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9.レオナ
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「って、レオナ!」
「え?」
「レオナのこと忘れてた!どうしよう!」
公爵領に来て十日も過ぎている。
レオナは私が十日戻って来なかったら公爵領に来るって言ってた。
あの後宮から逃げ出すって、危なくないのだろうか。
「ラディア、落ち着いて。ゆっくりでいいから説明して。
レオナとは誰だ?何か問題が起きているのか?」
「……レオナは私の親代わりの人よ。
母様が亡くなった後、私を十二年も育ててくれたの。
レオナは後宮の薬師なの。
それもどの国からも欲しがるような薬を作る優秀な薬師」
「あぁ、エンフィア王国の薬といえば有名だからな。
あれを作っている薬師なのか」
ああ、やっぱりレオナの薬は有名なんだ。
後宮にいて入ってくる情報がすべて正しいとは限らない。
私が思っているだけかもしれないと思っていたけれど、
レオナの薬が評価されているとわかってほっとする。
「私がここに嫁ぐことになった時、
イザークを暗殺したら後宮に戻ることになっていたの。
レオナはもし私が十日戻らなかったら、追いかけるからって」
「追いかける?ラディアを追ってここに?
優秀な薬師なのだろう?後宮から出られるのか?」
私が慌てている理由がわかったからか、イザークも困った顔になる。
レオナほどの薬師を普通に出してくれるはずがない。
あの薬が無くなったら、他国との外交ができなくなる。
「どうやって後宮から出るつもりなのか聞かなかった。
どうしよう。
レオナが逃げ出そうとしているのがわかったら、
見せしめに誰かを殺されるかも」
「そのレオナが危害を加えられるわけじゃなく?」
「レオナも馬殺草をまとっているの。
だから、レオナを傷つけるようなことはできないのよ」
「ん?そのレオナも竜族なのか。じゃあ、大丈夫だな」
「え?」
「竜族なら誰にも知られずに後宮から抜け出すくらい大丈夫だろう
使用人たちに伝えておこう。
レオナというものが訪ねてきたら通すように」
「レオナが竜族だなんて聞いていないけど……」
レオナも竜族?そんなことは知らなかったけれど、
レオナも馬殺草をまとっていると聞いてイザークは安心していいという。
「毒耐性を持っているのは、竜人か竜族の中でも竜気が強い者だけだ。
竜族ならば誰でも馬殺草が平気なわけじゃない。
それはラディアに侍女がつけられないことでもわかるだろう」
「そういえば……この屋敷にいるほとんどは竜族なのに、
毒耐性を持ってる侍女はいないくらいめずらしいのよね?
レオナも私も竜族の中でも竜気が強いからってこと?」
「そうだ。少なくとも竜族以外で馬殺草をまとえる種族は知らないな」
思い出してみればレオナは竜族らしい外見をしているかもしれない。
だけど、それもここに来て竜族を知ったからだ。
王都や後宮には他に竜族はいなかったと思う。
「レオナは赤髪で黒目なの。すごく綺麗なのよ。
竜気は魔力のことよね?魔力はいっぱいあったと思う。
それにスキルもいくつもあったの」
「スキル?どのくらい?」
「鑑定と調剤と身体強化があったと思う。
レオナが鑑定を使えたから私に毒耐性があったのがわかったって言ってた」
「そうだよな。毒耐性あるかどうかわからなければ飲ませないよな」
「あと、レオナのおかげで収納空間を使えるようになったの。
レオナも使えるのよ」
そう言えばと思って収納空間からレオナの薬を一つ出す。
小さな瓶に入っている薬はレオナしか作れないもの。
イザークに渡すと驚いた顔をしている。
「あぁ、そういうことか。
あの時、どこから短剣を出してきたのかと思ったら。
収納空間が使えるってめずらしいスキルだろう。
国王には言わなかったのか?」
「多分知ってたと思うけど、特には言われてないかな。
小さい収納空間だったから暗殺以外の役には立たないと思われたんだと思う。
馬殺草とレオナの薬、あとは鉄扇くらいしか入ってない……。
あれ?大きくなってる気がする」
私が持ちあげられるくらいの物しか入れられなかったはずなのに、
収納空間に余裕がある。というか、隙間だらけに感じる。
三倍くらいに増えているような?
「ラディアは従属の腕輪を幼い頃につけられていただろう。
竜気、魔力は制限されていたはずだ。
それを取り除いたうえで、竜人へ変化しようとしている。
おそらく今の十倍は大きくなると思うぞ」
「十倍!?」
「とはいえ、特に使うこともないだろうけどな。
物を運ぶような作業をするわけでもないし」
「まぁ、そうね」
驚いたけれど、役に立たないことには変わらないようだ。
レオナみたいに役に立つスキルが一つでもあれば良かったのにな。
そう思っていたら、イザークに口づけられる。
「口がとがってた。そんなにがっかりするなよ。
何かの時に使えるかもしれないだろう?武器は多いほうがいい」
「そうだね……」
本当に何もできない。
暗殺者としての役目なんてここでは必要ないだろうし、
何一つイザークのためにできることなんてない。
ふてくされていたら、イザークが頬やこめかみに口づけてくる。
大事なものを確かめるように優しくなでてくれる。
私がまだ不機嫌なのがわかっているんだと思うけど、
そのために優しくしてくれるのがうれしくて笑ってしまう。
「レオナというものに関しては待つしかないだろう
領地内で赤髪黒目のレオナというものを見かけた時には、
丁重に屋敷まで案内するように伝えておく。それでいいか?」
「ん。ありがとう」
「え?」
「レオナのこと忘れてた!どうしよう!」
公爵領に来て十日も過ぎている。
レオナは私が十日戻って来なかったら公爵領に来るって言ってた。
あの後宮から逃げ出すって、危なくないのだろうか。
「ラディア、落ち着いて。ゆっくりでいいから説明して。
レオナとは誰だ?何か問題が起きているのか?」
「……レオナは私の親代わりの人よ。
母様が亡くなった後、私を十二年も育ててくれたの。
レオナは後宮の薬師なの。
それもどの国からも欲しがるような薬を作る優秀な薬師」
「あぁ、エンフィア王国の薬といえば有名だからな。
あれを作っている薬師なのか」
ああ、やっぱりレオナの薬は有名なんだ。
後宮にいて入ってくる情報がすべて正しいとは限らない。
私が思っているだけかもしれないと思っていたけれど、
レオナの薬が評価されているとわかってほっとする。
「私がここに嫁ぐことになった時、
イザークを暗殺したら後宮に戻ることになっていたの。
レオナはもし私が十日戻らなかったら、追いかけるからって」
「追いかける?ラディアを追ってここに?
