10 / 56
10.ジニー
しおりを挟む
学園長室の前まで案内すると、ライオネル様はジニーを置いて、
一人で学園長室へと入っていった。
護衛なのにジニーを置いて行っていいのかと思ったけれど、
私を守るように言い残していった。
「昨日は申し訳ありませんでした」
「ええ?なんのこと?」
急にジニーに頭を下げられて、驚いてしまう。
「昨日、私が報告に行っている間に、お二人でカフェテリアに行っていたと。
男性と二人きりにさせてしまうなんて申し訳ありません。
ライオネル様は令嬢と二人きりで会うことなんてありませんでしたので、
そういう配慮にはいささか欠けているのです」
「あぁ、それで」
異性と二人きりで個室に入るなんて、令嬢としては避けたいところだ。
たとえ襲われたとしても令嬢が悪いことになってしまう。
だけど……
「そうね。ライオネル様じゃなかったら危険だったと思う。
でも、小さいころからなんとなくわかるのよ。
この人は私を嫌っているとか、無関心だとか、
良く思ってくれている、とか。
ライオネル様なら大丈夫だと思ったの」
両親から愛を受けなかったから、使用人の一部からは嫌われていた。
というか、見下されていると感じることが何度もあった。
そのせいか、話していると相手が敵なのか味方なのか、
そういう区別をしてしまう癖がついている。
「……もしかしたら、オクレール侯爵令嬢は魔力を読み取れるのかもしれませんね」
「魔力を?読み取る?」
「ええ。この国ではあまり魔力について研究されていないようですが、
ジョルダリ国では魔力についての研究がよくされています。
人の感情によって漏れ出す魔力が違うそうです。
おそらくそれを肌で感じ取れているのではないでしょうか」
「魔力……お伽話じゃなかったのね。
仮婚約の札に魔力が込められているとは聞いていたけれど」
大昔はこの国でも魔力の研究が進められていたと聞いた。
その名残で仮婚約の札に魔力がという話になっているのかと。
「それは本当です。
仮婚約について調べるために、私も魔力についての講義を受けてから来ました」
「ジニーは護衛じゃないの?」
「もちろん護衛が任務です。
ですが、私が見て気がついたことも報告するようにと。
魔力についての知識がなければ報告できませんので」
「それはすごいわね」
「いえ、私の気がついたことなんて、報告書に一行か二行増えるだけでしょうけど」
謙遜ではなく、まじめにそう思っているらしい。
「じゃあ、よけいにすごいと思うわ。
一行か二行の報告を増やすためにジニーに知識を与えたのでしょう?
ジニーの主はとても素晴らしい方だと思う」
「それはそれは。主をお褒めいただきありがとうございます!」
よほどうれしかったのか、ジニーが満面の笑みになる。
こうしてみるとそれほど年はいっていないのかもしれない。
三十歳を少し過ぎたくらいだろうか。
「ジニーとも長い付き合いになりそうね。
私のことはジュリアでかまわないわ」
「ありがとうございます、ジュリア様」
微笑みあっていると、ライオネル様が学園長室から出てきた。
「お待たせ……って、なんだかすごく仲が良くなってないか?」
「これから何度も顔を合わせることになるでしょう?
よろしくねって話していたのよ」
「ええ、ジュリア様は素晴らしい令嬢ですね。
今後はライオネル様とジュリア様、どちらもお守りさせていただきます」
「……まぁ、守るのはいいけど」
「なんで怒ってるの?」
「なんでもないよ。あぁ、教室に行く前に報告があるんだけど」
なんとなく申し訳なさそうにしているライオネル様に、
あまりいい話ではなさそうだと思った。
「学園長から正式にジュリアに案内役を頼むと。
俺が他の令嬢から直接声をかけられるのを許可すると、
騒ぎになってしまうだろう?」
「まぁ、そうよね。この国の王族はもうすでに成人してしまっているし、
王子様なんて滅多に会えるものじゃないもの」
「うん、学園長からもそう言われた。
だから、下手に話さないほうがいいと。
令嬢たちに殺到されるとけが人がでるだろうって」
「ええ?」
そんな大げさな、と思ったけれど、大げさじゃないかも。
一度遠くからこの国の王太子と第二王子を見たことがあるけれど、
ライオネル様ほど整った顔立ちではなかった。
それなりに王子様らしい容姿ではあったと思うけれど。
……ライオネル様よりも容姿の整った令息って、この国にはいないかもしれない?
