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22.初夜?

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あともう少しで私が竜人になるとわかったからか、
イザークは公爵領の仕事を急いで終わらせようとしていた。
日中はほとんど一緒にはいられず、私はレオナの薬作りを手伝っていた。

それでも夜はイザークと同じ寝台で寝ていたから、
不満を言うことはしなかった。
離れている時間が長く感じて身体の中のイライラが増えていたけれど、
これも竜人になるための準備の一つだってレオナがいうから我慢していた。

六日目の朝、目が覚めたら違和感があった。
隣にはイザークがいて、その胸にもたれかかるように寝ていた。
それはいつものことなのに、少しでも離れているのがおかしいと感じて抱き着く。

「……ん?起きたのか?」

その声も身体に響いて、イザークの胸の中にもぐりこむ。
私の異変を感じたのか、私をすぐに抱きしめてくれたけれど、足りない。

足りない。何かが足りない。
それを埋めてくれるのはイザークだとわかっていた。

「イザーク……イザーク……脱いでほしい」

「脱ぐ?夜着をか。ちょっと待て」

薄い絹なのに、肌がふれあえなくて苦しい。
もっと近くにいてほしいのに、布一枚が遠く感じる。

片腕ずつイザークが脱いでいく時間も惜しくて、
はだけた胸に飛び込むように抱き着いてくちづける。

「……竜人になったのか。ラディア、ちょっと待てるか?」

「待てない…離れちゃやだ」

「ん……そうだな。わかった」

ちょっとの間だって待ちたくなかった。
イザークとすべての肌をくっつけたくて、混ざりあいたくて。
心も身体も待てないって言ってる。

「焦らなくていい。もうずっと離れない。
 俺はお前のものだ」

「私もイザークのものにしてくれる?」

「当然だ。ラディアは俺の。俺だけのものだから」

「うれしい……」

初夜にすることは痛くて苦しいことなんだって思ってた。
お母様が、後宮の女たちが、あんなにも苦しそうにしていた。
泣いて泣いて、死にたいって嘆くほどつらいことなんだって思った。

じゃあ、これはなんなんだろう。
思っていたのとは違う。苦しくもつらくともない。

ただ、そばにいてほしい。もっと近くにいてほしい。
私をほしいと身体のすべてで言ってほしい。

何度くっついても、もっと欲しくて。
少しの間も私から目をそらさないでほしい。

「……もっとして?」

「ああ。もちろん。ラディアが望むならいくらでも」

くっつきすぎて顔が見えなくなるくらいなのに、
どうしてかイザークが笑っている気がする。
イザークのものになれたのがうれしくてうれしくて、
どこかほっとするような気持ちもあって。

朝なのか昼なのかわからないまま時間が過ぎていく。
時折、スープや水を飲ませられた気がするけれど、
それも口移しだったから、いつのまにかまたイザークと混ざり合って。
何度か湯あみをしたはずだけど、部屋には誰も入って来なかった。

ようやく私が落ち着いた時には二週間が過ぎていた。
満足したわけではないけれど、少しは周りが見えるようになった。
そうして、おかしいなと思う。

「こんなに部屋に閉じこもっていて大丈夫なの?」

「初めて番う時はこういうものなんだ。
 十日以上離れられないって最初からわかってる。
 だから、誰も騒がない。
 俺たちに会うことなく、食事や水は差し入れてくれるようになっていた。
 湯あみしている時に寝台のシーツを交換してくれたと思うが、
 俺も興奮状態にあったから、よくわかってないけどな」

「みんな、こういうものなの?」

「竜人が番う時はこういうものだな」

そうなんだ。二週間が過ぎたと言われたらそうかと思うけれど、
あっという間だった気もする。

「……なんでだろう」

「何がだ?」

「こういうことって痛くてつらくて嫌なことなんだと思ってた。
 お母様や後宮の女たちはみんな嫌がって泣いてたから。
 なのに、痛くも苦しくもなかった」

思ってたのとかなり違った。
していたことは同じはずなのに、何もかもが違うような気がした。

「それは、本来は好き合っているものだけがする行為だからだ」

「好き合ってる?」

「そうだ。後宮はそうではない。
 したくもない相手とするからつらくて嫌なことになる。
 ラディアは俺以外と同じことができるか?」

イザーク以外と同じこと。
考えようとしたら、頭が拒否するように想像できない。

「たとえば、ラディアが嫌いな相手と」

「嫌いな相手」

一番嫌いなのは国王。そして第一王子。
小太りでいつもにやついて、人を人として扱わないあいつら。
考えようとしたけれど、やっぱり無理だった。

「あぁ、無理に考えなくていい。
 嫌だってことがわかるなら、それでいい。
 そういうことだ」

「……いやだ」

「ん?」

「絶対に嫌。イザーク以外にされるなんて嫌」

「うん、わかってる。絶対に俺以外にふれさせたりしない。
 何があっても守るよ。だから、安心していい」

「お母様が泣いていたのが……わかって……苦しい」

「そうだな」

「絶対にあいつらを許さない……」

ひどいことをされているのはわかってた。
お母様も後宮の女たちも、みんな泣いていたから。
痛かったのかな。苦しかったのかなっていうのは想像できた。
だけど、そんなにも許せないことをされていたとは思ってなかった。

「ラディア、俺がその気持ちも守るよ。
 したいことを言って?」

「国王を、側近たちを、この国を許したくない」

「あぁ、そうだな。許さなくていい。
 もうあいつらは終わるしかない」





私の気持ちと身体が落ち着いたのは、番い始めてから十八日目だった。
ようやく部屋からでることができて、レオナやデニーとダニーと顔を合わせた。
私たちは部屋にこもっている間、誰にも会わなかったら知らなかった。

王宮からの使者として、王女ミリーナが来ていたなんて。

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