優秀な薬師なのだろう?後宮から出られるのか?」
私が慌てている理由がわかったからか、イザークも困った顔になる。
レオナほどの薬師を普通に出してくれるはずがない。
あの薬が無くなったら、他国との外交ができなくなる。
「どうやって後宮から出るつもりなのか聞かなかった。
どうしよう。
レオナが逃げ出そうとしているのがわかったら、
見せしめに誰かを殺されるかも」
「そのレオナが危害を加えられるわけじゃなく?」
「レオナも馬殺草をまとっているの。
だから、レオナを傷つけるようなことはできないのよ」
「ん?そのレオナも竜族なのか。じゃあ、大丈夫だな」
「え?」
「竜族なら誰にも知られずに後宮から抜け出すくらい大丈夫だろう
使用人たちに伝えておこう。
レオナというものが訪ねてきたら通すように」
「レオナが竜族だなんて聞いていないけど……」
レオナも竜族?そんなことは知らなかったけれど、
レオナも馬殺草をまとっていると聞いてイザークは安心していいという。
「毒耐性を持っているのは、竜人か竜族の中でも竜気が強い者だけだ。
竜族ならば誰でも馬殺草が平気なわけじゃない。
それはラディアに侍女がつけられないことでもわかるだろう」
「そういえば……この屋敷にいるほとんどは竜族なのに、
毒耐性を持ってる侍女はいないくらいめずらしいのよね?
レオナも私も竜族の中でも竜気が強いからってこと?」
「そうだ。少なくとも竜族以外で馬殺草をまとえる種族は知らないな」
思い出してみればレオナは竜族らしい外見をしているかもしれない。
だけど、それもここに来て竜族を知ったからだ。
王都や後宮には他に竜族はいなかったと思う。
「レオナは赤髪で黒目なの。すごく綺麗なのよ。
竜気は魔力のことよね?魔力はいっぱいあったと思う。
それにスキルもいくつもあったの」
「スキル?どのくらい?」
「鑑定と調剤と身体強化があったと思う。
レオナが鑑定を使えたから私に毒耐性があったのがわかったって言ってた」
「そうだよな。毒耐性あるかどうかわからなければ飲ませないよな」
「あと、レオナのおかげで収納空間を使えるようになったの。
レオナも使えるのよ」
そう言えばと思って収納空間からレオナの薬を一つ出す。
小さな瓶に入っている薬はレオナしか作れないもの。
イザークに渡すと驚いた顔をしている。
「あぁ、そういうことか。
あの時、どこから短剣を出してきたのかと思ったら。
収納空間が使えるってめずらしいスキルだろう。
国王には言わなかったのか?」
「多分知ってたと思うけど、特には言われてないかな。
小さい収納空間だったから暗殺以外の役には立たないと思われたんだと思う。
馬殺草とレオナの薬、あとは鉄扇くらいしか入ってない……。
あれ?大きくなってる気がする」
私が持ちあげられるくらいの物しか入れられなかったはずなのに、
収納空間に余裕がある。というか、隙間だらけに感じる。
三倍くらいに増えているような?
「ラディアは従属の腕輪を幼い頃につけられていただろう。
竜気、魔力は制限されていたはずだ。
それを取り除いたうえで、竜人へ変化しようとしている。
おそらく今の十倍は大きくなると思うぞ」
「十倍!?」
「とはいえ、特に使うこともないだろうけどな。
物を運ぶような作業をするわけでもないし」
「まぁ、そうね」
驚いたけれど、役に立たないことには変わらないようだ。
レオナみたいに役に立つスキルが一つでもあれば良かったのにな。
そう思っていたら、イザークに口づけられる。
「口がとがってた。そんなにがっかりするなよ。
何かの時に使えるかもしれないだろう?武器は多いほうがいい」
「そうだね……」
本当に何もできない。
暗殺者としての役目なんてここでは必要ないだろうし、
何一つイザークのためにできることなんてない。
ふてくされていたら、イザークが頬やこめかみに口づけてくる。
大事なものを確かめるように優しくなでてくれる。
私がまだ不機嫌なのがわかっているんだと思うけど、
そのために優しくしてくれるのがうれしくて笑ってしまう。
「レオナというものに関しては待つしかないだろう
領地内で赤髪黒目のレオナというものを見かけた時には、
丁重に屋敷まで案内するように伝えておく。それでいいか?」
「ん。ありがとう」
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