14 / 56
14.再儀式の日
しおりを挟む
再儀式の日、いつものようにライオネル様が迎えに来てくれて、
馬車に乗って学園へと向かう。隣にはライオネル様、向かいには大きなジニー。
この三人で行動するのにも慣れてきた。
護衛であるジニーは、さすがに授業中や図書室にいる間は外に出ているが、
昼食時には一緒に個室に入ってくれている。
「今日はどういう予定になるんだ?授業はあるんだよな?」
「一応ね。仮儀式の間は関係ない学生は自習ってことになってる」
「ジュリアは参加しないんだよな?」
「参加しないんだけど、一度行かなきゃいけないのよね」
「何をしに?」
「参加しませんって言いに」
「わざわざか?」
呆れたようにライオネル様は言うけれど、これにもちゃんと理由があるらしい。
「ほら、わざわざ行くのめんどくさいでしょう?
だから参加しないって思う人も中にはいると思うの。
だけど、断るにも控室まで行かなきゃいけないなら、
ついでに札を引くくらいいいかと思って参加する可能性もあるからって」
「そんな理由で?」
「あとは直前で考えを変える人もあるでしょう?
その場の雰囲気とかもあるし、けっこういるんですって。
参加しないつもりだったけど、控室に行ったら参加したくなったってことも」
「ふうん……そんなもんなのか」
仮婚約は控えめな令嬢が行き遅れないための制度でもあるため、
できるかぎり参加しやすいようにできてるらしい。
強制はしないけれど、参加しても恥ずかしくないようにってところだろうか。
最初から参加しないつもりの私にとっては面倒だと思うけれど。
「だから、断る場合も控室まで当日行かなきゃいけないのよ。
……一度断れば、もうないと思うから」
「もう、ない?」
「仮婚約を解消すること自体めずらしいのよ。
だから、再儀式が二回以上行われたことは過去ないの。
今回もおそらく解消したのはアマンダ様たちだけだと思う。
私が控室に行って参加しませんって言ったら終わりになるわ」
仮婚約を解消した者同士が同じ組み合わせになることはない。
だから、今日の再儀式、解消したのがアマンダ様とブリュノ様だけだとしたら、
アマンダ様は最初から儀式に参加する権利がない。
私が札を引かないとなれば、それで終わることになる。
まぁ、本当に解消したのがアマンダ様とブリュノ様なのかは、
控室に行ってみないとわからないのだけど。
「控室に俺が行くことは?」
「できないわ。ライオネル様は教室で自習しててくれる?」
「……じゃあ、ジニーを連れて行ってくれ」
「ジニーを?」
「私もそれがいいと思います」
「……じゃあ、お願いするわ」
何もないとは思うけれど、B教室と控室は少し離れている。
あまり一人で行動するなと言われているし、素直に従っておこう。
一度三人でB教室に向かい、荷物を置く。
そのままジニーを連れて控室へと向かった。
「控室の中には護衛でも入れないと思うから、廊下で待っていて。
断ったら、すぐに出てくるわ」
「わかりました。何かあったら呼んでください」
「うん、行ってきます」
控室の中には仮婚約を担当する教師が二人待っていた。
札が入っている箱を抱えているが、一枚しか入ってないんじゃないのかな。
「ジュリア・オクレールですね。札をどうぞ」
「いえ、儀式には参加しません」
「え?参加しないのですか?」
「ええ。学園長からライオネル様の案内役を頼まれていますし、
結婚相手は卒業してから探すことにしました」
「……いいのですか?この札の相手はブリュノ・バルゲリーですよ?」
何か聞いているのか、焦ったように言われるが、それっていいのかな。
札を引く前に相手の名前を言うなんて。
必死に参加するように言われるが、参加するつもりはない。
「あの、何か誤解されてるようですが、
ブリュノ様と仮婚約するつもりはありません」
「はぁ?」
「好きじゃないんです。だから、参加する気にならないんです」
「……本当に?」
「ええ。アマンダ様と喧嘩したとか、意地になってるとかじゃないですからね?
ブリュノ様を好きだと思ったこともないですし、
そのことでアマンダ様に文句を言ったこともありません。
本当にブリュノ様には興味がなくて、アマンダ様の嘘には困っているんです」
「うそ……ですか?
アマンダ・イマルシェはあなたのために解消すると言ったようですが」
やっぱり。そんなことだろうと思っていた。
わざわざ教師にまでそんなことを言っているなんて。
ブリュノ様と仮婚約を解消しても自分は悪くないと言いたかったのか。
ため息をつきながら、もう一度はっきりと説明する。
「私とアマンダ様はそもそも友人ではありません。むしろ仲が悪いんです。
それはB教室の令嬢なら全員が知っていることです。
アマンダ様がブリュノ様と仮婚約したことについて、
不満を話したことは一度もありません」
あの時は本当に悔しかったけれど、誰にも言わなくて本当に良かった。
もし、本当の相手は私だったのに、なんて言ってしまっていたら、
アマンダ様の嘘が本当だと思われていただろう。
ここまではっきり説明したからか、教師たちは顔を見合わせてうなずいた。
「どうやらこちらの間違いのようですね。
失礼いたしました。参加せずで受理いたします」
「ええ、お願いしますね」
やっと受理してもらえ、廊下に出る。
心配していたのか、うろうろしていたジニーが飛んできた。
「時間がかかったようですが、大丈夫でしたか?」
「ええ、大丈夫。断ってきたわ。教室に戻りましょう」
ブリュノ様のいる控室とは離れているはず。
いや、もうすでに札を引いて講堂に行っているかもしれない。
再儀式中止の知らせを聞くまで時間があるだろう。
今のうちにさっさとB教室に戻ってしまいたい。
何か言われたとしても、周りの目があったほうがいい。
令嬢たちならアマンダ様の嘘だと気がついてくれるはずだから。
馬車に乗って学園へと向かう。隣にはライオネル様、向かいには大きなジニー。
この三人で行動するのにも慣れてきた。
護衛であるジニーは、さすがに授業中や図書室にいる間は外に出ているが、
昼食時には一緒に個室に入ってくれている。
「今日はどういう予定になるんだ?授業はあるんだよな?」
「一応ね。仮儀式の間は関係ない学生は自習ってことになってる」
「ジュリアは参加しないんだよな?」
「参加しないんだけど、一度行かなきゃいけないのよね」
「何をしに?」
「参加しませんって言いに」
「わざわざか?」
呆れたようにライオネル様は言うけれど、これにもちゃんと理由があるらしい。
「ほら、わざわざ行くのめんどくさいでしょう?
だから参加しないって思う人も中にはいると思うの。
だけど、断るにも控室まで行かなきゃいけないなら、
ついでに札を引くくらいいいかと思って参加する可能性もあるからって」
「そんな理由で?」
「あとは直前で考えを変える人もあるでしょう?
