25 / 56
25.ブローチの真実
しおりを挟む
「この宝石はジョルダリ国でしか産出されない。
しかも、購入できるのは王族に限られている」
「は?」
……え?王族しか購入できない?それって……
ライオネル様の言葉を信じなかったのか、誤魔化したかったのか、
アマンダ様がライオネル様に可愛らしく笑いかける。
「何の話をしているのですか?ライオネル様。
これはそんな高貴なものではないですよ?
たしかに綺麗な宝石ですけど、
王族しか購入できないようなものではありません」
自信があるのか、アマンダ様は言い切った。
このブローチは王族のものではないと。
多分、それは私がずっと持っていたのを知っているからだ。
十歳のお茶会の時から私が持っているのに、そんなわけないと。
……私は、一つの可能性に気がついて、息をのんだ。
「王族のものだと証明すればいいのか?」
「ええ、できるのであれば」
「じゃあ、そのブローチを俺に渡してくれ」
「え?何をするのですか?」
「証明してほしいのだろう?」
「……わかりました」
ライオネル様が何をするのか予想できないからか、
アマンダ様は少し渋った。
だが、ライオネル様の指示に従わないわけにもいかないのか、
おとなしくブローチを外してライオネル様に渡す。
ライオネル様は受け取ったブローチを手のひらにのせて、
周りにいた学生たちにも見えるようにした。
「これは、この宝石は王族の魔力に反応するようになっている」
魔力に反応?
どういうことだと見ていたら、宝石から光が浮かび上がった。
その模様がジョルダリ国の紋章なのに気がつく。
「おい、光ってるぞ」
「何、あの浮かび上がってる模様」
「あれって、国の紋章じゃない?」
「じゃあ、王族しか購入できないって本当なのか?」
「……それじゃあ、アマンダ様の物じゃないの?」
「盗んだのはアマンダ様だってこと?……嘘ぉ、ひどくない?」
さっきまで味方だった学生たちが、アマンダ様を疑い始める。
それが聞こえているのか、アマンダ様は唇をかみしめる。
「これを見たらわかるだろう?
王族の物だとわかるように、紋章が浮かび上がるようになっているんだ」
「ですが、なぜ、それがジュリア様のものだと?
うちの商会がそれを知らなくて、
たまたま手に入れたものかもしれないじゃないですか」
「ジョルダリ国から不正に流れ着いたものだと?ありえないな。
この石、精霊石を管理しているのは俺の母の生家だ。
原石の一つ一つに当主である侯爵が魔力をこめて管理している。
もし、盗まれたとしても、追跡できるようになっている」
「……それでも、ジュリア様のものだとは」
ブローチが王族の物だとわかっても、
あくまでも自分は知らずに手に入れたと言い張るアマンダ様に、
周りの目も冷たくなっていく。
「どうしてジュリアの物だと認められないんだ?」
「だって、それがジュリア様の物だったとしたら、
ジュリア様は十歳の時から持っていたことになります!
ライオネル様は今年になって留学してきたのに、おかしいじゃないですか!」
「あぁ、そういうことか。
俺がこのブローチをジュリアに渡したのは十年前だ」
「え?十年前だなんて嘘です!
そんな前に会っているわけないもの!」
そうだよね、普通ならそう思う。
隣国の王子と会う機会なんてない。
この国の王族とも会う前だったのだから、なおさら。
「そうか?侯爵家出身なら王子妃になることだってめずらしくない。
俺に年が近い侯爵令嬢はジュリアしかいないし、
隣国だとしても、王子の俺と会う機会があってもおかしくないだろう」
「そ、そんな……本当に?」
「十年前、初めて会ったジュリアに、
大事なものだから預かっていてくれと言って渡した。
このブローチは俺が生まれた時に母から贈られたものだ。
だから、これがジュリアの物だとすぐにわかった」
「……嘘よ……」
やっぱり……あの時の少年はライオネル様だった……。
赤色でも茶色でもない、銀髪のライオネル様があの少年だとは、
想像もしていなかったけれど。
「これは間違いなく、ジュリアの物だ。
俺が渡した守り石なのだから」
「……もういいです、わかりました」
もう何も言えなくなったのか、アマンダ様が悔しそうな顔をする。
そのまま立ち去ろうとしたアマンダ様に、
ライオネル様の鋭い声が飛ぶ。
「おい、逃げるなよ。ジュリアに謝罪は?」
「っ!」
「ブローチを盗んだうえに、謝罪するように強要していたよな?
