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19.隣国の王子

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「この国の令息は目が悪いのかな。」

1月前から留学してきているエルドリア国のジョイン王子は、
銀髪緑目でがっしりした長身が、
いかにも武術を得意とするエルドリアの王族らしい王子だった。
初対面から従兄弟だからと、少し距離が近いことを除けば、特に問題は無かった。

やはり休日にこの国を案内してほしいと頼まれたときには困ったが、
王妃としての勉強があることと、
婚約しているので他の令息と行動を共にするのは難しいと断ると、
わりとすんなり受け入れてくれほっとしていた。


「目が悪い、ですか?特にそういう話は知りませんが…。」

目が悪い?武道の授業で何かあったのかしら。
この国の令息たちとはほとんど接点が無い。
仲よくしている令嬢の婚約者でもなければ、話すきっかけもない。

「王女は16歳になるまで婚約の話すら出ていなかったというではないか。
 我が国の令息だったら、我先に婚約を申し込んでいただろうに。
 それこそ、身分を問わず口説き落とそうと躍起になったであろうな。」

あぁ、そういうお世辞の話でしたか。なるほど。

「褒めてもらえるのは嬉しいですが、
 私は8歳の頃から叔父様と結婚する予定でしたので。」

これは私も最近聞いたのだけど…。
もう特に隠すことでもないから話していいと言われている。

「それは知らなかった。
 我が国からシルヴィア王女に婚約の話を打診していた時には、
 そのような理由は聞かなかったな。
 たしか、シルヴィア王女が好いたものを王配にすると。」

「それは半分正解で、半分誤解です。
 私は女王になるように育てられていません。
 叔父様との婚約の話が出たのは、私が叔父様を選んだからです。」

「選んだと?8歳の王女が?」

「はい。その話は公表されていませんでしたので、
 エルドリアには話が曲がって伝わったのでしょうね。」

「ふむ。」

納得したのかどうか、わかりにくい顔で答えられた。
何度かこういう場面があって、どういうことだろうと思う。
表面的にはとても物わかりのいい王子に見えるのに、たまに違う気がする。
何かを言わないように、抑えているような、そんな気がする。


「それでは、私は宮に帰ります。」

挨拶をして、学園をでる。同じ王宮から通っていても、同じ馬車は使わない。
護衛する者が各自の馬車につくからという理由もあるが、
同じ王宮内でも離れた宮に滞在している王子とは、
出入りする門も違っている。
それに、令息と同じ馬車に乗るのはためらわれた。
というよりも、ジルが猛反対したため、私の馬車には侍女が2人同席している。
王子の馬車には侍従と護衛が一緒に乗りこんでいた。


なんとなく、後ろから王子に見られている気がしたが、
振りかえることなく馬車に乗った。
留学期間は決まっていないそうだが、卒業まであと1月と少し。
さすがに卒業してまで留学することは無いだろう。
あともう少し我慢すれば、この違和感から解放されるだろう。

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