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23.困ったお誘い

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「お疲れのようですね。」

今日の授業も終わり、あとは帰るだけとなった時に、
ジョイン王子から話しかけられた。
その目は同情しているように見える。
きっと王女のことも含めて言われているのだろう。

「ええ、そうね。少し疲れているかもしれないわ。
 学園を卒業したら、少しは楽になるかしら。」

学園と王宮との移動はそこまで時間がかかるわけではないが、
護衛や侍女を引き連れて移動するというのは、やはり疲れてしまう。
これが無くなるだけでも少しは気が楽になるかもしれない。

「私は残念ですよ。来週には国に戻らなければいけないとは…。
 せっかくシルヴィア王女と仲良くなれそうな時に。」

仲良くなれそうな時って、なんだろう。
留学して来てから、あまり仲良くはならなかった気がする。
最初に挨拶した時の距離感のままだ。
どうしても従兄弟というものがよくわからない。
血のつながりというものが感じられないのだ。


反応が薄いことに焦れたのか、たたみかけるように王子が聞いてくる。

「あのラミサージャ王女の魅力はすごい。
 どんな男でも負けてしまうだろう。
 おそらくシルヴィア王女と結婚して、早いうちに側妃とするはずだ。
 シルヴィア王女はそれでいいのですか?
 もっと違う道を選んだ方が良いのではないですか?」

「違う道、ですか?」

「ええ。エルドリア国の王妃になりませんか?
 私なら、あなたが納得しなければ側妃を娶ることをしません。
 王子さえ生んでくれれば、側妃なんて必要ない。
 だから、一緒に国に帰りましょう?」

あぁ、そういう意味で仲良くなれそうな時だったのね。
ジルと私の仲が悪くなってる今なら、連れて帰れるかもって思ったんだ。

「そのお話は聞かなかったことにしますね?
 私のことは大丈夫です。
 従兄弟として心配してくれたのでしょう?ありがとうございます。」

軽く礼をして、馬車に向かう。
今日は朝からいろんなことがありすぎて、疲れちゃった。
帰ったら王女の宮に行って、のんびりしようかな…。

馬車に乗ろうとして、御者がいないことに気が付く。
侍女が一人、「探してまいります。」と探しに行った。
残された侍女と二人で、何かあったのだろうかと考えていた時に、
侍女の首に刃物が押し付けられた。

「ひっ。」

「メイ!」

しまった。侍女を人質に取られた。
侍女の後ろに回って押さえつけている人物を見たら、ジョイン王子だった。

「え?…どうしてっ?」

いつもの微笑みは無く、無表情のままの王子が馬車に乗るように促してくる。

「この場で侍女を殺してから王女を連れて行っても良いんだぞ?
 早く馬車に乗れ。」

「待って。メイはどうする気?」

「旅の間、王女を世話する侍女が必要だろう。
 このまま連れて行く。」

とりあえず、この場で殺してしまうことは無いと、少しだけ安心する。
だが私が抵抗したら、メイは殺されて、私は担がれて連れていかれるだろう。
この体格差で抵抗しても無駄なことだ。

「わかったわ。私が先に乗るから、そしたらメイを乗せて。
 怪我をさせないでちょうだい。」


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