あなたにはもう何も奪わせない

gacchi

文字の大きさ
上 下
32 / 56

32.放り出される

しおりを挟む
自分は間違ってないと思ったのに、パアンと頬を叩かれる。
叩いたのはお父様じゃなく、お母様だった。

「お母様……どうして?」

「それはこっちが言いたいわ。
 どうしてあなたはこうも聞き訳がないの!?
 もう、好き勝手したいなら出て行きなさい!」

「え?」

「そうだな。こいつはもう手に負えん。出ていけ」

「……お父様?」

ぐいっと腕をつかまれ、そのまま玄関まで連れていかれる。
まさか、と思ったら、玄関の外に放り出される。

「きゃあ」

砂利の上に転がされ、肩に石が刺さる。
何が起こったのか、理解したくない。

「二度とうちに入ってくることは許さない」

「お父様!?」

玄関を閉められ、慌てて立ち上がって開けようとしたけれど、
鍵をかけられているのか開かなかった。
遠くで門番が何事かとこちらを見てくる。

自分の格好を思い出して、両肩を抑えてしゃがみこんだ。
夜着姿で外に放り出されるなんて。
こんな格好ではどこにもいけない。

ひゅるると風が吹いた。
厚手の夜着でも、外に出られるようなものではない。
身体が冷えていくけれど、どうすることもできない。

人が走ってくる音がして、そちらを見たら、
リーナが毛布をもって駆け寄ってきた。

「ジュリア様!これを!」

「リーナ……ありがとう」

毛布にくるまって、とりあえず夜着を隠せたことでほっとする。
リーナは裏口から出てきたようだ。

「でも、リーナ、あなたは戻らないと叱られるわ」

「いいえ、ジュリア様が追い出されるというのなら、
 私はついていきます!」

「リーナ……辞めさせられてしまうわ」

「それでも!こんな時間にお一人にするわけにはいきません!」

「……うれしいけれど、どこにもいけないわ。
 ここで夜が明けるのを待つしかないと思う」

「そんな……」

悔しいけれど、屋敷から出ていってもどこにもいけない。
朝まで待って、なんとか家の中に入れてもらうしかない。
お父様がそれを許可すればだけど……

ガタゴト、こんな時間なのに馬車の音がした。
どうしてと思っていると使用人用の馬車がこちらに向かってくる。
こんな時間に仕事を?
近づいてきた馬車の御者はヨゼフだった。

「ジュリア様、リーナ、乗ってください!」

「ヨゼフ、どうして?」

「とりあえず、安全な場所にお連れしますから!」

「ジュリア様、乗りましょう」

「え、ええ」

リーナの手を借りて馬車に乗り込むと、ガタゴトと動き出す。
使用人用の馬車に乗るなんて、あの時以来。
安全な場所って言ってたけど、どこに行くんだろう。

「ヨゼフさんって御者もできたんですね」

「そうね……知らなかったわ。
 慌てて乗ってしまったけれど、大丈夫なのかしら」

「何がですか?」

「ヨゼフもリーナも、きっとお父様に叱られてしまうわ」

「かまいませんよ。旦那様がおかしいのです。
 こんな夜に夜着姿のジュリア様を追い出すなんて。
 いったい何を考えているんでしょうか」

「わからないわ……」

本当にお父様とお母様が何を考えているかわからない。
お母様は心の病気なのかもしれないけれど、
だったらお父様は何を考えてアンディを連れてきたのか。

きっとお母様が病気なのをわかっていて、アンディに会わせた。
アンディをお兄様だと思い込むとわかっていて。

お父様が何を考えてこんなことをするのかわからない、
そう思ったけれど、お父様の考えなんて一度もわかったことがなかった。
お兄様が生きていたころも、私はまともに相手にされていなかった。
お父様の考えなんてわかるはずもなかった。

「あ、どこかのお屋敷に入るようですよ?」

「屋敷?貴族の?ヨゼフの知り合いの貴族の屋敷?」

そういえば、ヨゼフはどこか他の貴族家で家令をしていたはず。
そのお屋敷に助けを求めに来たのかもしれない。

どうしよう。
ここは素直に助けを求めるべきだと思うけれど、
他家に恥をさらすなんてしていいのだろうか。

娘を夜中に放り出したなんて、
知られたらオクレール家の評判は落ちてしまう。

「どうしよう……リーナ、今からでも断れるかしら」

「何を言っているんですか。
 屋敷に戻っても中には入れないと思いますよ。
 あきらめて、こちらにお邪魔しましょう」

「でも……」

ヨゼフが門番に何か伝えると、門が開けられる。
大きな屋敷……ここは誰の?
他の侯爵家の屋敷は知っているけれど、ここじゃない。

伯爵家以下の屋敷にしては大きいけれど、
私が知らないだけで裕福な貴族家なのかもしれない。

馬車は玄関先まで行って止まった。
中から誰かが出てきたようだ。

馬車のドアがノックされる。

「ジュリア様、開けますよ?」

「……ええ」

ここまで来たら、話さないわけにはいかない。
こんな夜着の上に毛布をかぶったような状態で人に会うなんて。

「え?」

リーナの驚いた声で、ドアの外を見る。
そこにはライオネル様が立っていた。

「ライオネル様?」

「とりあえず、中に入って。他の者は下げてある。
 ジュリアのこんな格好を見せるわけにはいかないからな」

こんな格好をライオネル様に見られるなんて。
恥ずかしくて、毛布で顔を隠してしまいたい。

リーナが下りた後、手を借りて降りようとしたら、
ライオネル様に抱き上げられる。

「え?」

「いいから、じっとしてて。すぐに部屋に行こう」

毛布の上から抱きかかえられ、屋敷の中へと入る。
中には誰もいなかった。
他の者を下げたと言っていたのは本当のようだ。

ライオネル様に見られたのは恥ずかしいけれど、
他の使用人たちがいないことにほっとする。

連れて行かれた部屋は客間のようだ。
オクレール家の客間よりもずっと広くて綺麗な部屋だった。

ソファに座らされた後、ライオネル様はひざまずくようにして、
顔を近づけて私を見てくる。
そのまま頬に手を添えようとして、ふれずに離れた。

「……頬が赤くなっている」

「あ、うん。ちょっとね」

お母様に叩かれたところだろう。
赤くなるほどの力だったんだ……。

「リーナ、ジニーがその辺にいるはずだから、
 頬を冷やすものをもらってきてくれ」

「わかりました!」

あぁ、ジニーはいるらしい。
いつもそばにいるのに、屋敷内だから離れているのかな。

「いくらジニーでも、ジュリアのこんな姿は見せたくない」

「あ、あの」

「頬を冷やしてから話を聞こう」

「……うん」

こんな格好で、こんな時間に来て、事情を説明しないわけにはいかない。
ため息をついたら、リーナが部屋に戻ってくる。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

本日より他人として生きさせていただきます

ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

処理中です...