「……それで、私にどうしろと?」
「察しが良くて助かるね。
俺に直接話しかける許可は出さない。
俺に何か用がある場合はジュリアを通すようにと」
「えええ?それって、責任重大過ぎるんじゃ」
「頼むよ」
「えええぇ……」
そんなことできるのかとジニーを見たら、ジニーにも頼まれてしまう。
「申し訳ありません、ジュリア様。
ライオネル様に令嬢をあしらわせるのは無理です」
「無理って……」
「令嬢に群がられるのに慣れていないのです。
おそらく容赦なく冷たく断って泣かせてしまうかと思います。
私が蹴散らしてもいいのですが、その場合はけが人が出てしまうかと」
「あぁ、それはそうね……」
いくらなんでも令嬢相手にジニーでは。
……これはあきらめて引き受けるしかなさそう。
「仕方ないわね、わかったわ。
限界はあると思うけど、できるかぎり令嬢は近づかせないようにするから」
「ありがとう。助かるよ」
あれ。さっきはライオネルが私を守るって言ってたのに。
これじゃあ逆じゃないかしら。
まったくもうと言いたくなったけれど、楽しそうなライオネルを見て口をつぐむ。
これも侯爵家としての役割かもしれない。
私以上の身分の令嬢はいないのだし、頼まれるのも仕方ない。
「じゃあ、教室に行こうか。
案内してくれる?」
「ええ」
一人で学園長室へと入っていった。
護衛なのにジニーを置いて行っていいのかと思ったけれど、
私を守るように言い残していった。
「昨日は申し訳ありませんでした」
「ええ?なんのこと?」
急にジニーに頭を下げられて、驚いてしまう。
「昨日、私が報告に行っている間に、お二人でカフェテリアに行っていたと。
男性と二人きりにさせてしまうなんて申し訳ありません。
ライオネル様は令嬢と二人きりで会うことなんてありませんでしたので、
そういう配慮にはいささか欠けているのです」
「あぁ、それで」
異性と二人きりで個室に入るなんて、令嬢としては避けたいところだ。
たとえ襲われたとしても令嬢が悪いことになってしまう。
だけど……
「そうね。ライオネル様じゃなかったら危険だったと思う。
でも、小さいころからなんとなくわかるのよ。
この人は私を嫌っているとか、無関心だとか、
良く思ってくれている、とか。
ライオネル様なら大丈夫だと思ったの」
両親から愛を受けなかったから、使用人の一部からは嫌われていた。
というか、見下されていると感じることが何度もあった。
そのせいか、話していると相手が敵なのか味方なのか、
そういう区別をしてしまう癖がついている。
「……もしかしたら、オクレール侯爵令嬢は魔力を読み取れるのかもしれませんね」
「魔力を?読み取る?」
「ええ。この国ではあまり魔力について研究されていないようですが、
ジョルダリ国では魔力についての研究がよくされています。
人の感情によって漏れ出す魔力が違うそうです。
おそらくそれを肌で感じ取れているのではないでしょうか」
「魔力……お伽話じゃなかったのね。
仮婚約の札に魔力が込められているとは聞いていたけれど」
大昔はこの国でも魔力の研究が進められていたと聞いた。
その名残で仮婚約の札に魔力がという話になっているのかと。
「それは本当です。
仮婚約について調べるために、私も魔力についての講義を受けてから来ました」
「ジニーは護衛じゃないの?」
「もちろん護衛が任務です。
ですが、私が見て気がついたことも報告するようにと。
魔力についての知識がなければ報告できませんので」
「それはすごいわね」
「いえ、私の気がついたことなんて、報告書に一行か二行増えるだけでしょうけど」
謙遜ではなく、まじめにそう思っているらしい。
「じゃあ、よけいにすごいと思うわ。
一行か二行の報告を増やすためにジニーに知識を与えたのでしょう?
ジニーの主はとても素晴らしい方だと思う」
「それはそれは。主をお褒めいただきありがとうございます!」
よほどうれしかったのか、ジニーが満面の笑みになる。
こうしてみるとそれほど年はいっていないのかもしれない。
三十歳を少し過ぎたくらいだろうか。
「ジニーとも長い付き合いになりそうね。
私のことはジュリアでかまわないわ」
「ありがとうございます、ジュリア様」
微笑みあっていると、ライオネル様が学園長室から出てきた。
「お待たせ……って、なんだかすごく仲が良くなってないか?」
「これから何度も顔を合わせることになるでしょう?
よろしくねって話していたのよ」
「ええ、ジュリア様は素晴らしい令嬢ですね。
今後はライオネル様とジュリア様、どちらもお守りさせていただきます」
「……まぁ、守るのはいいけど」
「なんで怒ってるの?」
「なんでもないよ。あぁ、教室に行く前に報告があるんだけど」
なんとなく申し訳なさそうにしているライオネル様に、
あまりいい話ではなさそうだと思った。
「学園長から正式にジュリアに案内役を頼むと。
俺が他の令嬢から直接声をかけられるのを許可すると、
騒ぎになってしまうだろう?」
「まぁ、そうよね。この国の王族はもうすでに成人してしまっているし、
王子様なんて滅多に会えるものじゃないもの」
「うん、学園長からもそう言われた。
だから、下手に話さないほうがいいと。
令嬢たちに殺到されるとけが人がでるだろうって」
「ええ?」
そんな大げさな、と思ったけれど、大げさじゃないかも。
一度遠くからこの国の王太子と第二王子を見たことがあるけれど、
ライオネル様ほど整った顔立ちではなかった。
それなりに王子様らしい容姿ではあったと思うけれど。
……ライオネル様よりも容姿の整った令息って、この国にはいないかもしれない?
「……それで、私にどうしろと?」
「察しが良くて助かるね。
俺に直接話しかける許可は出さない。
俺に何か用がある場合はジュリアを通すようにと」
「えええ?それって、責任重大過ぎるんじゃ」
「頼むよ」
「えええぇ……」
そんなことできるのかとジニーを見たら、ジニーにも頼まれてしまう。
「申し訳ありません、ジュリア様。
ライオネル様に令嬢をあしらわせるのは無理です」
「無理って……」
「令嬢に群がられるのに慣れていないのです。
おそらく容赦なく冷たく断って泣かせてしまうかと思います。
私が蹴散らしてもいいのですが、その場合はけが人が出てしまうかと」
「あぁ、それはそうね……」
いくらなんでも令嬢相手にジニーでは。
……これはあきらめて引き受けるしかなさそう。
「仕方ないわね、わかったわ。
限界はあると思うけど、できるかぎり令嬢は近づかせないようにするから」
「ありがとう。助かるよ」
あれ。さっきはライオネルが私を守るって言ってたのに。
これじゃあ逆じゃないかしら。
まったくもうと言いたくなったけれど、楽しそうなライオネルを見て口をつぐむ。
これも侯爵家としての役割かもしれない。
私以上の身分の令嬢はいないのだし、頼まれるのも仕方ない。
「じゃあ、教室に行こうか。
案内してくれる?」
「ええ」
1,577
お気に入りに追加
2,992
あなたにおすすめの小説

願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

本日より他人として生きさせていただきます
ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる