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16.欲しいもの(アマンダ)
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絶対にうまくいくと思っていたのに!
侯爵家のあの女さえいなくなれば、
ライオネル様の案内役には筆頭伯爵家の私が選ばれる。
そう思って計画したことがなぜかうまくいかなかった。
あまりの悔しさに涙をふくこともせずに廊下に逃げ出した。
教室内の笑い声が耳から離れず、
どこまでも追いかけてくるような気がした。
初めてお会いした日、これは運命だと感じた。
あんなに美しい令息は見たことがない。しかも隣国の王子。
ライオネル様を手に入れたら、みんながうらやましがるはずだって。
きっと私のために用意されたんだわ。
ライオネル様の隣にいる私はどれだけ素敵に見えるのか。
妃にと望まれたのなら、伯爵家なんて捨ててもいい。
王子妃の身分のほうが私にふさわしいもの。
そう思って声をかけたのに、なぜかライオネル様はジュリアを選んだ。
侯爵家という身分と金髪で生まれたのにも関わらず平凡な令嬢。
それなのにいつでも私の上にいて、邪魔し続ける。
今回もまた私の望む場所にはジュリアがいる。
六歳上の王太子と四歳上の第二王子の婚約者には、
筆頭伯爵家だというのに私は候補にすらなれなかった。
年齢があわなかったことと、伯爵家を継ぐのは私しかいないからだ。
知らない間にクルーゾー侯爵家の長女が王太子妃に決まっていた。
第二王子は王太子の子が生まれるのを待ってから結婚すると公言している。
おそらくまだ十二歳のディバリー侯爵家の末子を選ぶだろうと言われている。
そして、残る三大侯爵家の令嬢は一人だけ。
ジュリア・オクレール
長男が感染症で亡くなったから、結果として嫡子となった長女。
嫡子にならなかったら第二王子の婚約者になっていたかもしれない。
王命で王子妃を選ぶことはしないけれど、
侯爵家の嫡子以外の令嬢は王子と交流することが許されている。
政略結婚ではないとはいえ、交流していれば仲良くなる可能性が高い。
ジュリアが嫡子になったのは九歳。
王子との交流が始まる二年前のことだった。
だから、ジュリアは王子と交流することもなく、
王子の婚約者候補になることもなかった。
ジュリアが王子妃にならなかったことは良かったけれど、
それでも身分差は変わらない。
このまま婿をとったとしてもジュリアは女侯爵に、私は女伯爵に。
一生、ジュリアの下にいなければならないなんて。
だからこそ、ライオネル様は神様が用意してくれたのだと喜んだ。
隣国だとしても王子妃になればジュリアよりも上にいける。
誰もがうらやむような夫と身分が手に入るのだ。
それなのにライオネル様は頑なに私が近づくのを嫌がった。
きっとジュリアが何か言ったのに違いない。
なんとかしてジュリアをライオネル様から離さなくてはいけない。
私が思いついたのは、ブリュノをジュリアに返すことだった。
「なぁ、アマンダ。さっきから黙ってるけどどうしたんだ?」
「ブリュノ……なんでもないわ」
ジュリアがずっと気にしているようだから奪ったけれど、
ブリュノは話せば話すほどつまらない男だった。
いつもへらへらと笑っているだけ。
勉強嫌いで面白い話をすることもできない。
まともなエスコートすらできないブリュノを婿にするなんてありえない。
こんな男を夫にするつもりなんて最初からなかった。
ジュリアの札を奪った時の顔はとてもよかった。
仮婚約相手を奪われたと理解した時の青ざめていく様子が、
今までで一番見てて楽しかった。
だから、この一年は近くで見せつけて遊ぼうと思っていたけれど。
ジュリアの喜ぶ顔は見たくないけれど、ライオネル様のためだもの。
「そんな顔していて、なんでもなくはないだろう?」
「実は……ジュリア様が」
ずっとジュリアがブリュノを好きだったことを告げ、
親友の好きな人を奪ったようで心苦しいと言うとブリュノの顔がだらしなく歪んだ。
ふうん。ジュリアに好かれてうれしいんだ。
ちょっとだけ面白くないけれど、何度も悩んでいる風に相談してから、
やっぱり解消したほうがいいとお願いした。
ブリュノもそんなに悩むならそうしようと承諾してくれた。
これで全部がうまくいく。
今はライオネル様に近づけないけれど、学園長から正式に案内役に任命されたら、
ずっとライオネル様の隣にいることができる。
仮婚約の再儀式の日、札を引きにジュリアは教室から出て行った。
それから少し遅れてブリュノが教室に荷物を置きに来た。
「おはよう、アマンダ」
「ええ、おはよう。ジュリア様はもう行ったわよ。
待たせちゃだめじゃない」
「え?もう?じゃあ、行ってくる」
にこにこと教室から出ていくのを見送って、ライオネル様に話しかけに行った。
まだ正式に任命されたわけじゃないけれど、あと少しが待てなかった。
どうせジュリアが戻ってくるときにはブリュノと一緒だもの。
もう私の邪魔をすることはないだろう。
そう思って、ライオネル様に満面の笑みで話しかけた。
……どうして?
どうして再儀式に参加しなかったの?
ジュリアはブリュノが好きだったんじゃないの?
だって、あんなに悔しそうな顔していたじゃない。
ライオネル様に冷たくあしらわれ、
ジュリアにまで友人でもないと言われてしまい、
それ以上のうまい言い訳が思いつかなかった。
どこでもいい。
一人で落ち着いて考えなくちゃ。
まだあきらめたくない。ライオネル様は私のものだ。
人がいないところを探そうとしたら、向こうからブリュノが走ってくるのが見えた。
「おい!アマンダ!」
侯爵家のあの女さえいなくなれば、
ライオネル様の案内役には筆頭伯爵家の私が選ばれる。
そう思って計画したことがなぜかうまくいかなかった。
あまりの悔しさに涙をふくこともせずに廊下に逃げ出した。
教室内の笑い声が耳から離れず、
どこまでも追いかけてくるような気がした。
初めてお会いした日、これは運命だと感じた。
あんなに美しい令息は見たことがない。しかも隣国の王子。
ライオネル様を手に入れたら、みんながうらやましがるはずだって。
きっと私のために用意されたんだわ。
ライオネル様の隣にいる私はどれだけ素敵に見えるのか。
妃にと望まれたのなら、伯爵家なんて捨ててもいい。
王子妃の身分のほうが私にふさわしいもの。
そう思って声をかけたのに、なぜかライオネル様はジュリアを選んだ。
侯爵家という身分と金髪で生まれたのにも関わらず平凡な令嬢。
それなのにいつでも私の上にいて、邪魔し続ける。
今回もまた私の望む場所にはジュリアがいる。
六歳上の王太子と四歳上の第二王子の婚約者には、
筆頭伯爵家だというのに私は候補にすらなれなかった。
年齢があわなかったことと、伯爵家を継ぐのは私しかいないからだ。
知らない間にクルーゾー侯爵家の長女が王太子妃に決まっていた。
第二王子は王太子の子が生まれるのを待ってから結婚すると公言している。
おそらくまだ十二歳のディバリー侯爵家の末子を選ぶだろうと言われている。
そして、残る三大侯爵家の令嬢は一人だけ。
ジュリア・オクレール
長男が感染症で亡くなったから、結果として嫡子となった長女。
嫡子にならなかったら第二王子の婚約者になっていたかもしれない。
王命で王子妃を選ぶことはしないけれど、
侯爵家の嫡子以外の令嬢は王子と交流することが許されている。
政略結婚ではないとはいえ、交流していれば仲良くなる可能性が高い。
ジュリアが嫡子になったのは九歳。
王子との交流が始まる二年前のことだった。
だから、ジュリアは王子と交流することもなく、
王子の婚約者候補になることもなかった。
ジュリアが王子妃にならなかったことは良かったけれど、
それでも身分差は変わらない。
このまま婿をとったとしてもジュリアは女侯爵に、私は女伯爵に。
一生、ジュリアの下にいなければならないなんて。
だからこそ、ライオネル様は神様が用意してくれたのだと喜んだ。
隣国だとしても王子妃になればジュリアよりも上にいける。
誰もがうらやむような夫と身分が手に入るのだ。
それなのにライオネル様は頑なに私が近づくのを嫌がった。
きっとジュリアが何か言ったのに違いない。
なんとかしてジュリアをライオネル様から離さなくてはいけない。
私が思いついたのは、ブリュノをジュリアに返すことだった。
「なぁ、アマンダ。さっきから黙ってるけどどうしたんだ?」
「ブリュノ……なんでもないわ」
ジュリアがずっと気にしているようだから奪ったけれど、
ブリュノは話せば話すほどつまらない男だった。
いつもへらへらと笑っているだけ。
勉強嫌いで面白い話をすることもできない。
まともなエスコートすらできないブリュノを婿にするなんてありえない。
こんな男を夫にするつもりなんて最初からなかった。
ジュリアの札を奪った時の顔はとてもよかった。
仮婚約相手を奪われたと理解した時の青ざめていく様子が、
今までで一番見てて楽しかった。
だから、この一年は近くで見せつけて遊ぼうと思っていたけれど。
ジュリアの喜ぶ顔は見たくないけれど、ライオネル様のためだもの。
「そんな顔していて、なんでもなくはないだろう?」
「実は……ジュリア様が」
ずっとジュリアがブリュノを好きだったことを告げ、
親友の好きな人を奪ったようで心苦しいと言うとブリュノの顔がだらしなく歪んだ。
ふうん。ジュリアに好かれてうれしいんだ。
ちょっとだけ面白くないけれど、何度も悩んでいる風に相談してから、
やっぱり解消したほうがいいとお願いした。
ブリュノもそんなに悩むならそうしようと承諾してくれた。
これで全部がうまくいく。
今はライオネル様に近づけないけれど、学園長から正式に案内役に任命されたら、
ずっとライオネル様の隣にいることができる。
仮婚約の再儀式の日、札を引きにジュリアは教室から出て行った。
それから少し遅れてブリュノが教室に荷物を置きに来た。
「おはよう、アマンダ」
「ええ、おはよう。ジュリア様はもう行ったわよ。
待たせちゃだめじゃない」
「え?もう?じゃあ、行ってくる」
にこにこと教室から出ていくのを見送って、ライオネル様に話しかけに行った。
まだ正式に任命されたわけじゃないけれど、あと少しが待てなかった。
どうせジュリアが戻ってくるときにはブリュノと一緒だもの。
もう私の邪魔をすることはないだろう。
そう思って、ライオネル様に満面の笑みで話しかけた。
……どうして?
どうして再儀式に参加しなかったの?
ジュリアはブリュノが好きだったんじゃないの?
だって、あんなに悔しそうな顔していたじゃない。
ライオネル様に冷たくあしらわれ、
ジュリアにまで友人でもないと言われてしまい、
それ以上のうまい言い訳が思いつかなかった。
どこでもいい。
一人で落ち着いて考えなくちゃ。
まだあきらめたくない。ライオネル様は私のものだ。
人がいないところを探そうとしたら、向こうからブリュノが走ってくるのが見えた。
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