お前こそ、ジュリアと周りの者たちに謝罪しなきゃいけないだろう」
「……も、もうしわけ…ありませんでした!」
よほど言いたくなかったのか、
最後は早口で言い切ると、アマンダ様は走って逃げた。
これではとても謝罪には思えない。
それを見た学生たちは好き勝手に言い始める。
「最低じゃない?」
「何、あれ。謝ったって言えるの?」
「あのアマンダ様って、わがままで有名らしいよ」
「私、知ってる。昔、他の令嬢から物を無理やり奪ってたって」
「うわぁ、ひでぇな。その性格のまま育ったのかよ」
ざわざわとアマンダ様への悪口が聞こえてくる中、
私はそれどころではなかった。
ライオネル様が、あの時の少年。
まだ信じられず、ぼーっと突っ立ったままの私を、
ライオネル様がのぞきこんでくる。
「大丈夫か?ジュリア、ほら」
「あ、ありがとう」
ライオネル様がブローチを渡してくれる。
大事なブローチ。このブローチに、何度助けられただろう。
両手でぎゅっと包み込むようにすると、
ライオネル様が苦しそうに笑った。
「一人で取り返しに行くなんて無茶するなよ」
「ごめんなさい」
「俺はそんなに頼りないか?」
「……ごめんなさい」
頼りないとは思っていない。
だけど、頼ろうとは思っていなかった。
だって、私とライオネル様はそんな関係じゃない。
ライオネル様はため息をついて、私の手を取る。
「授業は火事のため中止だそうだ。少し話そうか」
「うん……」
そのまま手をひかれて、カフェテリアの個室へと連れていかれる。
私たちの後ろからついてきたジニーは個室へは入らなかった。
いつもなら二人きりにするのはまずいって、一緒に入るのに。
「聞きたいことがあるんだろう?」
「……ライオネル様があの時の少年?」
「あの時の、っていうのが西門の時ならそうだ」
やっぱりそうだった。
あの時、私を助けてくれたのはライオネル様だった。
「私だって、最初から気づいていたの?」
しかも、購入できるのは王族に限られている」
「は?」
……え?王族しか購入できない?それって……
ライオネル様の言葉を信じなかったのか、誤魔化したかったのか、
アマンダ様がライオネル様に可愛らしく笑いかける。
「何の話をしているのですか?ライオネル様。
これはそんな高貴なものではないですよ?
たしかに綺麗な宝石ですけど、
王族しか購入できないようなものではありません」
自信があるのか、アマンダ様は言い切った。
このブローチは王族のものではないと。
多分、それは私がずっと持っていたのを知っているからだ。
十歳のお茶会の時から私が持っているのに、そんなわけないと。
……私は、一つの可能性に気がついて、息をのんだ。
「王族のものだと証明すればいいのか?」
「ええ、できるのであれば」
「じゃあ、そのブローチを俺に渡してくれ」
「え?何をするのですか?」
「証明してほしいのだろう?」
「……わかりました」
ライオネル様が何をするのか予想できないからか、
アマンダ様は少し渋った。
だが、ライオネル様の指示に従わないわけにもいかないのか、
おとなしくブローチを外してライオネル様に渡す。
ライオネル様は受け取ったブローチを手のひらにのせて、
周りにいた学生たちにも見えるようにした。
「これは、この宝石は王族の魔力に反応するようになっている」
魔力に反応?
どういうことだと見ていたら、宝石から光が浮かび上がった。
その模様がジョルダリ国の紋章なのに気がつく。
「おい、光ってるぞ」
「何、あの浮かび上がってる模様」
「あれって、国の紋章じゃない?」
「じゃあ、王族しか購入できないって本当なのか?」
「……それじゃあ、アマンダ様の物じゃないの?」
「盗んだのはアマンダ様だってこと?……嘘ぉ、ひどくない?」
さっきまで味方だった学生たちが、アマンダ様を疑い始める。
それが聞こえているのか、アマンダ様は唇をかみしめる。
「これを見たらわかるだろう?
王族の物だとわかるように、紋章が浮かび上がるようになっているんだ」
「ですが、なぜ、それがジュリア様のものだと?
