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27.謁見(イザーク)
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ラディアたちと別れ、謁見室にダニーと入る。
金髪青目で小太りの国王ミハイルが笑顔で出迎えた。
だが、以前にくらべて少しやつれたように見える。
謁見室の中にいる側近たちの顔触れが変わっていた。
大臣たちは国王よりも上の年代だったはずが、
俺とあまり変わらない若者になっている。
世代交代でもしたのかと思ったが、レオナのことを思い出した。
ラディアの母を汚した者たちは始末したと。
もしかしたら、数名はそれで消えたのかもしれない。
「いやぁ、よく来てくれた。イルミール公爵」
「なんだか王宮での手続きがおかしかったようですね」
「……あぁ、大臣たちが急にいなくなってしまってな。
少しごたごたしてしまったんだ」
消えた、か。逃亡したとでも思っているのかな。
一瞬だけ国王は暗い顔をしたが、すぐににやにやした顔に戻る。
「今日、来てもらったのはいい知らせがあるからだ」
「いい知らせ?」
「ああ。アレッサンド国の王女がイルミール家に降嫁してくれるそうだ。
イルミール公爵をどこかで見初めたらしい。アレッサンド国王がぜひにと言っている。
良かったじゃないか。めでたいなぁ!」
やはりこのために呼び出したのか。
婚約の報告に来いだなんて言っておきながら。
「残念ですが、お断りですよ」
「なんだと?良い話じゃないか。
今までさほど交流していなかった国だが、豊かな国らしい。
断るなんて許されるわけないだろう。
お前のせいで戦争になったらどうするんだ」
もっともらしいことを言われても意味がない。
戦争になるわけがないからだ。アレッサンド国とは領土が接していない。
間に竜帝国がある。アレッサンド国の軍が竜帝国を通り抜けられるわけがない。
それくらいはわかっていると思うが、
国王はぐだぐだと国としてのつきあいがとか責任がとか言い続けている。
「そう言われても、俺にはもう妻がいますからね」
エンフィア王国で一夫多妻なのは国王のみだ。
あとは妾として囲うものはいるが。
さすがにアレッサンド国の王女を妾にすることは許されないだろう。
「その結婚は認めていない。まだ婚約状態なはずだ。
国のためだと思って王女を娶るんだ」
「エンフィア王国で認められていなくても、竜帝国では認められました。
俺は竜帝国の王族でもあるんですよ。
竜帝国で認められた結婚を認めないのですか?
それこそ、国として責任はどうするつもりで?」
「……ええい、そんなものは離縁してしまえばいい!」
「するわけないでしょう。用事がこの話だけなら帰ります」
「いや、待て!この結婚は承諾してもらわねばならない!
すぐにこれに署名するんだ」
淡々と断って帰ろうとしたせいか、国王が立ち上がって止めにくる。
書類を俺に見せて、謁見室の扉の前に立ちはだかった。
「嫌ですよ。何と言われても無駄です。
どうせアレッサンド国から持参金でも受け取ったんでしょうけど、
それはきちんと返してくださいね」
「なんでそれを!?」
図星だったらしい。レオナの予想通りだったか。
「いや、わかった。アレッサンド国の王女の他に、
ミリーナもくれてやる。第一夫人をアレッサンド国の王女にして、
ミリーナを第二夫人にするがいい。それでいいだろう?」
「どちらもお断りですよ」
「まぁ、そういうな。持参金はもう使ってしまって返せない。
公爵がうなずいてくれれば全部うまくおさまるんだ。
お前の妻は後宮に入れることにする。
とりあえず、ミリーナをやるから連れて帰ってくれ」
「は?後宮に?」
「ああ、そうだ。第一王子がお前の妻を気に入ったらしい。
平民の旅人が王子の相手に選ばれたんだ。光栄なことだろう。
もう連れて行っただろうから、あきらめてくれ」
第一王子がラディアを気に入っただと?
王宮に入ったところをどこかから見ていたのか。
レオナがついているから大丈夫だとは思っているが、
ラディアをそんな目で見られていたことに腹が立って、
国王を蹴り飛ばしてしまう。
「うぐぅ!」
「ふざけんなよ?ラディアを後宮にだと?」
「ひぃ」
逃げようとする国王を持ち上げて反対側の壁へ投げつける。
その辺にいた男たちも巻き込んで壁にぶつかっていく。
気を失いかけている国王につかまえて首輪をつける。
ダニーも倒れている男たちへと首輪をつけた。
「おい、聞こえているか」
「……な、なんだ」
まだ意識は残っているようだ。
これなら命令しても大丈夫だろう。
「今、つけた首輪は従属の腕輪のようなものだ。
竜帝国のものだから、魔力では動かない。
俺よりも強い竜気をもっていなければ外せないものだ」
「従属の……?」
「そうだ。俺の言うことを聞くよな?」
「ああ……」
顔がぐしゃりと歪んだのは強制力が働いたからか。
血の気のないまま素直にうなずいて立ち上がる。
大臣たちも同じように立ち上がり、国王の後ろに並んだ。
「よし。それではお前がつけた従属の腕輪をすべて外せ」
「わかった……」
「あとは、後宮を使っていた男たちをすみやかに処分しろ。
女たちをさらってきた者もだ。
もう二度と後宮をつくることは許さない。女たちを汚すこともだ。
今、後宮にいる者たちは手厚く治療した後、金を渡して解放しろ」
「な……わかった」
「よし、すぐに行動にうつせ」
「ああ……」
本当は嫌だからだろう。のろのろと立ち上がってどこかへ行こうとする。
大臣たちも同じ方向に向かっているのを見ると、後宮へ向かっているのかもしれない。
「ダニー、ラディアのいる場所がわかるか?」
「わかります。急ぎましょう」
「ああ」
ダニーが案内するのについていくと、王宮の奥へと入っていく。
もうすでに後宮に入ったのかと思ったが、その手前で止まる。
「この部屋にいるようです」
「よし、そこをどけ」
扉を蹴り飛ばして中へと入る。
そこでは男たちがラディアを囲もうとしてるところだった。
金髪青目で小太りの国王ミハイルが笑顔で出迎えた。
だが、以前にくらべて少しやつれたように見える。
謁見室の中にいる側近たちの顔触れが変わっていた。
大臣たちは国王よりも上の年代だったはずが、
俺とあまり変わらない若者になっている。
世代交代でもしたのかと思ったが、レオナのことを思い出した。
ラディアの母を汚した者たちは始末したと。
もしかしたら、数名はそれで消えたのかもしれない。
「いやぁ、よく来てくれた。イルミール公爵」
「なんだか王宮での手続きがおかしかったようですね」
「……あぁ、大臣たちが急にいなくなってしまってな。
少しごたごたしてしまったんだ」
消えた、か。逃亡したとでも思っているのかな。
一瞬だけ国王は暗い顔をしたが、すぐににやにやした顔に戻る。
「今日、来てもらったのはいい知らせがあるからだ」
「いい知らせ?」
「ああ。アレッサンド国の王女がイルミール家に降嫁してくれるそうだ。
イルミール公爵をどこかで見初めたらしい。アレッサンド国王がぜひにと言っている。
良かったじゃないか。めでたいなぁ!」
やはりこのために呼び出したのか。
婚約の報告に来いだなんて言っておきながら。
「残念ですが、お断りですよ」
「なんだと?良い話じゃないか。
今までさほど交流していなかった国だが、豊かな国らしい。
断るなんて許されるわけないだろう。
お前のせいで戦争になったらどうするんだ」
もっともらしいことを言われても意味がない。
戦争になるわけがないからだ。アレッサンド国とは領土が接していない。
間に竜帝国がある。アレッサンド国の軍が竜帝国を通り抜けられるわけがない。
それくらいはわかっていると思うが、
国王はぐだぐだと国としてのつきあいがとか責任がとか言い続けている。
「そう言われても、俺にはもう妻がいますからね」
エンフィア王国で一夫多妻なのは国王のみだ。
あとは妾として囲うものはいるが。
さすがにアレッサンド国の王女を妾にすることは許されないだろう。
「その結婚は認めていない。まだ婚約状態なはずだ。
国のためだと思って王女を娶るんだ」
「エンフィア王国で認められていなくても、竜帝国では認められました。
俺は竜帝国の王族でもあるんですよ。
竜帝国で認められた結婚を認めないのですか?
それこそ、国として責任はどうするつもりで?」
「……ええい、そんなものは離縁してしまえばいい!」
「するわけないでしょう。用事がこの話だけなら帰ります」
「いや、待て!この結婚は承諾してもらわねばならない!
すぐにこれに署名するんだ」
淡々と断って帰ろうとしたせいか、国王が立ち上がって止めにくる。
書類を俺に見せて、謁見室の扉の前に立ちはだかった。
「嫌ですよ。何と言われても無駄です。
どうせアレッサンド国から持参金でも受け取ったんでしょうけど、
それはきちんと返してくださいね」
「なんでそれを!?」
図星だったらしい。レオナの予想通りだったか。
「いや、わかった。アレッサンド国の王女の他に、
ミリーナもくれてやる。第一夫人をアレッサンド国の王女にして、
ミリーナを第二夫人にするがいい。それでいいだろう?」
「どちらもお断りですよ」
「まぁ、そういうな。持参金はもう使ってしまって返せない。
公爵がうなずいてくれれば全部うまくおさまるんだ。
お前の妻は後宮に入れることにする。
とりあえず、ミリーナをやるから連れて帰ってくれ」
「は?後宮に?」
「ああ、そうだ。第一王子がお前の妻を気に入ったらしい。
平民の旅人が王子の相手に選ばれたんだ。光栄なことだろう。
もう連れて行っただろうから、あきらめてくれ」
第一王子がラディアを気に入っただと?
王宮に入ったところをどこかから見ていたのか。
レオナがついているから大丈夫だとは思っているが、
ラディアをそんな目で見られていたことに腹が立って、
国王を蹴り飛ばしてしまう。
「うぐぅ!」
「ふざけんなよ?ラディアを後宮にだと?」
「ひぃ」
逃げようとする国王を持ち上げて反対側の壁へ投げつける。
その辺にいた男たちも巻き込んで壁にぶつかっていく。
気を失いかけている国王につかまえて首輪をつける。
ダニーも倒れている男たちへと首輪をつけた。
「おい、聞こえているか」
「……な、なんだ」
まだ意識は残っているようだ。
これなら命令しても大丈夫だろう。
「今、つけた首輪は従属の腕輪のようなものだ。
竜帝国のものだから、魔力では動かない。
俺よりも強い竜気をもっていなければ外せないものだ」
「従属の……?」
「そうだ。俺の言うことを聞くよな?」
「ああ……」
顔がぐしゃりと歪んだのは強制力が働いたからか。
血の気のないまま素直にうなずいて立ち上がる。
大臣たちも同じように立ち上がり、国王の後ろに並んだ。
「よし。それではお前がつけた従属の腕輪をすべて外せ」
「わかった……」
「あとは、後宮を使っていた男たちをすみやかに処分しろ。
女たちをさらってきた者もだ。
もう二度と後宮をつくることは許さない。女たちを汚すこともだ。
今、後宮にいる者たちは手厚く治療した後、金を渡して解放しろ」
「な……わかった」
「よし、すぐに行動にうつせ」
「ああ……」
本当は嫌だからだろう。のろのろと立ち上がってどこかへ行こうとする。
大臣たちも同じ方向に向かっているのを見ると、後宮へ向かっているのかもしれない。
「ダニー、ラディアのいる場所がわかるか?」
「わかります。急ぎましょう」
「ああ」
ダニーが案内するのについていくと、王宮の奥へと入っていく。
もうすでに後宮に入ったのかと思ったが、その手前で止まる。
「この部屋にいるようです」
「よし、そこをどけ」
扉を蹴り飛ばして中へと入る。
そこでは男たちがラディアを囲もうとしてるところだった。
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