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14.事情

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「え?違うの?
 じゃあ、どうして第二王子が来るときに一緒に来ていたの?」

「それが、ゼル様も不思議だったみたいなの。
 第二王子の側近の話はもうすでに断っていたんですって。
 侯爵家は王宮薬師の家系だから薬師になりますって。
 それなのに教室も違うのに付き合わされるから…ゼル様も困っていたみたいなの。」

「それで…第二王子が何を言っても聞かなくてアンジェが困ってるとき、
 それとなくジョーゼル様が間に入って助けてくれていたりしたものね。
 態度があまり敬ってる風じゃないから側近らしくないとは思ってたけど…。
 まさか教室さえ違う令息を連れまわしていたなんて。
 第二王子、いろんなところに迷惑かけていたのね。」

第二王子の態度にはこの二人も困っていた。
移動教室の前に話しかけられて遅刻しそうになったり、
昼休憩の終わり際に声をかけられて午後の授業に間に合わなかったり。
この学園は学年ごとに授業時間が違うため、休み時間も合わないのだ。
それなのに無理に会いに来て私たちの時間を奪うため、困ったことになっていた。
おそらくそれは向こうも同じで、
第二王子に付き合わされたゼル様も授業に間に合わなったこともあるだろう。

まさか第二王子たち令息しかいない場に私が一人で残ることはできず、
友人二人をつき合わせてしまうことをずっと心苦しく思っていた。
だからこそ、第二王子が早く来なくなるように冷たくしていたのだった。

「それでお互いに困っていることがわかって、
 私もこれからは冷たくしすぎないように気を付けるし、
 ゼル様も第二王子を少しは止められるようにしてくれるってことになったの。
 話が終わってゼル様が帰ろうとした時に、
 私が新しいドレスの裾を踏んでしまって転びそうになったのだけど…。
 それを倒れる寸前で腕をつかんで助けてくれて。
 …その時にゼル様にはふれられるってことがわかって。」

「え!求婚されたわけじゃないの??」

やっぱり誤解されてた。
今までいろんな令息が求婚して来たように、
ゼル様も求婚したのではと思われていても不思議はない。
だけど、これははっきりと否定しなければいけない。

「違うわ。だって、ゼル様には婚約者がいたのよ?
 婚約者がいるのに私に求婚するようなこと、
 ゼル様がそんな不誠実なことをするわけないでしょう?
 私が転びそうになったからつい手をのばして助けてくれただけで、
 そうじゃなかったら一生気が付かないで終わっていたと思うの。」

「…それもそうね。気が付いてよかったわね。」

「ねぇ、ジョーゼル様の婚約者の方ってミリア様よね?一学年の。」

「知ってる?私はあまり親しくないのだけど。」

同じ公爵家ではあるが、交友関係が違うためにあまりお茶会でも会わなかった。
公式な場では顔を合わせるが、挨拶をするくらいの仲でしかない。

「妹が同じ教室なの。
 エミーレは性格が合わないと言って話さないようだけど、文句はよく聞くわね。
 婚約者のことを蔑ろにしすぎだわって怒っていたもの。
 ジョーゼル様も婚約解消になってほっとしているのでは?」

「そうみたい。四年間ずっと拒絶されていたって。
 陛下から確認されたときも解消してくださいってはっきり言ってたもの。」

辺境伯令嬢のユミールの妹エミーレには何度か会ったことがあった。
騎士の家系である辺境伯の令嬢らしく、はっきりとものをいう令嬢だった。
婚約者へ冷たい態度をとるミリア様のことを良く思わないのも当然かもしれない。

「それにしても…ジョーゼル様が第三王子だとはね。」

「ねぇ、じゃあ、第二王子とは兄弟ってことなのよね?
 あまり似ていないわね。」

「私も最初は驚いたのだけど、よく見たら陛下とゼル様ってそっくりなの。
 髪の色は違うけど、目の色は同じだし、顔だちも似ているのよ。
 第二王子は王妃様に似ているんじゃないかしら。」

「あぁ、王妃様に似たのならわかるわ。
 このことを知る前から第二王子よりも、
 ジョーゼル様のほうが王子様らしいとは思っていたけれど。」

「わかる。なんというか、凛とした感じが王子さまっぽいのよね。」

金髪碧眼だが細身で頼りない感じでへらへらと笑っている第二王子と、
しっかりとした体つきに気品ある所作と整った顔立ちのゼル様。
たしかにゼル様のほうが王子様らしかった。
ゼル様がこの学園で一二を争う人気なのも理解できる。
ちなみに争っている相手は第二王子ではなくリュリエル様だったりする。
第二王子という身分もあるのに人気がないというのは…よほどのことだ。

「運命の相手だってわかったのが昨日の午後で、
 そのまますぐに謁見して陛下に報告、そのままミリア様を呼んで婚約解消。
 と、同時に私との婚約が結ばれたわけなの。
 そのあともすぐに帰ることはできなくって…。
 帰るころにはもう夜になってしまっていたわ。
 二人には先に伝えたかったけれど、連絡しても間に合いそうになかったの。
 心配させてごめんなさい。」

「そんな事情じゃ仕方ないわ。」

「ええ。アンジェのせいじゃないわ。
 それに…心配はしたけれど、相手がジョーゼル様なら納得したもの。」

「どうして?」
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