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49.見えた希望(アマンダ)
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「あら、もうこんな時間?そろそろ寝ましょうか。
今日の話も面白かったわ。ねぇ?」
「ええ、そうね。すごくよかったわ。
あの女がそこまでひどいとは思わなかったもの。
おとなしそうな顔に私たちも騙されるところだったわ。
また聞かせてちょうだいね」
「はい、ルミリア様、ブランカ様」
ジュリアについて話を聞かせろと、
毎晩のように宿の部屋に呼び出されていたが、これも今日が最後。
明日にはジョルダリ国に着く予定だ。
二人はライオネル様の妃になろうとしているらしく、
邪魔になるジュリアのことを聞きたがった。
特に、他人には言えないようなジュリアの悪癖を。
どれだけジュリアが人から嫌われてきたか、
裏でやってきた悪行を聞かせてやると、
ルミリアとブランカは令嬢らしくない顔で笑う。
そんな女ならライオネル様の妃になんてなれるわけがない。
どちらが選ばれても恨みっこなし、協力しましょう、
なんて約束を取り付けているのだからおかしくて仕方ない。
ジュリアに悪癖なんてものはない。
だが、そんなことは関係ない。
私が言えばそれが本当になる。
学園で同級生だった、ということが証明になるからだ。
こんなことが証明になるなんて馬鹿みたいだと思うが、
これが貴族社会ということなのだろう。
平民でも優秀な才能があれば学園に通うことができるが、
そのためには後ろ盾となる貴族家が必要になる。
つまり、平民だと思われている私がジュリアの悪口を言うというのは、
後ろ盾を無くてしてもいいと思うほどひどかったということなのだ。
貴族から見れば、それほどの覚悟で話すのであれば、
これは間違いなく本当のことだと思うらしい。
この二人はジョルダリに戻った後、社交界で話すつもりでいる。
ライオネル様の婚約者について、同級生がこんなことを話してくれた。
平民だが、ジュリアという令嬢の悪癖に困らされていたらしい、と。
私が話したことは全部嘘だが、
高位貴族の二人が話せばあっという間に真実として広がる。
ジュリアがジョルダリに来ることには、
もう取り返しのつかないことになっているに違いない。
本当にこの二人は私が思うように動いてくれる。
これほどまで役に立ってくれるとは思わなかったけれど。
ジョルダリに入国した後は、
ルミリアの侍女であることを利用して、
動ける範囲を広げていこうと思っていたが、
その前にルミリアから面白い提案がされた。
「アマンダの後ろ盾はもうないのよね?」
「はい。学園でジュリアに従わなかったことで、
後ろ盾を無くしてしまいましたから」
「まぁ……それは可哀そうに。
では、どこか貴族家の養子に入る気はない?」
「養子ですか?」
突然、貴族家の養子にならないかと誘われ、
何を企んでいるのかと思ったが、微笑んで話を聞く。
「後ろ盾もない平民だと王宮に連れていけないのよね。
アマンダを王妃のヴァイオレット様にも会わせたいのよ。
王女のマリリアナ様にも。
あの女の話を聞かせてあげたいから」
「王宮ですか。たしかに平民の私では難しいですね」
「だから、どこかの養女になればいいと思って。
ねぇ、ブランカ。ちょうどいい家はないかしら」
「うちの分家の男爵家なら受け入れると思いますわ。
お父様は王妃様に気に入られるためなら何でもしますもの」
「じゃあ、頼んだわ」
「ええ、お任せください」
「アマンダも、もう下がっていいわ」
「わかりました。失礼いたします」
養女になると承諾してもいないのに、勝手に話が決まる。
それが面白くなかったが、何も言わずに部屋から出る。
まぁいい。どこかの貴族家の養子になるのは私も考えていたことだ。
イマルシェ伯爵家の商会のつながりで探すかと思っていたけれど、
下手なことをすればロベルトに捕まってしまうかもしれない。
男爵家でも、ジョルダリの貴族になってしまえば、
ロベルトでも手を出せなくなる。
最初は男爵家でも貴族は貴族だ。
少しずつジョルダリ国での知り合いを増やし、力をつける。
ジュリアを貶め、あの立場を、すべてを奪い返してみせる。
この旅で唯一の心配は、外交官のハルナジ伯爵だった。
直接会ったことはないため、顔でバレる心配はない。
だが、ジュリアが何かよけいなことを吹き込んでいるかもしれない。
ルミリアとブランカには、
私が筆頭伯爵家の令嬢だったことは話していない。
さすがに平民落ちしていると知れば、関りを持ちたくないと思うだろう。
それよりも、見下される可能性が高い。
同じような貴族令嬢だったのに、今は平民の侍女。
あの性格の悪い二人がそのことを知れば、
私を見下して遊ぶに違いない。
いくら利用価値があるとはいえ、
見下されてまで侍女の仕事にしがみつく気にはなれない。
自分の立場を強固なものにするまでは、
ハルナジ伯爵には近づかないほうがいい。
だが、ハルナジ伯爵は私にというよりも、
ルミリアやブランカに関わろうとしなかった。
馬車の列が乱れないように部下に監視させているだけで、
ハルナジ伯爵の馬車は少し離れて動いているようだ。
おかげで旅の間はハルナジ伯爵の顔を見ていない。
これならば何も心配する必要はない。
明日になれば、ジョルダリに行けばすべてが変わる。
ルミリアとブランカの部屋を出て、自分の部屋へと戻る。
使用人に用意された宿の部屋は寝台が硬くて、変なにおいがする。
こんな場所は私にふさわしくない。
早く平民の生活から抜け出さなくては。
今日の話も面白かったわ。ねぇ?」
「ええ、そうね。すごくよかったわ。
あの女がそこまでひどいとは思わなかったもの。
おとなしそうな顔に私たちも騙されるところだったわ。
また聞かせてちょうだいね」
「はい、ルミリア様、ブランカ様」
ジュリアについて話を聞かせろと、
毎晩のように宿の部屋に呼び出されていたが、これも今日が最後。
明日にはジョルダリ国に着く予定だ。
二人はライオネル様の妃になろうとしているらしく、
邪魔になるジュリアのことを聞きたがった。
特に、他人には言えないようなジュリアの悪癖を。
どれだけジュリアが人から嫌われてきたか、
裏でやってきた悪行を聞かせてやると、
ルミリアとブランカは令嬢らしくない顔で笑う。
そんな女ならライオネル様の妃になんてなれるわけがない。
どちらが選ばれても恨みっこなし、協力しましょう、
なんて約束を取り付けているのだからおかしくて仕方ない。
ジュリアに悪癖なんてものはない。
だが、そんなことは関係ない。
私が言えばそれが本当になる。
学園で同級生だった、ということが証明になるからだ。
こんなことが証明になるなんて馬鹿みたいだと思うが、
これが貴族社会ということなのだろう。
平民でも優秀な才能があれば学園に通うことができるが、
そのためには後ろ盾となる貴族家が必要になる。
つまり、平民だと思われている私がジュリアの悪口を言うというのは、
後ろ盾を無くてしてもいいと思うほどひどかったということなのだ。
貴族から見れば、それほどの覚悟で話すのであれば、
これは間違いなく本当のことだと思うらしい。
この二人はジョルダリに戻った後、社交界で話すつもりでいる。
ライオネル様の婚約者について、同級生がこんなことを話してくれた。
平民だが、ジュリアという令嬢の悪癖に困らされていたらしい、と。
私が話したことは全部嘘だが、
高位貴族の二人が話せばあっという間に真実として広がる。
ジュリアがジョルダリに来ることには、
もう取り返しのつかないことになっているに違いない。
本当にこの二人は私が思うように動いてくれる。
これほどまで役に立ってくれるとは思わなかったけれど。
ジョルダリに入国した後は、
ルミリアの侍女であることを利用して、
動ける範囲を広げていこうと思っていたが、
その前にルミリアから面白い提案がされた。
「アマンダの後ろ盾はもうないのよね?」
「はい。学園でジュリアに従わなかったことで、
後ろ盾を無くしてしまいましたから」
「まぁ……それは可哀そうに。
では、どこか貴族家の養子に入る気はない?」
「養子ですか?」
突然、貴族家の養子にならないかと誘われ、
何を企んでいるのかと思ったが、微笑んで話を聞く。
「後ろ盾もない平民だと王宮に連れていけないのよね。
アマンダを王妃のヴァイオレット様にも会わせたいのよ。
王女のマリリアナ様にも。
あの女の話を聞かせてあげたいから」
「王宮ですか。たしかに平民の私では難しいですね」
「だから、どこかの養女になればいいと思って。
ねぇ、ブランカ。ちょうどいい家はないかしら」
「うちの分家の男爵家なら受け入れると思いますわ。
お父様は王妃様に気に入られるためなら何でもしますもの」
「じゃあ、頼んだわ」
「ええ、お任せください」
「アマンダも、もう下がっていいわ」
「わかりました。失礼いたします」
養女になると承諾してもいないのに、勝手に話が決まる。
それが面白くなかったが、何も言わずに部屋から出る。
まぁいい。どこかの貴族家の養子になるのは私も考えていたことだ。
イマルシェ伯爵家の商会のつながりで探すかと思っていたけれど、
下手なことをすればロベルトに捕まってしまうかもしれない。
男爵家でも、ジョルダリの貴族になってしまえば、
ロベルトでも手を出せなくなる。
最初は男爵家でも貴族は貴族だ。
少しずつジョルダリ国での知り合いを増やし、力をつける。
ジュリアを貶め、あの立場を、すべてを奪い返してみせる。
この旅で唯一の心配は、外交官のハルナジ伯爵だった。
直接会ったことはないため、顔でバレる心配はない。
だが、ジュリアが何かよけいなことを吹き込んでいるかもしれない。
ルミリアとブランカには、
私が筆頭伯爵家の令嬢だったことは話していない。
さすがに平民落ちしていると知れば、関りを持ちたくないと思うだろう。
それよりも、見下される可能性が高い。
同じような貴族令嬢だったのに、今は平民の侍女。
あの性格の悪い二人がそのことを知れば、
私を見下して遊ぶに違いない。
いくら利用価値があるとはいえ、
見下されてまで侍女の仕事にしがみつく気にはなれない。
自分の立場を強固なものにするまでは、
ハルナジ伯爵には近づかないほうがいい。
だが、ハルナジ伯爵は私にというよりも、
ルミリアやブランカに関わろうとしなかった。
馬車の列が乱れないように部下に監視させているだけで、
ハルナジ伯爵の馬車は少し離れて動いているようだ。
おかげで旅の間はハルナジ伯爵の顔を見ていない。
これならば何も心配する必要はない。
明日になれば、ジョルダリに行けばすべてが変わる。
ルミリアとブランカの部屋を出て、自分の部屋へと戻る。
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