うちの商会がそれを知らなくて、
たまたま手に入れたものかもしれないじゃないですか」
「ジョルダリ国から不正に流れ着いたものだと?ありえないな。
この石、精霊石を管理しているのは俺の母の生家だ。
原石の一つ一つに当主である侯爵が魔力をこめて管理している。
もし、盗まれたとしても、追跡できるようになっている」
「……それでも、ジュリア様のものだとは」
ブローチが王族の物だとわかっても、
あくまでも自分は知らずに手に入れたと言い張るアマンダ様に、
周りの目も冷たくなっていく。
「どうしてジュリアの物だと認められないんだ?」
「だって、それがジュリア様の物だったとしたら、
ジュリア様は十歳の時から持っていたことになります!
ライオネル様は今年になって留学してきたのに、おかしいじゃないですか!」
「あぁ、そういうことか。
俺がこのブローチをジュリアに渡したのは十年前だ」
「え?十年前だなんて嘘です!
そんな前に会っているわけないもの!」
そうだよね、普通ならそう思う。
隣国の王子と会う機会なんてない。
この国の王族とも会う前だったのだから、なおさら。
「そうか?侯爵家出身なら王子妃になることだってめずらしくない。
俺に年が近い侯爵令嬢はジュリアしかいないし、
隣国だとしても、王子の俺と会う機会があってもおかしくないだろう」
「そ、そんな……本当に?」
「十年前、初めて会ったジュリアに、
大事なものだから預かっていてくれと言って渡した。
このブローチは俺が生まれた時に母から贈られたものだ。
だから、これがジュリアの物だとすぐにわかった」
「……嘘よ……」
やっぱり……あの時の少年はライオネル様だった……。
赤色でも茶色でもない、銀髪のライオネル様があの少年だとは、
想像もしていなかったけれど。
「これは間違いなく、ジュリアの物だ。
俺が渡した守り石なのだから」
「……もういいです、わかりました」
もう何も言えなくなったのか、アマンダ様が悔しそうな顔をする。
そのまま立ち去ろうとしたアマンダ様に、
ライオネル様の鋭い声が飛ぶ。
「おい、逃げるなよ。ジュリアに謝罪は?」
「っ!」
「ブローチを盗んだうえに、謝罪するように強要していたよな?
お前こそ、ジュリアと周りの者たちに謝罪しなきゃいけないだろう」
「……も、もうしわけ…ありませんでした!」
よほど言いたくなかったのか、
最後は早口で言い切ると、アマンダ様は走って逃げた。
これではとても謝罪には思えない。
それを見た学生たちは好き勝手に言い始める。
「最低じゃない?」
「何、あれ。謝ったって言えるの?」
「あのアマンダ様って、わがままで有名らしいよ」
「私、知ってる。昔、他の令嬢から物を無理やり奪ってたって」
「うわぁ、ひでぇな。その性格のまま育ったのかよ」
ざわざわとアマンダ様への悪口が聞こえてくる中、
私はそれどころではなかった。
ライオネル様が、あの時の少年。
まだ信じられず、ぼーっと突っ立ったままの私を、
ライオネル様がのぞきこんでくる。
「大丈夫か?ジュリア、ほら」
「あ、ありがとう」
ライオネル様がブローチを渡してくれる。
大事なブローチ。このブローチに、何度助けられただろう。
両手でぎゅっと包み込むようにすると、
ライオネル様が苦しそうに笑った。
「一人で取り返しに行くなんて無茶するなよ」
「ごめんなさい」
「俺はそんなに頼りないか?」
「……ごめんなさい」
頼りないとは思っていない。
だけど、頼ろうとは思っていなかった。
だって、私とライオネル様はそんな関係じゃない。
ライオネル様はため息をついて、私の手を取る。
「授業は火事のため中止だそうだ。少し話そうか」
「うん……」
そのまま手をひかれて、カフェテリアの個室へと連れていかれる。
私たちの後ろからついてきたジニーは個室へは入らなかった。
いつもなら二人きりにするのはまずいって、一緒に入るのに。
「聞きたいことがあるんだろう?」
「……ライオネル様があの時の少年?」
「あの時の、っていうのが西門の時ならそうだ」
やっぱりそうだった。
あの時、私を助けてくれたのはライオネル様だった。
「私だって、最初から気づいていたの?」
2,243
お気に入りに追加
2,992
あなたにおすすめの小説

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

婚約破棄のその後に
ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」
来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。
「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」
一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。
見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。

この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる