あなたにはもう何も奪わせない

gacchi

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31.過熱するいたずら

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そんな風に過ごしていたら、いつの間にか季節は変わり、
少し肌寒くなってきた。
これから冬が来て、春が来たら卒業になる。
学園に通うのは楽しいけれど、屋敷内ではぼんやりすることが増えた。
時間が過ぎなければいい。このまま学生のままでいられたらいいのに。


そんなある日、学園から帰ると私の部屋が水浸しになっていた。
寝台もソファも、絨毯までびしょぬれになっている。

「何があったの?」

「アンディ様です」

「なぜ、こんなことを?」

「実は、アンディ様が昼にこの部屋に来まして、
 どうしてもここで昼寝をしたいと」

「昼寝?私の部屋で寝てたの?」

「はい……それでおねしょを……」

おねしょ。アンディはまだ三歳と数か月。
おねしょしてもおかしくはないけれど。

「どうやら、この部屋で昼寝をしたのも、
 自分の部屋の寝台を汚してしまったからのようで……」

「なるほど……」

「起きた後、おねしょしたことに気がついたアンディ様は、
 恥ずかしかったのか水差しの水を寝台にまかれて。
 それを止めてしまったのがいけなかったのか、
 水差しのお代わりを持って来させては部屋中にまいてしまって……」

どうやら部屋の中に水を撒くというのを止められたために、
もっとやってやろうと思ってしまったらしい。

「何度か止めようとしたのですが、止めれば止めるほど……」

「アンディを止めても無駄だと思うわ。
 リーナが悪いわけじゃないから謝らなくていいの。
 どこか、客室の用意をしてくれる?」

「もう準備はしてあります、こちらへ」

リーナの案内で普段は使っていない客室へと向かう。
新しいシーツがかけられている寝台を見て、
しばらくはこちらの部屋にいることになりそうだと思う。
あれだけ水浸しになったら、元に戻すのは大変だろう。

次の日、学園から帰ると使っていた客室も水浸しになっていた。

「まさか、ここも?」

「はい……ジュリア様が使っている部屋に案内しろと、
 アンディ様付きの使用人に言ったみたいです。
 私が違う仕事から戻った時にはもう……」

「あぁ、うん。リーナのせいじゃないから。
 でも、新しい客室に移ったら、そこもこうなるのかしら……」

「ヨゼフさんが、ジュリア様が学園に行っている間は鍵をかけると」

「鍵?入れないように?それって、大丈夫なの?」

「わかりません」

リーナも不安そうに答える。
ヨゼフが鍵をかけたとしても、お父様が開けろと命じるのでは。

そう思ったが、ヨゼフは出かける用事があるそうだ。
鍵を持って出かければ、そこはもう開けられないだろうと。

その方法はうまくいき、次の日に帰って来た時には、
客室はきれいなままだった。
しばらくヨゼフは出かける作戦でいくようだけど、
これが続いているうちに私の部屋が使えるようになるだろうか。

夜になって、夜着に着替えて寝ようとしていると、
ドアが乱暴に叩かれる。

「開けて!」

「……アンディ?」

ドアを開けると、そこには水差しを持ったアンディがいた。
私がいるのを見て、にやりと笑う。

「見つけた!」

見つけた?もしかして、いろんな部屋を探しに行っていた?
アンディはするりと私とドアの隙間を抜けて、部屋に入り込もうとした。

「ちょっと待って!」

「なぁに?」

「その水差し、どうするの?」

「これ?お水まくの」

やっぱり。また私を困らせたくてわざわざ来たんだろう。
だけど、私の部屋はまだ使える状態じゃないし、
一昨日使った客室も乾いていない。
この部屋まで濡らされてしまったら困る。

「もう遅いから自分の部屋に帰って」

「お水まいてからね?」

「だめ、帰って」

止めたら喜びそうだと思ったけれど、めんどくさくなってしまった。
アンディの身体をくるっと回転させて、部屋から出す。
そのままドアを閉めると、ドンドンと叩く音がする。

うるさいけれど、そのうち飽きて部屋に戻るだろう。
思った通り、少しして音がしなくなる。
部屋に戻ったんだと思ったら、違った。

「おい、ここを開けろ」

「え?」

ドアを開けたら、お父様とお母様がいた。
その後ろでアンディが楽しそうに笑っている。
まさか、あきらめたくなくて二人を呼んできたの?

「こんな夜にどうしたんですか?」

「お前がアンディを追い出したと聞いた」

「ええ、もう夜遅いですから」

「そんなことはどうでもいい」

「どうでもいいって、部屋の中を水浸しにしようとしたんですよ?」

まだアンディは水差しを持ったままだった。
それを指さして説明したが、お父様は納得しなかった。

「それがどうした。
 アンディがそうしたいなら、そうさせればいいだろう」

「水浸しにさせろっていうんですか?
 じゃあ、私はどこで眠れば?」

「そんなものは知らない」

「ええ?」

いくらなんでもそれはおかしいんじゃと思ったけれど、
お母様まで同意する。

「この屋敷のすべてはアンディの物なのよ。
 あなたは住まわせてもらっているだけなんだから、
 アンディの言うことを聞かなきゃだめじゃない。
 ほら、アンディ、好きにしていいわよ」

「え?」

「わぁい、そこどいて?」

にっこり笑って部屋に入ってこようとするアンディに、
イラついてしまって大きな声が出る。

「いやよ!」

「ジュリア!お前はどうしてそうも反抗的なんだ!」

「そうよ、謝りなさい!」

「嫌です!私はおかしいことは言ってません!」

この寒くなってきた時期に、部屋を水浸しにされたら、
私はどうなると思っているのか。
おかしいのはお父様とお母様だ。

自分は間違ってないと思ったのに、パアンと頬を叩かれる。
叩いたのはお父様じゃなく、お母様だった。

「お母様……どうして?」
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