31 / 56
31.過熱するいたずら
しおりを挟む
そんな風に過ごしていたら、いつの間にか季節は変わり、
少し肌寒くなってきた。
これから冬が来て、春が来たら卒業になる。
学園に通うのは楽しいけれど、屋敷内ではぼんやりすることが増えた。
時間が過ぎなければいい。このまま学生のままでいられたらいいのに。
そんなある日、学園から帰ると私の部屋が水浸しになっていた。
寝台もソファも、絨毯までびしょぬれになっている。
「何があったの?」
「アンディ様です」
「なぜ、こんなことを?」
「実は、アンディ様が昼にこの部屋に来まして、
どうしてもここで昼寝をしたいと」
「昼寝?私の部屋で寝てたの?」
「はい……それでおねしょを……」
おねしょ。アンディはまだ三歳と数か月。
おねしょしてもおかしくはないけれど。
「どうやら、この部屋で昼寝をしたのも、
自分の部屋の寝台を汚してしまったからのようで……」
「なるほど……」
「起きた後、おねしょしたことに気がついたアンディ様は、
恥ずかしかったのか水差しの水を寝台にまかれて。
それを止めてしまったのがいけなかったのか、
水差しのお代わりを持って来させては部屋中にまいてしまって……」
どうやら部屋の中に水を撒くというのを止められたために、
もっとやってやろうと思ってしまったらしい。
「何度か止めようとしたのですが、止めれば止めるほど……」
「アンディを止めても無駄だと思うわ。
リーナが悪いわけじゃないから謝らなくていいの。
どこか、客室の用意をしてくれる?」
「もう準備はしてあります、こちらへ」
リーナの案内で普段は使っていない客室へと向かう。
新しいシーツがかけられている寝台を見て、
しばらくはこちらの部屋にいることになりそうだと思う。
あれだけ水浸しになったら、元に戻すのは大変だろう。
次の日、学園から帰ると使っていた客室も水浸しになっていた。
「まさか、ここも?」
「はい……ジュリア様が使っている部屋に案内しろと、
アンディ様付きの使用人に言ったみたいです。
私が違う仕事から戻った時にはもう……」
「あぁ、うん。リーナのせいじゃないから。
でも、新しい客室に移ったら、そこもこうなるのかしら……」
「ヨゼフさんが、ジュリア様が学園に行っている間は鍵をかけると」
「鍵?入れないように?それって、大丈夫なの?」
「わかりません」
リーナも不安そうに答える。
ヨゼフが鍵をかけたとしても、お父様が開けろと命じるのでは。
そう思ったが、ヨゼフは出かける用事があるそうだ。
鍵を持って出かければ、そこはもう開けられないだろうと。
その方法はうまくいき、次の日に帰って来た時には、
客室はきれいなままだった。
しばらくヨゼフは出かける作戦でいくようだけど、
これが続いているうちに私の部屋が使えるようになるだろうか。
夜になって、夜着に着替えて寝ようとしていると、
ドアが乱暴に叩かれる。
「開けて!」
「……アンディ?」
ドアを開けると、そこには水差しを持ったアンディがいた。
私がいるのを見て、にやりと笑う。
「見つけた!」
見つけた?もしかして、いろんな部屋を探しに行っていた?
アンディはするりと私とドアの隙間を抜けて、部屋に入り込もうとした。
「ちょっと待って!」
「なぁに?」
「その水差し、どうするの?」
「これ?お水まくの」
やっぱり。また私を困らせたくてわざわざ来たんだろう。
だけど、私の部屋はまだ使える状態じゃないし、
一昨日使った客室も乾いていない。
この部屋まで濡らされてしまったら困る。
「もう遅いから自分の部屋に帰って」
「お水まいてからね?」
「だめ、帰って」
止めたら喜びそうだと思ったけれど、めんどくさくなってしまった。
アンディの身体をくるっと回転させて、部屋から出す。
そのままドアを閉めると、ドンドンと叩く音がする。
うるさいけれど、そのうち飽きて部屋に戻るだろう。
思った通り、少しして音がしなくなる。
部屋に戻ったんだと思ったら、違った。
「おい、ここを開けろ」
「え?」
ドアを開けたら、お父様とお母様がいた。
その後ろでアンディが楽しそうに笑っている。
まさか、あきらめたくなくて二人を呼んできたの?
