あなたにはもう何も奪わせない

gacchi

文字の大きさ
上 下
13 / 56

13.ブリュノ様の思い違い

しおりを挟む
「俺とアマンダの仮婚約がうまくいかなかったら、
 その場合は再儀式になるでしょ?
 そしたら俺の相手はジュリアになるんだし、興味あるよ」

「は?」

言われたことがうまく理解できなくて聞き返してしまう。
ブリュノ様は私の反応はどうでも良かったのか、
一人でうなずいて楽しそうに笑っている。

「いやさ、アマンダから聞いちゃったんだ。
 本当はジュリアが俺のこと狙ってたって。
 でも仮婚約の相手になったのはアマンダだっただろう?
 親友なのに相手を奪ってしまって申し訳ないわって落ち込んでたんだ。
 あ、怒らないでやってくれよ?俺が無理に聞き出したんだ」

「……はぁ。アマンダ様は友人でも親友でもないわ」

またかと思いつつ、それだけははっきりしておこうと答える。
私がブリュノ様を好きだとアマンダ様が誤解していたのはわかっている。
だから、もしかしたらブリュノ様に伝えているかもしれないとは思っていた。

だが、ブリュノ様は私の言葉を聞いて、おおげさに首を横に振る。
悲しそうな顔をした後、私に言い聞かせるようにゆっくり話す。

「友人じゃない?ひどいこと言うなよ。
 俺のせいで喧嘩したのはわかってるけど、
 そういうこと言うと後悔するって」

「喧嘩なんかしていないから大丈夫よ。
 もとから仲良くなんてしていないの」

「あーもう。仕方ないなぁ。
 親友は大事にしておいた方がいいと思うぞ?」

「だから!友人でもないって言っ」

「ジュリア、どうしたんだ?」

アマンダ様の話を信じ切ってしまっているブリュノ様に、
思わず大きな声で反論したら、席で待っているはずのライオネル様が来ていた。

「ライオネル様……」

「あ、俺は用事があるんだった。じゃあ、ジュリア。またな!」

ライオネル様から逃げるようにブリュノ様は逃げて行った。
……どうしてそんな慌てているんだろう。

「大丈夫だったか?絡まれているように見えたから声をかけたんだが」

「うん……からまれてた、のかも?」

「ジュリアに本を取りに行かせたのはまずいと思って追いかけてきたんだ。
 これからは一人になる時間はなるべく少なくしてくれ。
 俺のことで何かに巻き込まれないとも限らないんだ」

「あ、そうだね。気をつける」

そういえば王位争いに王妃争いまで起きそうなんだった。
私がライオネル様に近づくのを面白くないと思っている貴族家もあるだろう。
他国とはいえ、何もできないわけじゃない。もう少し気をつけるべきだ。

「それで、何があったんだ?」

「あ、あのね」

さきほどブリュノ様とした会話を説明すると、
ライオネル様の眉間にしわがよっていく。
これは怒ってる?理解できなくて?どちらもかな。

「なぁ、一応確認するが、ジュリアはその男が好きなのか?」

「いいえ、違うわ。
 ちょっと以前に会ったことがあるかどうか確認したかったのだけど、
 なんだか違うような気がしてきたから、それはもういいと思っていて」

「好きではないと?」

「うん。話したのは初めてだし、話してみて幻滅したというか……。
 なんというか、もやもやするというか?」

もし、あの時の少年だったらと思ったらドキドキする気持ちはあった。
だけど、それはブリュノ様に対する気持ちじゃない。
あの少年に会えるかもしれないという気持ちだった。
違うかもしれないと思っている今は、ブリュノ様になんの期待もない。

それどころか、さっきからイラついて気持ちが落ち着かない。
もちろん、アマンダ様については怒っているし、呆れている。
いつまで私に対して嫌がらせを続ける気なんだろうって。

だけど、ブリュノ様に対するこのイラつきはなんだろう。

「それって、不誠実だと思ったから怒ったんじゃないか?」

「不誠実?」

「だって、まだアマンダと仮婚約中なんだろう?
 解消するかどうかも決めていないのに、
 ジュリアと交流するっておかしくないか?」

「そう言われてみればそうね。同時に二人と交流しようだなんて」

そうか。アマンダ様と解消するから交流してと言われたのなら、
まだ声をかけてくるのは理解できる。
ブリュノ様はアマンダ様とうまくいかなかったらと言った。
今のところうまくいっているように見えるのに、私に声をかけてきた。

不誠実……本当だわ。

「俺にはその男はアマンダにぴったりだと思うが」

「そうね……私もそう思う」

精霊はアマンダ様が私から札を奪うことをわかっていて引かせた?
だから、仮婚約が成立したのだとしたら、お似合いなのは当然。

仮婚約の儀式の後からずっと引きずっていた思いが、
すっきり消え去った気がした。

なんだ。ブリュノ様の仮婚約相手にならなくて良かったんだ。
私と組んだ後でも、アマンダ様に声をかけられたらついていきそうだもの。
笑ってしまったら、ライオネル様が不思議そうな顔をする。

「何かいいことでもあったのか?」

「ん?そうね。ライオネル様が来てからいいことしかないわ」

「そうか。じゃあ、これからもそばにいないとだな」

「ふふ。よろしくね」

あらためてライオネル様が来てくれて良かった。
一緒にいてくれる相手がいなかったら、不誠実だとわかっていても、
ブリュノ様に話しかけられてうれしいと思ってしまったかもしれない。
私は一人でいられるほど強くないから。



そして、数日後の授業でブリュノ様があの少年じゃなかったことが判明する。
教師からバルゲリー領地を説明するように立たされたブリュノ様は、
自分の家の領地だというのに満足に説明できなかった。
その時に、「俺は一度も領地に行ったことがないから」と言い訳していた。

二男だったブリュノ様はやんちゃすぎて馬車の旅に耐えられないだろうと、
両親と嫡子が領地に行っている間も王都の屋敷で留守番していたらしい。
ということは、西門から出て行ったあの少年ではない。
違うだろうと思っていたけれど、万が一のこともある。
もし、あの少年がブリュノ様だったとしたら思い出が汚れてしまうような気がして、
確認するのはやめておこうと思っていた。
思わぬところで違うのだとわかり、心からほっとした。

だけど、もう少年を探すのは止めようと思った。
もし再会しても、うれしいとは限らないと知ってしまったから。
思い出は思い出として大事にして、ブローチはお守りとして持っていよう。


あのブローチはアマンダ様に奪われそうになってからは、
自分の部屋の鍵のかかる引き出しにしまいこんである。
ブローチの石にふれるのは誰もいないときだけ。
もう二度と誰にもさわらせないように、大事に大事にしまい込んであった。

このまま思い出も同じように大事にしまう時期なのかもしれない。



そして、仮婚約の儀式から三か月。
再儀式が行われる日が近づいていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

婚約破棄のその後に

ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」 来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。 「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」 一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。 見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

処理中です...