その場の雰囲気とかもあるし、けっこういるんですって。
参加しないつもりだったけど、控室に行ったら参加したくなったってことも」
「ふうん……そんなもんなのか」
仮婚約は控えめな令嬢が行き遅れないための制度でもあるため、
できるかぎり参加しやすいようにできてるらしい。
強制はしないけれど、参加しても恥ずかしくないようにってところだろうか。
最初から参加しないつもりの私にとっては面倒だと思うけれど。
「だから、断る場合も控室まで当日行かなきゃいけないのよ。
……一度断れば、もうないと思うから」
「もう、ない?」
「仮婚約を解消すること自体めずらしいのよ。
だから、再儀式が二回以上行われたことは過去ないの。
今回もおそらく解消したのはアマンダ様たちだけだと思う。
私が控室に行って参加しませんって言ったら終わりになるわ」
仮婚約を解消した者同士が同じ組み合わせになることはない。
だから、今日の再儀式、解消したのがアマンダ様とブリュノ様だけだとしたら、
アマンダ様は最初から儀式に参加する権利がない。
私が札を引かないとなれば、それで終わることになる。
まぁ、本当に解消したのがアマンダ様とブリュノ様なのかは、
控室に行ってみないとわからないのだけど。
「控室に俺が行くことは?」
「できないわ。ライオネル様は教室で自習しててくれる?」
「……じゃあ、ジニーを連れて行ってくれ」
「ジニーを?」
「私もそれがいいと思います」
「……じゃあ、お願いするわ」
何もないとは思うけれど、B教室と控室は少し離れている。
あまり一人で行動するなと言われているし、素直に従っておこう。
一度三人でB教室に向かい、荷物を置く。
そのままジニーを連れて控室へと向かった。
「控室の中には護衛でも入れないと思うから、廊下で待っていて。
断ったら、すぐに出てくるわ」
「わかりました。何かあったら呼んでください」
「うん、行ってきます」
控室の中には仮婚約を担当する教師が二人待っていた。
札が入っている箱を抱えているが、一枚しか入ってないんじゃないのかな。
「ジュリア・オクレールですね。札をどうぞ」
「いえ、儀式には参加しません」
「え?参加しないのですか?」
「ええ。学園長からライオネル様の案内役を頼まれていますし、
結婚相手は卒業してから探すことにしました」
「……いいのですか?この札の相手はブリュノ・バルゲリーですよ?」
何か聞いているのか、焦ったように言われるが、それっていいのかな。
札を引く前に相手の名前を言うなんて。
必死に参加するように言われるが、参加するつもりはない。
「あの、何か誤解されてるようですが、
ブリュノ様と仮婚約するつもりはありません」
「はぁ?」
「好きじゃないんです。だから、参加する気にならないんです」
「……本当に?」
「ええ。アマンダ様と喧嘩したとか、意地になってるとかじゃないですからね?
ブリュノ様を好きだと思ったこともないですし、
そのことでアマンダ様に文句を言ったこともありません。
本当にブリュノ様には興味がなくて、アマンダ様の嘘には困っているんです」
「うそ……ですか?
アマンダ・イマルシェはあなたのために解消すると言ったようですが」
やっぱり。そんなことだろうと思っていた。
わざわざ教師にまでそんなことを言っているなんて。
ブリュノ様と仮婚約を解消しても自分は悪くないと言いたかったのか。
ため息をつきながら、もう一度はっきりと説明する。
「私とアマンダ様はそもそも友人ではありません。むしろ仲が悪いんです。
それはB教室の令嬢なら全員が知っていることです。
アマンダ様がブリュノ様と仮婚約したことについて、
不満を話したことは一度もありません」
あの時は本当に悔しかったけれど、誰にも言わなくて本当に良かった。
もし、本当の相手は私だったのに、なんて言ってしまっていたら、
アマンダ様の嘘が本当だと思われていただろう。
ここまではっきり説明したからか、教師たちは顔を見合わせてうなずいた。
「どうやらこちらの間違いのようですね。
失礼いたしました。参加せずで受理いたします」
「ええ、お願いしますね」
やっと受理してもらえ、廊下に出る。
心配していたのか、うろうろしていたジニーが飛んできた。
「時間がかかったようですが、大丈夫でしたか?」
「ええ、大丈夫。断ってきたわ。教室に戻りましょう」
ブリュノ様のいる控室とは離れているはず。
いや、もうすでに札を引いて講堂に行っているかもしれない。
再儀式中止の知らせを聞くまで時間があるだろう。
今のうちにさっさとB教室に戻ってしまいたい。
何か言われたとしても、周りの目があったほうがいい。
令嬢たちならアマンダ様の嘘だと気がついてくれるはずだから。
1,872
お気に入りに追加
2,992
あなたにおすすめの小説

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。

婚約破棄のその後に
ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」
来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。
「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」
一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。
見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

【本編完結】独りよがりの初恋でした
須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。
それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。
アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。
#ほろ苦い初恋
#それぞれにハッピーエンド
特にざまぁなどはありません。
小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。

願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる