24 / 29
24.ミリーナ王女との対面
しおりを挟む
「それで、王女はどうしたの?まさかまだこの屋敷にいるの?
さすがにもう帰ったわよね?」
「それがいるのよねぇ」
「「はぁ?」」
驚いてまぬけな声を出してしまったけれど、イザークと声が重なる。
どうやらイザークにとっても予想外だったようだ。
「この屋敷ではお世話できないと断ったから、領内の宿に泊まっている。
公爵はラディアと寝室にこもっているから会えないと言ったら、
かなり怒り散らかしてたけど。
護衛騎士に竜族がいたみたいで、説得されていたわ。
番っている時は誰にも邪魔できません、って。
はっきり言われてもまだ納得してない感じだったけどね。
公爵が出てきたらすぐに呼ぶようにって」
「すぐに……?」
もう出て来てから半日以上過ぎているけれど。
今、王女の件を報告されているってことは、まだ呼んでないよね?
イザークの許可がなければ呼べないはずだし。
デニーを見るとまだ呼んでませんよ~と呑気な返事が返ってきた。
「どうします?明日にでも呼びますか?」
「そうだなぁ。俺が部屋にいた間に溜まってる仕事があるだろう。
それが片付いてからでいいかな」
え?まだ呼ばないんだ。
驚いたのは私だけで、周りのみんなは平然としている。
「わかりました。では、屋敷の者たちには伝えておきます。
誰かに聞かれたらイザーク様はまだ部屋から出てきてないと答えるようにと」
「ああ。頼んだ」
もう十日以上待たせているのに、呼ばないで仕事を優先するらしい。
私としてもミリーナに会いたくはないので止めるつもりはない。
イザークは私をひざの上に乗せたままダニーから書類を受け取った。
仕事の間は何もすることはなく、つまらなくなってイザークの胸に頬を寄せる。
そのままうとうとしていると、時折イザークが私の頭をなでてくれる。
そんな風に日中は終わり、また寝室へと戻る。
それから一週間、イザークはずっと私をひざの上に乗せたまま仕事をしていた。
もう離れても平気なのだけど、こうしているのが癖になったようだ。
溜まっていた仕事がだいたい片付いたのか、ようやくイザークはミリーナへを呼ぶことにした。
次の日の昼過ぎ、屋敷に来たミリーナは少し疲れた顔をしていた。
馬車での長旅に、慣れない宿での生活。
いつも丁寧に手入れをされていた栗色の髪がパサついているように見える。
狭い宿では女官たちに世話をさせるのも難しかったはずだ。
王女として生まれ育ったミリーナにとっては大変なことだっただろう。
応接室のソファに座っていたミリーナは、入ってきたイザークを見てうれしそうに微笑んだ。
だが、イザークの後ろに私がいるのに気がつくと、キッとにらみつけてくる。
にらまれるのはいつも通りだから怖くはないけれど、
私だと気がつかれるかどうか不安で、少しだけうつむいたままにする。
挨拶をするためなのか立ち上がったミリーナにイザークが声をかける。
「待たせたようだな。ミリーナ王女」
「ずっと待っていたのよ。イザーク様、お会いできてうれしいわ」
背の高いミリーナでも、イザークのほうがはるかに大きい。
少しだけ上目づかいのミリーナは頬を赤く染めている。
イザークのことを慕っているって本当だったんだ。
ミリーナとイザークがソファに座った後、私もイザークの隣に座る。
それが嫌だったのか、ミリーナの顔が引きつったのがわかった。
「それで、どのような用件でここに?」
「お父様の使いで来たの。まずはそれを伝えるわ。
婚約をした報告をしに王宮まで来るように、だそうよ」
「婚約か。したのは結婚だが」
「国王であるお父様が認めなかったら結婚したことにはならないわ」
それはたしかにそうだろう。
ただし、エンフィア王国での結婚という意味だけど。
イザークも私もエンフィア国王に認めてもらいたいわけではない。
認めないというのなら、独立するだけの話だ。
だが、ここでミリーナに言っても意味はない。
独立するにしても一度は王宮に行ってこなければいけない。
「わかった。王宮まで行って結婚の報告をするとしよう」
あくまでも結婚だというイザークに、ミリーナは聞かなかったことにしたようだ。
「ええ、婚約の報告を。
それと、私が来たのはイザーク様にお願いがあってきたの」
「お願い?」
「私はもう王宮へは帰らないわ。ここに置いてちょうだい。
イザーク様の正妻として」
「「は?」」
にっこり笑って言うミリーナに、私とイザークの呆れたような声が重なった。
「だって、養女になったところで、平民の血は平民のままだわ。
イザーク様の妻になんて許されないもの」
「俺はそんなこと気にしないが?」
「あら。お父様が許すわけないもの。
そこの者は一生日陰者として生きるしかないのよ?」
蔑むような目で見られたが、そんなのは慣れている。
しっかりとミリーナを見つめ返して答える。
「私も気にしていないわ。
イザークの番は私だけだもの」
「黙りなさいっ。私へ直接声をかけるなんて無礼ね!」
「無礼?私はエンフィア王国の貴族ではないもの。
竜帝国の侯爵家にたいしてそんな口のきき方するなんて。
王女こそ、竜帝国の帝王に無礼じゃないの?」
「っ!」
私に言い返されると思わなかったのか、ミリーナは真っ赤になる。
扇子でも飛んでくるかなと思ったが、ミリーナはイザークへと訴える。
「イザーク様!なんですの!この平民は!
私が正妻になっても妾としているくらいなら許してあげようと思っていたのに!
すぐにでも追いだして!」
さすがにもう帰ったわよね?」
「それがいるのよねぇ」
「「はぁ?」」
驚いてまぬけな声を出してしまったけれど、イザークと声が重なる。
どうやらイザークにとっても予想外だったようだ。
「この屋敷ではお世話できないと断ったから、領内の宿に泊まっている。
公爵はラディアと寝室にこもっているから会えないと言ったら、
かなり怒り散らかしてたけど。
護衛騎士に竜族がいたみたいで、説得されていたわ。
番っている時は誰にも邪魔できません、って。
はっきり言われてもまだ納得してない感じだったけどね。
公爵が出てきたらすぐに呼ぶようにって」
「すぐに……?」
もう出て来てから半日以上過ぎているけれど。
今、王女の件を報告されているってことは、まだ呼んでないよね?
イザークの許可がなければ呼べないはずだし。
デニーを見るとまだ呼んでませんよ~と呑気な返事が返ってきた。
「どうします?明日にでも呼びますか?」
「そうだなぁ。俺が部屋にいた間に溜まってる仕事があるだろう。
それが片付いてからでいいかな」
え?まだ呼ばないんだ。
驚いたのは私だけで、周りのみんなは平然としている。
「わかりました。では、屋敷の者たちには伝えておきます。
誰かに聞かれたらイザーク様はまだ部屋から出てきてないと答えるようにと」
「ああ。頼んだ」
もう十日以上待たせているのに、呼ばないで仕事を優先するらしい。
私としてもミリーナに会いたくはないので止めるつもりはない。
イザークは私をひざの上に乗せたままダニーから書類を受け取った。
仕事の間は何もすることはなく、つまらなくなってイザークの胸に頬を寄せる。
そのままうとうとしていると、時折イザークが私の頭をなでてくれる。
そんな風に日中は終わり、また寝室へと戻る。
それから一週間、イザークはずっと私をひざの上に乗せたまま仕事をしていた。
もう離れても平気なのだけど、こうしているのが癖になったようだ。
溜まっていた仕事がだいたい片付いたのか、ようやくイザークはミリーナへを呼ぶことにした。
次の日の昼過ぎ、屋敷に来たミリーナは少し疲れた顔をしていた。
馬車での長旅に、慣れない宿での生活。
いつも丁寧に手入れをされていた栗色の髪がパサついているように見える。
狭い宿では女官たちに世話をさせるのも難しかったはずだ。
王女として生まれ育ったミリーナにとっては大変なことだっただろう。
応接室のソファに座っていたミリーナは、入ってきたイザークを見てうれしそうに微笑んだ。
