上 下
56 / 59

56.マリア王妃とリオナ夫人

しおりを挟む
「ふふ。そんなに緊張しなくていいのよ?」

「そうそう、人払いしているんだし、そんなに気を遣わなくていいの。」

「は、はい。」

新しく王妃になられたマリア様のお茶に呼ばれたと思ったら、
その席にはキュリシュ侯爵夫人もいた。
どうやら二人は仲がいいようで、二人対私のような状況になっている。

「私たちが仲がいいのが不思議?」

「…不思議というわけではありませんが、
 仲がいいという話を聞いたことがありませんでしたので。」

「あぁ、そうよね。
 王宮での私の情報は秘匿されていたものね。
 だからリオナの話も出なかったんだと思うわ。
 リオナはね、ハインツの妊娠から出産時までつきそってくれた薬師なのよ。
 ほら、どうしても男性だとつきそってもらうのが困るときもあるでしょう?」

「リオナ夫人がつきそいだったのですか。」

それは初めて知った。
マリア様がハインツ兄さまを妊娠した時から出産までつきそったというなら、
半年以上ずっと一緒にいたことになる。
そういうことなら、この仲の良さも理解できる。
…ただ、リオナ夫人が陛下の公妾だったことは気にしていないのだろうか。

その疑問が顔に出ていたのか、マリア様がくすっと笑った。

「陛下の妃と妾が仲良くしているのが気になるのかしら?」

「…。」

さすがにここでそうですとは失礼すぎて言えない。
だけど、マリア様の次の発言で思わず聞き返してしまった。

「リオナに陛下を選んでとお願いしたのは私よ?」

「はい?」

「側妃としてハインツを産んだ後で、フランツ様も産まれたでしょう?
 でも、身ごもるのが早すぎて、陛下の子じゃないことはすぐにわかったわ。
 私がもう一人産めばよかったのだけど、
 ハインツを産んだ後、子ができない身体になってしまった。」

「マリア様…。」

「もしハインツに何かあったとすれば、フランツ様が国王になる。
 それだけは避けなければいけなかった。
 だけど、新しい側妃を娶ることを陛下は嫌がって…。」

「陛下はね、マリア以外を抱きたくないって騒いで。
 うるさかったわ~。
 だから新しい媚薬を作って陛下に飲ませたのよ。
 薬が効いている間のことは記憶が無くなるやつをね。
 興奮させて早漏にもなるようにして。
 半年間でたくさん薬を試せて楽しかったの。
 陛下はいい実験体だった~。」

…その辺は私が聞いていい話なのかしら。
人払いした理由はこれだったのかも。

「ほらね?
 リオナはこういう人だから、陛下の子を産んでも嫉妬する気にもならなかったわ。
 むしろ、ジョーゼルが産まれてくれたおかげで側妃を娶らずに済んだし。
 私のわがままを聞いてもらって、リオナには本当に感謝しているの。」

「あら。マリアのわがままを聞いただけじゃないわよ?
 ほら、他の高位貴族とか選んで、
 その人が結婚後に奥様との間に子が産まれなかったとしたら、
 私が産んだ子をよこせとか言われて揉めそうじゃない?
 そういう面倒なことを避けたかったから、
 相手が陛下っていうのはちょうど良かったのよ。」

それは確かにそうかもしれない。
キュリシュ家の存続のために子を産んだのに、
他家の父親に奪われるようでは意味がない。
陛下が仲裁することもできるだろうが、
家の存続がかかる問題には陛下もうかつには手を出せない。

それが父親が陛下なのだとしたら、奪われる可能性はかなり低い。
もし、万が一ハインツ様に何かあってゼル様が国王になることがあったとしても、
ゼル様が毒殺される可能性がないのであれば、そこまで王宮薬師は必要なくなる。

確かに、一番ちょうどいい相手だったのかもしれない。
マリア様がそのことを勧めたのだとしたら、もめることもないだろうし。


「…ジャンヌ様がいる時は、
 こんな風にゆっくりお茶を楽しむなんてできなかったわ。」

「ええ、そうね。公妾を引き受けてジョーゼルを産んだ後は、
 私も目の敵にされて…うるさかったわね~。」

「本当に。リオナを呼ぶのも難しくなって退屈になってしまったし、
 でもおとなしくしていろって陛下は言うしで…。」

「陛下は仕方ないわ。マリアに何かあったら王宮ごと破壊しそうだもの。」

「そこまではひどくないと思うわ。謁見室くらいは壊すかもしれないけど…。」

「あの…あまり変わりないと思いますけど?」

「あら、そう?ふふふ。」

楽しそうに微笑むマリア様に、それを見てうれしそうなリオナ夫人。
最初は緊張して始まったお茶会だったが、帰るころには三人で楽しく話ができた。

「二人の結婚のお披露目は新年を祝う会で行うのでしょう?
 結婚前の準備だとか、妊娠についての話だとか困ったらいくらでも聞いて?」

「そうね。アンジュ様はお母様を亡くしているのでしょう?
 私とリオナを母だと思ってくれたらうれしいわ。」

「ありがとうございます。母が一度にふたりも!うれしいです。
 いろいろと頼らせてください。」

「ええ。」

「私たち息子しかいないから、娘ができて…これからが楽しみだわ。」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。 理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。 「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。 だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。 ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。 マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。 そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。 「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。 ──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。 その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。 けれど、それには思いも寄らない理由があって……? 信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。 ※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...