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11.アマンダ様との出会い
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昨日は学園内を案内したけれど、教室のある棟は案内しなかった。
どうせ今日から通うのだからわざわざ案内しなくてもと思ったのと、
アマンダ様に会うのが嫌だったからだ。
B教室に入って席に向かうと、前の席の令嬢が声をかけてきた。
「おはようございます、ジュリア様。お隣の方は?
この時期に編入生かしら?」
「おはようございます。
こちらの方はジョルダリ国の第二王子ライオネル様よ」
「ええ?第二王子様?」
ライオネル様を見ると、軽く首を横に振った。
令嬢の紹介はいらない、と。
本当に他の令嬢と仲良くなるのは避けたいんだ……。
「侯爵家のものとして、学園長から案内を頼まれているの。
あまり騒がれたくないようだから、ごめんね」
「あぁ、そういうこと。わかったわ」
伯爵家の嫡子として教育されているからか、素直に引き下がってくれた。
何かしら事情があると察してくれたのだろう。
彼女とはそれほど親しいわけではないが、アマンダ様が近くに座らないようにと、
私の目の前の席を陣取ってくれている。
ついでに言えば、この教室の令嬢たちはあのお茶会の時に出席していた。
だから、アマンダ様と私のことを知っていて、
私のそばにアマンダ様が座る前に示し合わせて席を取ってくれていた。
そのおかげでアマンダ様とブリュノ様は私から一番遠い席に座っている。
ライオネル様と席に座り、授業の用意をしようとして、
教科書の準備は間に合ったのか気になった。
こんな中途半端な時期に留学してきたのだから、
間に合わなかったかもしれない。
「ライオネル様、教科書はあるの?」
「ああ、それは大丈夫。
本当は仮婚約の儀式の前に留学できるはずだったんだ。
こちらに来る途中の道ががけ崩れを起こしていたせいで遅れた。
だから準備などはちゃんとできている」
「そう、それならいいけど」
授業に必要な教科書を机の上に出していると、
少し高めの声で呼びかけられる。この声は……
「ジュリア様、こちらの方はどなた?」
「……アマンダ様」
いつの間にか近くにアマンダ様が来ていた。
ここ最近は私に近寄ってこなかったのにどうしてと思ったら、
ブリュノ様がまだ来ていないからのようだ。
どうしよう……私と関わる人にアマンダ様が興味を持たないわけがない。
いつものようにライオネル様にも何か吹き込まれるかもしれない。
できればライオネル様と近づいてほしくない……
だけど、何も答えないわけにもいかない。
仕方なく、先ほどと同じように説明をする。
「こちらはジョルダリ国の第二王子ライオネル様よ。
侯爵家のものとして、学園長から案内を頼まれているの。
あまり騒がれたくないようだから静かにしてもらえる?」
「ふぅん。第二王子様なの……」
また何か企もうとしているのか、アマンダ様はうれしそうに笑う。
性格さえ知らなければ、とても可憐でおとなしそうな令嬢に見えるのに。
「まだ何か?」
「ねぇ、ライオネル様。
ジュリア様だけで案内役をこなすのは大変でしょうから、
筆頭伯爵家の私も一緒に案内いたしますわね?」
「は?」
アマンダ様は私には答えず、直接ライオネル様に話しかける。
名前を呼ぶ許可も得ずに、近づいてにっこり笑う。
「何を言っている?」
「私はアマンダ・イマルシェと申します。
イマルシェ商会はジョルダリ国とも取引がありますし、
ジュリア様よりも適任だと思いますわよ」
「必要ない。下がれ」
「え?」
先ほどまでにこやかに私と話していたライオネル様ではなかった。
にらみつけるような目でアマンダ様に下がれと命じた。
その変わりようにアマンダ様も動揺せずにはいられなかったようだ。
「あ、あの?ライオネル様?」
「誰がお前に名を呼んでいいと許可を出した」
「え?……ですが」
「俺はジョルダリ国の陛下の命でここにきている。
遊びに来ているわけではない。
礼儀もわきまえない令嬢などそばにいても邪魔なだけだ。
今後、俺の近くに来ることを禁ずる」
「え?そ、そんな!?」
「二度言わせるな。下がれ」
「……はい」
ライオネル様の怒りを感じ取ったのか、廊下にいたジニーが教室に入ってくる。
アマンダ様がラオネル様の机の前にいるのを見て、アマンダ様に警告する。
「そこの令嬢、すぐに離れてください。
命令に反すれば捕縛しなくてはいけません」
「な、なによ……もう」
納得はしていないのだろうけど、大きなジニーに詰め寄られ、
アマンダ様は自分の席に戻っていった。
教室内にいた令嬢たちはいい気味だと思ったのか、笑いをこらえている。
あれだけ無礼なことをしても自分なら許されると思っていた、
アマンダ様の思い上がりに笑っているのだろう。
その雰囲気を感じたのか、アマンダ様は真っ赤になって教室から出て行ってしまった。
入れ違いで教室に入ってきたブリュノ様は、アマンダ様が出て行ったことを聞いて、
首をかしげながらも追いかけていく。
……うまくいっているんだ。
アマンダ様とブリュノ様。
ブリュノ様がアマンダ様のことをどれだけ知っているのかわからないけれど、
アマンダ様だってブリュノ様にはいやがらせなんてしないだろうし、
案外うまくいくのかもしれない。
「……もしかして、怖がらせたか?」
隣に座るライオネル様がおそるおそる小声で聞いてくる。
それを聞いて笑ってしまう。
そんな不安げな顔しなくてもいいのに。
「ううん、大丈夫。無礼なことをされたら許すわけにはいかないもの。
第二王子として、国を守るためにも大事なことだわ」
「ジュリアがわかってくれるならよかった……」
「ふふ。でも、これで話しかけてくる令嬢は減ると思うわ。
静かに過ごせるわね」
「ああ」
実際にライオネル様がアマンダ様を叱責したという話はすぐに広まった。
アマンダ様に嫌な思いをしている令嬢は多く、
ここぞとばかりに言いまわっているらしい。
まぁ、事実だし、貴族として許されない失敗だった。
噂になるのも当然と言えば当然なのだが。
それからしばらくは平和だったけれど、
たまにアマンダ様が私をにらんでいるのが気になっていた。
まだ何かしてくるつもりなんだろうか。
どうせ今日から通うのだからわざわざ案内しなくてもと思ったのと、
アマンダ様に会うのが嫌だったからだ。
B教室に入って席に向かうと、前の席の令嬢が声をかけてきた。
「おはようございます、ジュリア様。お隣の方は?
この時期に編入生かしら?」
「おはようございます。
こちらの方はジョルダリ国の第二王子ライオネル様よ」
「ええ?第二王子様?」
ライオネル様を見ると、軽く首を横に振った。
令嬢の紹介はいらない、と。
本当に他の令嬢と仲良くなるのは避けたいんだ……。
「侯爵家のものとして、学園長から案内を頼まれているの。
あまり騒がれたくないようだから、ごめんね」
「あぁ、そういうこと。わかったわ」
伯爵家の嫡子として教育されているからか、素直に引き下がってくれた。
何かしら事情があると察してくれたのだろう。
彼女とはそれほど親しいわけではないが、アマンダ様が近くに座らないようにと、
私の目の前の席を陣取ってくれている。
ついでに言えば、この教室の令嬢たちはあのお茶会の時に出席していた。
だから、アマンダ様と私のことを知っていて、
私のそばにアマンダ様が座る前に示し合わせて席を取ってくれていた。
そのおかげでアマンダ様とブリュノ様は私から一番遠い席に座っている。
ライオネル様と席に座り、授業の用意をしようとして、
教科書の準備は間に合ったのか気になった。
こんな中途半端な時期に留学してきたのだから、
間に合わなかったかもしれない。
「ライオネル様、教科書はあるの?」
「ああ、それは大丈夫。
本当は仮婚約の儀式の前に留学できるはずだったんだ。
こちらに来る途中の道ががけ崩れを起こしていたせいで遅れた。
だから準備などはちゃんとできている」
「そう、それならいいけど」
授業に必要な教科書を机の上に出していると、
少し高めの声で呼びかけられる。この声は……
「ジュリア様、こちらの方はどなた?」
「……アマンダ様」
いつの間にか近くにアマンダ様が来ていた。
ここ最近は私に近寄ってこなかったのにどうしてと思ったら、
ブリュノ様がまだ来ていないからのようだ。
どうしよう……私と関わる人にアマンダ様が興味を持たないわけがない。
いつものようにライオネル様にも何か吹き込まれるかもしれない。
できればライオネル様と近づいてほしくない……
だけど、何も答えないわけにもいかない。
仕方なく、先ほどと同じように説明をする。
「こちらはジョルダリ国の第二王子ライオネル様よ。
侯爵家のものとして、学園長から案内を頼まれているの。
あまり騒がれたくないようだから静かにしてもらえる?」
「ふぅん。第二王子様なの……」
また何か企もうとしているのか、アマンダ様はうれしそうに笑う。
性格さえ知らなければ、とても可憐でおとなしそうな令嬢に見えるのに。
「まだ何か?」
「ねぇ、ライオネル様。
ジュリア様だけで案内役をこなすのは大変でしょうから、
筆頭伯爵家の私も一緒に案内いたしますわね?」
「は?」
アマンダ様は私には答えず、直接ライオネル様に話しかける。
名前を呼ぶ許可も得ずに、近づいてにっこり笑う。
「何を言っている?」
「私はアマンダ・イマルシェと申します。
イマルシェ商会はジョルダリ国とも取引がありますし、
ジュリア様よりも適任だと思いますわよ」
「必要ない。下がれ」
「え?」
先ほどまでにこやかに私と話していたライオネル様ではなかった。
にらみつけるような目でアマンダ様に下がれと命じた。
その変わりようにアマンダ様も動揺せずにはいられなかったようだ。
「あ、あの?ライオネル様?」
「誰がお前に名を呼んでいいと許可を出した」
「え?……ですが」
「俺はジョルダリ国の陛下の命でここにきている。
遊びに来ているわけではない。
礼儀もわきまえない令嬢などそばにいても邪魔なだけだ。
今後、俺の近くに来ることを禁ずる」
「え?そ、そんな!?」
「二度言わせるな。下がれ」
「……はい」
ライオネル様の怒りを感じ取ったのか、廊下にいたジニーが教室に入ってくる。
アマンダ様がラオネル様の机の前にいるのを見て、アマンダ様に警告する。
「そこの令嬢、すぐに離れてください。
命令に反すれば捕縛しなくてはいけません」
「な、なによ……もう」
納得はしていないのだろうけど、大きなジニーに詰め寄られ、
アマンダ様は自分の席に戻っていった。
教室内にいた令嬢たちはいい気味だと思ったのか、笑いをこらえている。
あれだけ無礼なことをしても自分なら許されると思っていた、
アマンダ様の思い上がりに笑っているのだろう。
その雰囲気を感じたのか、アマンダ様は真っ赤になって教室から出て行ってしまった。
入れ違いで教室に入ってきたブリュノ様は、アマンダ様が出て行ったことを聞いて、
首をかしげながらも追いかけていく。
……うまくいっているんだ。
アマンダ様とブリュノ様。
ブリュノ様がアマンダ様のことをどれだけ知っているのかわからないけれど、
アマンダ様だってブリュノ様にはいやがらせなんてしないだろうし、
案外うまくいくのかもしれない。
「……もしかして、怖がらせたか?」
隣に座るライオネル様がおそるおそる小声で聞いてくる。
それを聞いて笑ってしまう。
そんな不安げな顔しなくてもいいのに。
「ううん、大丈夫。無礼なことをされたら許すわけにはいかないもの。
第二王子として、国を守るためにも大事なことだわ」
「ジュリアがわかってくれるならよかった……」
「ふふ。でも、これで話しかけてくる令嬢は減ると思うわ。
静かに過ごせるわね」
「ああ」
実際にライオネル様がアマンダ様を叱責したという話はすぐに広まった。
アマンダ様に嫌な思いをしている令嬢は多く、
ここぞとばかりに言いまわっているらしい。
まぁ、事実だし、貴族として許されない失敗だった。
噂になるのも当然と言えば当然なのだが。
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