だが、イザークの後ろに私がいるのに気がつくと、キッとにらみつけてくる。
にらまれるのはいつも通りだから怖くはないけれど、
私だと気がつかれるかどうか不安で、少しだけうつむいたままにする。
挨拶をするためなのか立ち上がったミリーナにイザークが声をかける。
「待たせたようだな。ミリーナ王女」
「ずっと待っていたのよ。イザーク様、お会いできてうれしいわ」
背の高いミリーナでも、イザークのほうがはるかに大きい。
少しだけ上目づかいのミリーナは頬を赤く染めている。
イザークのことを慕っているって本当だったんだ。
ミリーナとイザークがソファに座った後、私もイザークの隣に座る。
それが嫌だったのか、ミリーナの顔が引きつったのがわかった。
「それで、どのような用件でここに?」
「お父様の使いで来たの。まずはそれを伝えるわ。
婚約をした報告をしに王宮まで来るように、だそうよ」
「婚約か。したのは結婚だが」
「国王であるお父様が認めなかったら結婚したことにはならないわ」
それはたしかにそうだろう。
ただし、エンフィア王国での結婚という意味だけど。
イザークも私もエンフィア国王に認めてもらいたいわけではない。
認めないというのなら、独立するだけの話だ。
だが、ここでミリーナに言っても意味はない。
独立するにしても一度は王宮に行ってこなければいけない。
「わかった。王宮まで行って結婚の報告をするとしよう」
あくまでも結婚だというイザークに、ミリーナは聞かなかったことにしたようだ。
「ええ、婚約の報告を。
それと、私が来たのはイザーク様にお願いがあってきたの」
「お願い?」
「私はもう王宮へは帰らないわ。ここに置いてちょうだい。
イザーク様の正妻として」
「「は?」」
にっこり笑って言うミリーナに、私とイザークの呆れたような声が重なった。
「だって、養女になったところで、平民の血は平民のままだわ。
イザーク様の妻になんて許されないもの」
「俺はそんなこと気にしないが?」
「あら。お父様が許すわけないもの。
そこの者は一生日陰者として生きるしかないのよ?」
蔑むような目で見られたが、そんなのは慣れている。
しっかりとミリーナを見つめ返して答える。
「私も気にしていないわ。
イザークの番は私だけだもの」
「黙りなさいっ。私へ直接声をかけるなんて無礼ね!」
「無礼?私はエンフィア王国の貴族ではないもの。
竜帝国の侯爵家にたいしてそんな口のきき方するなんて。
王女こそ、竜帝国の帝王に無礼じゃないの?」
「っ!」
私に言い返されると思わなかったのか、ミリーナは真っ赤になる。
扇子でも飛んでくるかなと思ったが、ミリーナはイザークへと訴える。
「イザーク様!なんですの!この平民は!
私が正妻になっても妾としているくらいなら許してあげようと思っていたのに!
すぐにでも追いだして!」
154
お気に入りに追加
1,188
あなたにおすすめの小説
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る
星名柚花
恋愛
魔法が使えない伯爵令嬢セレスティアには美しい双子の妹・イノーラがいる。
国一番の魔力を持つイノーラは我儘な暴君で、セレスティアから婚約者まで奪った。
「もう無理、もう耐えられない!!」
イノーラの結婚式に無理やり参列させられたセレスティアは逃亡を決意。
「セラ」という偽名を使い、遠く離れたロドリー王国で侍女として働き始めた。
そこでセラには唯一無二のとんでもない魔法が使えることが判明する。
猫になる魔法をかけられた女性不信のユリウス。
表情筋が死んでいるユリウスの弟ノエル。
溺愛してくる魔法使いのリュオン。
彼らと共に暮らしながら、幸せに満ちたセラの新しい日々が始まる――
※他サイトにも投稿しています。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる