あなたにはもう何も奪わせない

gacchi

文字の大きさ
上 下
12 / 56

12.困ったお出迎え

しおりを挟む
ライオネル様が留学してきてから二週間。
最初はどうなるかと思ったが、アマンダ様の件が広まったおかげで、
ライオネル様に安易に近づこうとする令嬢はいなかった。

ただ、見目麗しい隣国の王子様にあこがれるものが多いのか、
ライオネル様が登校する時間に人だかりができるようになった。

一緒に登校している者としては見世物になっているようで落ち着かないが、
声はかけられないけれどせめて見るだけでもという気持ちはわからないでもない。
最初は三学年だけだったのが、少しずつ人が増え、
今では学園の令嬢の半数はいるのではないかと思う。

「毎日こうでは嫌になるな」

「学園から注意させる?そうしたら少しは減ると思うんだけど」

「いや、そこまでじゃない。
 だが、このままだと帰りの時間も待ち伏せされるようになりそうだ」

「んーそうね。帰りの時間をずらしましょうか。
 図書室で調べ物をしてから帰りましょう?」

「あぁ、それがよさそうだ」

第二王子なのだから人に見られるのに慣れているだろうと思っていたが、
ライオネル様は第一王子の兄に気をつかい、社交をしてこなかったという。
そのため、自分の容姿についても気にしたことはなく、
他国にきて令嬢に囲まれることになるとは思っていなかったとか。

おそらくジョルダリ国でも社交するようになれば同じ状況になると思う。
下手に目立ってしまうと王位争いに巻き込まれるかもしれないと、
帰国した後も社交する予定は今のところないらしい。

成人している第一王子にもライオネル様にも婚約者がいないというのは、
他の貴族家も様子見しているのだろう。

ライオネル様は兄のヴィクトル王子と仲がいいそうで、
王弟として国王を支えるつもりなんだとか。
婚約者も兄が結婚するまで決めないと公言している。
仮婚約を調べに留学してきたのも事実だけど、
王位争いには加わらないという意思表示も兼ねているそうだ。

話を聞いただけでも兄弟仲はよさそうなのに、
それでも周りが勝手に王位争いを始めてしまいそうなくらい、
貴族家の力が強いということなんだろう。




授業が終わった後、少し落ち着いてからライオネル様と図書室に向かう。
授業中は自習に使う人が多いが、授業後の図書室は人が少ない。
わざわざ残ってまで勉強するのは文官を目指す一部の者くらい。
勉強している令息たちの邪魔にならないように、奥の席にライオネル様と並んで座る。


「政略結婚を辞めさせたいのは兄上のためでもあるんだ」

「そうなの?」

「王位争いと同時に令嬢たちの間で王妃争いも起きている。
 貴族家の力が強すぎて、王族の意見が通りにくいんだ。
 このままでは傀儡のような王政になってしまうだろう」

「……そんなこと私が聞いてもいいの?」

「ジュリアは他の者に話さないだろう?」

「それはもちろん」

「だったら、ここでくらい気を抜かせてくれ。
 向こうに帰っても本音で話せるものは少ないんだ」

「そう、なの……」

ジニーもいるし、ライオネル様なら仲間に囲まれているんだと思っていた。
アマンダ様に見せた冷酷な姿も知っているけれど、
普段はとても優しくて温かい人だと知っているから。
さみしそうなライオネル様に、話題を変えようとした。

「それで、何から調べようか」

「あぁ、仮婚約の制度がいつから始まったのか、
 最初のころの問題点とかどうしたのかが書いてあるものはないだろうか」

「ちょっと待ってて。本を持ってくるわ」

仮婚約について一度調べたことがあったから、
置いてある場所は知っていた。

あの日、アマンダ様に札を取り換えられた後、
どうにかならないか調べたことがあった。
あの札は魔力が込められていて、精霊の力を借り、
お互いにふさわしいと思われる相手を選んでくれると。

たしかに不思議なものだと思う。
継ぐことができる嫡子と継がないもの、
その組み合わせなら誰とでも結婚できるわけではない。

例えば、侯爵家の私の相手は子爵家まで。
男爵家は許されない。
子爵家の令息であっても、母親が男爵家出身ならいい顔はされない。
そういう組み合わせになってもおかしくないのに、
どういうわけなのか身分としてもちょうどいい相手と組み合わされる。

私が仮婚約するはずだったブリュノ様も伯爵家。
伯爵家の中でも上位の貴族家。侯爵家に婿入りしてもおかしくない身分だ。
……まぁ、それは筆頭伯爵家のアマンダ様でも同じことだ。

調べた結果、もし何かの手違いがあって、
本来の相手ではない者と組み合わせてしまったとしたら。

それでも仮婚約は成立すると書かれていた。
札をアマンダ様に奪われたと訴えても、
もう成立しているから解消になることはないということらしい。
その理由は、精霊はそこまで見通して札を選ばせている、と書かれていた。

それならブリュノ様の運命の相手はアマンダ様で間違いないということだ。
それを知ったとき、調べなきゃよかったと後悔してしまった。

仮婚約の本は図書室の中でも奥まったところにある。
本棚に並んでいる仮婚約についての本の中から、
一番古そうな本を探す。

と、後ろから声がかけられた。
ライオネル様ではない男性の声で。

「あの王子様はどこに行ったんだ?」

「え?」

振り返ったら、そこにいたのはブリュノ様だった。

「今日は王子様と一緒じゃないのか?」

「ううん……席で待っていてもらってるだけ。
 ライオネル様に何か用があるの?」

ライオネル様が登校してきた初日、
ブリュノ様はアマンダ様を追いかけて教室から出て行った。
その日はどちらも戻って来なかった。

次の日に登校してきたブリュノ様は、
アマンダ様に何を聞いたのかはわからないけれど、
ライオネル様を避けているように見えた。
それなのに授業後に追いかけてきて、話したいことでもあるのだろうか?

「いや、違うよ。ジュリアと話したくて」

「私と?」

ブリュノ様と話すのは初めてだというのに、
名前を呼び捨てされたことに少し驚いた。
誰とでも仲良く話すブリュノ様らしいといえばらしいが、
私の方が身分が上なことを考えるとちょっと失礼だとも思ってしまう。

「俺とアマンダの仮婚約がうまくいかなかったら、
 その場合は再儀式になるでしょ?
 そしたら俺の相手はジュリアになるんだし、興味あるよ」

「は?」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

本日より他人として生きさせていただきます

ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

処理中です...