「こんな夜にどうしたんですか?」
「お前がアンディを追い出したと聞いた」
「ええ、もう夜遅いですから」
「そんなことはどうでもいい」
「どうでもいいって、部屋の中を水浸しにしようとしたんですよ?」
まだアンディは水差しを持ったままだった。
それを指さして説明したが、お父様は納得しなかった。
「それがどうした。
アンディがそうしたいなら、そうさせればいいだろう」
「水浸しにさせろっていうんですか?
じゃあ、私はどこで眠れば?」
「そんなものは知らない」
「ええ?」
いくらなんでもそれはおかしいんじゃと思ったけれど、
お母様まで同意する。
「この屋敷のすべてはアンディの物なのよ。
あなたは住まわせてもらっているだけなんだから、
アンディの言うことを聞かなきゃだめじゃない。
ほら、アンディ、好きにしていいわよ」
「え?」
「わぁい、そこどいて?」
にっこり笑って部屋に入ってこようとするアンディに、
イラついてしまって大きな声が出る。
「いやよ!」
「ジュリア!お前はどうしてそうも反抗的なんだ!」
「そうよ、謝りなさい!」
「嫌です!私はおかしいことは言ってません!」
この寒くなってきた時期に、部屋を水浸しにされたら、
私はどうなると思っているのか。
おかしいのはお父様とお母様だ。
自分は間違ってないと思ったのに、パアンと頬を叩かれる。
叩いたのはお父様じゃなく、お母様だった。
「お母様……どうして?」
少し肌寒くなってきた。
これから冬が来て、春が来たら卒業になる。
学園に通うのは楽しいけれど、屋敷内ではぼんやりすることが増えた。
時間が過ぎなければいい。このまま学生のままでいられたらいいのに。
そんなある日、学園から帰ると私の部屋が水浸しになっていた。
寝台もソファも、絨毯までびしょぬれになっている。
「何があったの?」
「アンディ様です」
「なぜ、こんなことを?」
「実は、アンディ様が昼にこの部屋に来まして、
どうしてもここで昼寝をしたいと」
「昼寝?私の部屋で寝てたの?」
「はい……それでおねしょを……」
おねしょ。アンディはまだ三歳と数か月。
おねしょしてもおかしくはないけれど。
「どうやら、この部屋で昼寝をしたのも、
自分の部屋の寝台を汚してしまったからのようで……」
「なるほど……」
「起きた後、おねしょしたことに気がついたアンディ様は、
恥ずかしかったのか水差しの水を寝台にまかれて。
それを止めてしまったのがいけなかったのか、
水差しのお代わりを持って来させては部屋中にまいてしまって……」
どうやら部屋の中に水を撒くというのを止められたために、
もっとやってやろうと思ってしまったらしい。
「何度か止めようとしたのですが、止めれば止めるほど……」
「アンディを止めても無駄だと思うわ。
リーナが悪いわけじゃないから謝らなくていいの。
どこか、客室の用意をしてくれる?」
「もう準備はしてあります、こちらへ」
リーナの案内で普段は使っていない客室へと向かう。
新しいシーツがかけられている寝台を見て、
しばらくはこちらの部屋にいることになりそうだと思う。
あれだけ水浸しになったら、元に戻すのは大変だろう。
次の日、学園から帰ると使っていた客室も水浸しになっていた。
「まさか、ここも?」
「はい……ジュリア様が使っている部屋に案内しろと、
アンディ様付きの使用人に言ったみたいです。
私が違う仕事から戻った時にはもう……」
「あぁ、うん。リーナのせいじゃないから。
でも、新しい客室に移ったら、そこもこうなるのかしら……」
「ヨゼフさんが、ジュリア様が学園に行っている間は鍵をかけると」
「鍵?入れないように?それって、大丈夫なの?」
「わかりません」
リーナも不安そうに答える。
ヨゼフが鍵をかけたとしても、お父様が開けろと命じるのでは。
そう思ったが、ヨゼフは出かける用事があるそうだ。
鍵を持って出かければ、そこはもう開けられないだろうと。
その方法はうまくいき、次の日に帰って来た時には、
客室はきれいなままだった。
しばらくヨゼフは出かける作戦でいくようだけど、
これが続いているうちに私の部屋が使えるようになるだろうか。
夜になって、夜着に着替えて寝ようとしていると、
ドアが乱暴に叩かれる。
「開けて!」
「……アンディ?」
ドアを開けると、そこには水差しを持ったアンディがいた。
私がいるのを見て、にやりと笑う。
「見つけた!」
見つけた?もしかして、いろんな部屋を探しに行っていた?
アンディはするりと私とドアの隙間を抜けて、部屋に入り込もうとした。
「ちょっと待って!」
「なぁに?」
「その水差し、どうするの?」
「これ?お水まくの」
やっぱり。また私を困らせたくてわざわざ来たんだろう。
だけど、私の部屋はまだ使える状態じゃないし、
一昨日使った客室も乾いていない。
この部屋まで濡らされてしまったら困る。
「もう遅いから自分の部屋に帰って」
「お水まいてからね?」
「だめ、帰って」
止めたら喜びそうだと思ったけれど、めんどくさくなってしまった。
アンディの身体をくるっと回転させて、部屋から出す。
そのままドアを閉めると、ドンドンと叩く音がする。
うるさいけれど、そのうち飽きて部屋に戻るだろう。
思った通り、少しして音がしなくなる。
部屋に戻ったんだと思ったら、違った。
「おい、ここを開けろ」
「え?」
ドアを開けたら、お父様とお母様がいた。
その後ろでアンディが楽しそうに笑っている。
まさか、あきらめたくなくて二人を呼んできたの?
「こんな夜にどうしたんですか?」
「お前がアンディを追い出したと聞いた」
「ええ、もう夜遅いですから」
「そんなことはどうでもいい」
「どうでもいいって、部屋の中を水浸しにしようとしたんですよ?」
まだアンディは水差しを持ったままだった。
それを指さして説明したが、お父様は納得しなかった。
「それがどうした。
アンディがそうしたいなら、そうさせればいいだろう」
「水浸しにさせろっていうんですか?
じゃあ、私はどこで眠れば?」
「そんなものは知らない」
「ええ?」
いくらなんでもそれはおかしいんじゃと思ったけれど、
お母様まで同意する。
「この屋敷のすべてはアンディの物なのよ。
あなたは住まわせてもらっているだけなんだから、
アンディの言うことを聞かなきゃだめじゃない。
ほら、アンディ、好きにしていいわよ」
「え?」
「わぁい、そこどいて?」
にっこり笑って部屋に入ってこようとするアンディに、
イラついてしまって大きな声が出る。
「いやよ!」
「ジュリア!お前はどうしてそうも反抗的なんだ!」
「そうよ、謝りなさい!」
「嫌です!私はおかしいことは言ってません!」
この寒くなってきた時期に、部屋を水浸しにされたら、
私はどうなると思っているのか。
おかしいのはお父様とお母様だ。
自分は間違ってないと思ったのに、パアンと頬を叩かれる。
叩いたのはお父様じゃなく、お母様だった。
「お母様……どうして?」
1,671
お気に入りに追加
2,992
あなたにおすすめの小説

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

本日より他人として生きさせていただきます
ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる