あなたにはもう何も奪わせない

gacchi

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46.問題令嬢たちとの対決

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屋敷に帰るとライオネル様は、
すぐにハルナジ伯爵へと連絡をしていた。

「ヨゼフ、ハルナジ伯爵に連絡してくれ。
 明日、学園でルミリアと面会する時にブランカも連れてきてほしいと。
 学園側と連絡をとって時間を合わせてほしい」

「わかりました」

ヨゼフが部屋から出ていった後、
ライオネル様は大きくため息をついた。
気持ちはわかるので、リーナに蜂蜜たっぷりのお茶をお願いする。
甘いお茶を飲んだら少しは落ち着いたのか、
ライオネル様は明日のことを相談しようと言った。

「両方一度に相手したほうが早いけど、気が重いな」

「そうね。なんというか、
 押しが強い二人を同時に相手にしなきゃいけないものね」

「ああ。まぁ、最終的には出国許可が偽造されているんだし、
 強制的に帰ってもらうことになるけど」

「素直に帰ってくれるかしら」

「ハルナジ伯爵は面会したら強制送還すると言っていた。
 面会の時間さえ決まれば、王宮から騎士を連れてくるだろう」

「それなら帰るしかないわよね」

帰るしかなくても、うるさいだろうなぁ。
聞き流せばいいんだけど、大変なのは想像できる。

ブランカ様とルミリア様のこれまでのことを聞くと、
聞けば聞くほど困った令嬢だというのがわかる。
アマンダ様とはまた別の困った問題行動というか、
自分の手は汚さないというのはよけいに面倒かもしれない。

しばらくしてヨゼフが戻ってくる。
ハルナジ伯爵と学園側の話がついて、
明日の午後に面会することが決まったそうだ。



次の日、胃が重いけれど早めの昼食を食べる。
これから二人を相手に戦わなくてはいけない。

今日は隠し部屋ではなく、
学園長室のソファに座って相手を待つ。

最初に来たのはルブラン侯爵家のビアンカ様だった。
事務のルベラに中に入れるのはビアンカ様と侍女一人と言われ、
嫌そうに従うのが聞こえた。

ゆるく巻いた薄茶色の髪に深緑の目。
一重の細い目を大きく見せたいのか、目を強調するような化粧。
肌の色がわからないくらい、しっかりと化粧をしている。
ルミリア様も化粧が濃いと思ったけれど、ブランカ様のほうが上だった。

部屋に入ってきてライオネル様がいるのに気がつくと、
赤い唇の口角をあげてにっこり笑った。

「ようやくお会いできましたわね。お久しぶりですわ」

「ああ。ルミリアが来るから、座って待っていろ」

話し続けそうだったけれど、ライオネル様に止められ、
少し面白くなさそうにソファに座る。

連れてきた侍女は静かに壁際まで行って控えている。
ブランカ様はライオネル様の隣に座りたかったのか、
私がいることに気がついて、キッとにらみつけてくる。

相手にしてはいけないと思いながらも、
にっこり笑って返しておく。負けるつもりはない。

昨日聞いた話だと、ブランカ様は十五歳だという。
来年、学園に入学する年齢。
化粧のせいで同じ年くらいに見えるけれど、三つも年下だった。

少し待って、ルミリア様が到着した。
……一緒に入ってきた侍女は間違いなくアマンダ様だった。
侍女服を着ているが、容姿は以前と変わらない。
私がいるのを見て、楽しそうににやりと笑う。

今は相手をしてはいけない。
まずはブランカ様とルミリア様をどうにかしなくては。

「ルミリアも座ってくれ。
 二人とも、この国には何をしに来たんだ?」

ルミリア様がソファに座るのを待ってライオネル様が質問すると、
二人は顔を見合わせた後、ルミリア様が答えた。

「私たちはマリリアナ様に言われてきました。
 私たちのどちらかがライオネル様の婚約者なると。
 どちらがいいかはライオネル様に選んでほしいそうです」

「ライオネル様のためにここまで来たのです。
 私はずっとライオネル様の妃になると思っていました」

「ブランカ、それを言うなら私もよ。
 ライオネル様の妃になるためにここに来たんだから」

言い合いになりそうな二人に、ライオネル様は冷たい視線を向けた。
婚約者云々の話にはふれずに、私の肩を抱く。

「ああ、紹介していなかったな。俺の婚約者だ」

「ジュリア・オクレールよ。よろしくね」

クラリティ王国の侯爵家はジョルダリ国の公爵家に相当する。
だから、ルミリア様と身分は同じことになる。
いや、正式に第二王子の婚約者となった私のほうが上だ。

だが、それを理解していないのか、ルミリア様は眉をひそめた。

「私はマリリアナ様から認められた婚約者、
 ルミリア・ビオシュ。公爵家よ」

「私もマリリアナ様から認められた婚約者、
 ルブラン侯爵家のブランカよ!」

「マリリアナが認めようが、そんなものはどうでもいい。
 俺には関係のないことだ」

「ライオネル様!?」

「どうでもいいって、私たちは」

「ジュリアは議会にも正式に認められた俺の婚約者だ。
 ジョルダリ王家からも公式発表されただろう?
 お前たちが何を言ってもそれは変わらない」

「そんな!」

悔しそうに唇を噛むブランカ様に、
何かを考えているような顔のルミリア様。

いくら王女だとしても兄王子の婚約者を決めるような権限はない。
少し考えればわかることなのに。
それとも、それでもすがりたいほどに他に手がなくなったから?

このままあきらめるかと思ったが、
ルミリア様が私をにらみつけて口を開いた。

『あなたは婚約者としてふさわしくない』

「え?」

『美しくないし役に立たない女はいらない。
 あきらめて婚約を辞退しなさい』

これはジョルダリ語だ。
クラリティ王国もジョルダリ国も、貴族は公用語を話す。
だけど、平民はジョルダリ語しか話せない。
そのためジョルダリ国の貴族はジョルダリ語が必修となっている。

もしかして、私がジョルダリ語を話せないことを馬鹿にして、
ライオネル様に婚約を考え直してもらうつもりかな。

たしかにクラリティ王国の貴族令嬢ならジョルダリ語を話すことはない。
普通の令嬢であれば、だけど。

『それはどうかしら。私を選んだのはライオネル様よ。
 あなたたちに判断されることではないわ』

「え?」
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