているぞ?」
「え?」
「消えかけている?」
そうだった。今はアロルドが大変な状態だったのを忘れるところだった。
相談するためにここに来たのに。
「リーンネア様、実はアロルドのことを私以外は認識できないみたいなんです。
これはどうしたら元に戻りますか?」
「………これはなぁ。難しいぞ?」
「難しい?どうしたらいいでしょうか?」
「そうだなぁ」
めずらしく戸惑っているのを感じる。
精霊王のリーンネア様は、光をまとっているので顔が見えない。
名前を呼ぶことができるのは、精霊の愛し子である私だけ。
アロルドが直接話すことができるのは、以前に加護をもらっているからだ。
…私の婚約者として。
「アロルド、これを受け取れ」
「これは?」
「精霊の力を借りる腕輪だ。これをつけておけ。
エルヴィラの近くにいれば、精霊たちが力を貸してくれるだろう。
その腕輪についている石は精霊の力が貯まると色が変化していく。
白い石が黒くなれば、元に戻れるかもしれない」
「私の近くにというのは、どのくらい近くですか?」
「そうだな。夜の間はずっとそばにいたほうがいい。
手をつなげるくらいの近さなら、なおいい」
「え?」
夜の間はずっと一緒にいるの?手をつなぐくらいの近さに?
「昼は少し離れていてもいいが、一時間以上離れるのはやめておいたほうがいい。
もうすでに存在が薄れかけている。
これ以上、消えてしまったら戻らなくなるかもしれない」
「そんな!」
「……俺が消えかけているのは呪いですか?」
「呪いというか、願いというか……。
まぁ、原因は調べておいてやる。
その石が黒くなったら、またここにおいで」
「わかりました」
アロルドが答えたら、精霊王は見えなくなった。
すぐに調べに行ってくれたのかもしれない。
けれど、精霊王にも原因がわからないとは思っていなかった。
アロルドが消えてしまうかもしれない。
私にはこんなにはっきり見えるのに、カミラたちには見えなかった。
アロルドがそれでも落ち着いているのが逆に怖くて、
気がついたらアロルドの手をつかんでいた。
「エル?」
「……消えちゃうの?」
「…今は大丈夫。ほら、腕輪の石がうっすらと水色に変わっていく。
精霊たちが力を貸してくれる……だから泣かないで?」
「だって、ルドがいなくなったら……」
「そんなに心配しないで」
昔みたいに抱きしめられて、その胸に泣きついた。
もうこんなに背が違くなってしまったけれど、髪を撫でてくれる優しさは変わらない。
「ほら、もう夜遅くなってしまった。明日起きられなくなるよ。帰ろう?」
「うん……」
手をつないだまま離れへと歩き出す。
精霊たちが力を貸してくれたのか、次の瞬間、私の部屋にいた。
「あぁ、戻してくれたのか。じゃあ、俺はまたソファで寝るよ。
しばらくはこの離れで生活することになるけど、ごめんな?」
アロルドから手を離されて、慌てて腕にしがみついた。
「やだ。離れない」
「いや、だって」
「いいから、このまま一緒に寝て?」
「……さすがにまずいだろう」
「だって、ルドが消えちゃうかもしれないのに!」
「……」
「夜の間はできるだけ近くにいるようにって言われたでしょう?
手をつなげるくらいの近くにって。
だから、一緒の寝台で寝ましょう。じゃなかったら、私もソファで寝る!」
もうすでに存在が消えかけているって言ってた。
これ以上消えたら戻れなくなるって。
私が一人で寝台で寝ている間に、
隣の部屋のソファで寝ているアロルドは消えてしまうかもしれない。
そんな不安を抱えたまま、のん気に眠れるわけがなかった。
「昔はよく一緒にお昼寝してたでしょう?」
「それはそうだけど……はぁ。わかった。一緒に寝るよ」
「うん!」
あきらめたように力を抜いたアロルドを引っ張って、寝室へと連れて行く。
夜着に着替える間、さすがに手を離さなきゃいけなかったけれど、
着替え終わったらまたすぐに手をつなぐ。
「アロルドの着替えも用意しないとね……」
「明日にでも一度家に戻って持ってくるよ。
昼間なら少し離れても大丈夫なんだろう?」
「…すぐに戻って来てね?」
「わかってる。隣の家なんだし、すぐに用意して戻る」
久しぶりに手をつないだまま一緒の寝台に入る。
私は夜着だけど、アロルドは服を着替えないまま。
それが昔のように遊び疲れて眠ったように思えて、懐かしくなる。
「……ずっと、会いたかった」
「うん。俺も」
「約束を破ってごめんなさい」
「エルのせいじゃない。大丈夫、わかっているよ」
「でも……」
「大丈夫、きっとなんとかなる」
「……うん」
そうかなと思うけど、アロルドが大丈夫って言うなら、それを信じることにする。
すぐ隣にアロルドがいると思うと安心する。
つないだ手が温かくて、泣きそうになって目を閉じた。
「え?」
「消えかけている?」
そうだった。今はアロルドが大変な状態だったのを忘れるところだった。
相談するためにここに来たのに。
「リーンネア様、実はアロルドのことを私以外は認識できないみたいなんです。
これはどうしたら元に戻りますか?」
「………これはなぁ。難しいぞ?」
「難しい?どうしたらいいでしょうか?」
「そうだなぁ」
めずらしく戸惑っているのを感じる。
精霊王のリーンネア様は、光をまとっているので顔が見えない。
名前を呼ぶことができるのは、精霊の愛し子である私だけ。
アロルドが直接話すことができるのは、以前に加護をもらっているからだ。
…私の婚約者として。
「アロルド、これを受け取れ」
「これは?」
「精霊の力を借りる腕輪だ。これをつけておけ。
エルヴィラの近くにいれば、精霊たちが力を貸してくれるだろう。
その腕輪についている石は精霊の力が貯まると色が変化していく。
白い石が黒くなれば、元に戻れるかもしれない」
「私の近くにというのは、どのくらい近くですか?」
「そうだな。夜の間はずっとそばにいたほうがいい。
手をつなげるくらいの近さなら、なおいい」
「え?」
夜の間はずっと一緒にいるの?手をつなぐくらいの近さに?
「昼は少し離れていてもいいが、一時間以上離れるのはやめておいたほうがいい。
もうすでに存在が薄れかけている。
これ以上、消えてしまったら戻らなくなるかもしれない」
「そんな!」
「……俺が消えかけているのは呪いですか?」
「呪いというか、願いというか……。
まぁ、原因は調べておいてやる。
その石が黒くなったら、またここにおいで」
「わかりました」
アロルドが答えたら、精霊王は見えなくなった。
すぐに調べに行ってくれたのかもしれない。
けれど、精霊王にも原因がわからないとは思っていなかった。
アロルドが消えてしまうかもしれない。
私にはこんなにはっきり見えるのに、カミラたちには見えなかった。
アロルドがそれでも落ち着いているのが逆に怖くて、
気がついたらアロルドの手をつかんでいた。
「エル?」
「……消えちゃうの?」
「…今は大丈夫。ほら、腕輪の石がうっすらと水色に変わっていく。
精霊たちが力を貸してくれる……だから泣かないで?」
「だって、ルドがいなくなったら……」
「そんなに心配しないで」
昔みたいに抱きしめられて、その胸に泣きついた。
もうこんなに背が違くなってしまったけれど、髪を撫でてくれる優しさは変わらない。
「ほら、もう夜遅くなってしまった。明日起きられなくなるよ。帰ろう?」
「うん……」
手をつないだまま離れへと歩き出す。
精霊たちが力を貸してくれたのか、次の瞬間、私の部屋にいた。
「あぁ、戻してくれたのか。じゃあ、俺はまたソファで寝るよ。
しばらくはこの離れで生活することになるけど、ごめんな?」
アロルドから手を離されて、慌てて腕にしがみついた。
「やだ。離れない」
「いや、だって」
「いいから、このまま一緒に寝て?」
「……さすがにまずいだろう」
「だって、ルドが消えちゃうかもしれないのに!」
「……」
「夜の間はできるだけ近くにいるようにって言われたでしょう?
手をつなげるくらいの近くにって。
だから、一緒の寝台で寝ましょう。じゃなかったら、私もソファで寝る!」
もうすでに存在が消えかけているって言ってた。
これ以上消えたら戻れなくなるって。
私が一人で寝台で寝ている間に、
隣の部屋のソファで寝ているアロルドは消えてしまうかもしれない。
そんな不安を抱えたまま、のん気に眠れるわけがなかった。
「昔はよく一緒にお昼寝してたでしょう?」
「それはそうだけど……はぁ。わかった。一緒に寝るよ」
「うん!」
あきらめたように力を抜いたアロルドを引っ張って、寝室へと連れて行く。
夜着に着替える間、さすがに手を離さなきゃいけなかったけれど、
着替え終わったらまたすぐに手をつなぐ。
「アロルドの着替えも用意しないとね……」
「明日にでも一度家に戻って持ってくるよ。
昼間なら少し離れても大丈夫なんだろう?」
「…すぐに戻って来てね?」
「わかってる。隣の家なんだし、すぐに用意して戻る」
久しぶりに手をつないだまま一緒の寝台に入る。
私は夜着だけど、アロルドは服を着替えないまま。
それが昔のように遊び疲れて眠ったように思えて、懐かしくなる。
「……ずっと、会いたかった」
「うん。俺も」
「約束を破ってごめんなさい」
「エルのせいじゃない。大丈夫、わかっているよ」
「でも……」
「大丈夫、きっとなんとかなる」
「……うん」
そうかなと思うけど、アロルドが大丈夫って言うなら、それを信じることにする。
すぐ隣にアロルドがいると思うと安心する。
つないだ手が温かくて、泣きそうになって目を閉じた。
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