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8.穏やかに変化する二人

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「いいんだ。ラディアのせいじゃない。
 ただ、殺してもいいのなら、俺のものにしてもいいだろうと思った。
 選ばせなくて悪かったな。まぁ、嫌でも俺のものにするが」

「選ぶことができたとしても同じだと思う。
 私を助けてくれてありがとう」

「そうか……まだ眠いだろう。もう少し寝ようか」

「うん」

私の目が半分閉じかかっていた。
これも竜人になるために身体が作り変えられているからなのか。
イザークに抱きかかえられたまま目を閉じるとすぐに眠りに落ちる。
眠ったとしてもそばにいてくれると信じられるから安心できる。



そうして何度か眠り、起きては食事をする。
食事をして公爵領や竜族の説明を聞いているうちにまた眠くなる。

六日目には王家から何も知らないという手紙が来たと報告された。
やはり国王は私を偽王女だとし、王家は関与していないことにした。
腹立たしいけれど、おかげで私は死んだと認められたようだ。
物心ついた時にはすでに従属の腕輪がつけられていたから、
王家から離れる日が来るなんて思っていなかった。

自由になれた気持ちで満足して、またイザークに抱きしめられたまま眠る。
そんな風に日々を過ごし、気がついた時には十日目の昼になっていた。



ぴちょんとどこかから水滴が落ちる。
湯あみ場が広いのは本来は侍女たちが世話をしてくれるからだろう。
私とイザークしかいない中、水音が響いている。

湯あみ場の真ん中にある大きな浴槽の中、
イザークに抱きかかえられるようにして入浴している。
一人で浴槽に入ったら深くて溺れてしまうかもしれない。

「すごいね。大きい浴槽って気持ちいい。
 ここに最初に来た日、深くて怖かったから中には入らなかったの」

「そうか。もっと小さい浴槽を用意しておくべきだったな。
 ここはいつも俺しか使っていなかったから」

「そうなんだ。だからこんなに大きいのね」

手足を伸ばしても縁まで届かない。
イザークの大きさに合わせて作られているのなら仕方ない。
今後も一人で入ることはなさそうだ。

「まだ眠いか?」

「ううん、もう大丈夫そう。目が覚めた感じがする」

竜人に変わるまで半年ほどかかると聞いたけれど、
最初の十日は急激な変化によって起きていられないほど眠くなるらしい。
昨日までは湯あみがしたいと思うよりも眠くて仕方なかった。

それが今日起きたら意識がはっきりしていて、
汗だくな自分の身体が気になってしまった。
湯あみの準備ができたと言われれて一人で入ろうと思ったけれど、
イザークと離れたくない気持ちが強くて。

湯あみはしたい、でもイザークと離れたくないと悩んだ結果、
イザークと一緒に入ることにした。

イザークは拒もうとしていたが、お願いしたらあきらめてくれた。
「番のお願いには弱い……」と嘆いていたけれど、そんなに嫌なの?

「ほら、見て。ラディアの身体が変化しはじめている」

「ん?あ、本当だ。髪の色が変わってきている」

金色だった髪の毛先が銀色になっている。
竜人になると身体が変わるとは聞いていたけれど、色が変わるのは知らなかった。

「多分、髪は銀色になると思う。目は最終的には紫かな。
 今はうっすらと青紫に変わってきているよ」

「本当!?」

「変わるのがうれしいのか?」

「うれしい。ずっとあのクズたちと同じ色なのが嫌だったの。
 そっか。本当は黒か赤になりたかったけど、銀と紫でもいい」

エンフィア王家の色と言われている金髪青目だが、
私にとっては母様にひどいことを繰り返していた男たちの色だ。
私が生まれた時、金髪青目を見た母様はどんな気持ちだったんだろう。
母様と同じ黒髪黒目だったら良かったのにとずっと思っていた。

「俺の色が混ざった結果だな。金に黒が、青に赤が足されたんだ」

「そっか。イザークの色が混ざったんだ。
 ふふ。うれしいなぁ。ありがとう」

お礼を言ったら、不思議そうな顔をした後でうれしそうに笑う。
濡れた黒髪から雫が落ちるけれど、かまわずに抱き着く。

「こら……裸で抱き着いてくるな」

「どうせ結婚するんだし、だめ?
 嫌ならやめるけど」

「嫌なわけあるか。だが、胸が……こっちは我慢しているのに……」

我慢。あぁ、そういう。だから一緒に湯あみをしたがらなかったのかな。
イザークの上に乗るように抱き着いているけど、たしかに体格差がすごい。

「そうだね……ちゃんとできるかなぁ」

「ラディア、どこ見て言ってる……」

「ん?」

つい、そこに目がいってしまっていた。
だって、大丈夫なのかなぁって思ってしまって。
怖いとか嫌だという気持ちはないんだけど。

「というか、少しは裸を隠そうとして欲しい……」

「あぁ、そっか。ごめんね?」

多分、後宮育ちだということもあって、常識が欠けていると思う。
王女としての礼儀作法は習っても、後宮にいるかぎり使うことはない。
社交をしたこともなければ、夜会にでたこともない。
王子と王女とは会話したことはあっても、あれはまともな会話じゃなかった。

結果として、思うことをそのままいう癖がついてしまっている。
そして、初夜がどういうことをするのか、具体的に知ってしまっている。

「夜伽がいいことだとは思えなかったけれど、
 イザークとするなら何も怖くないと思って。
 裸もイザークだから見られても平気なのよ?」

「ラディア、今それを言うのは逆効果だ。
 あーもう。上がろうか」

「はーい」

どうやらこの状況で何を言ってもダメらしい。
湯あみを終えて、大きな布に包まれて身体を拭かれる。
一人でも拭けるんだけどイザークがしたいようにさせる。

私を着心地のいいワンピースに着替えさせた後、イザークが着替えている。
少しだけ一人にさせてと言われたので先に部屋に戻った。

部屋には冷たいレモン水が用意されていたから、
ソファに座って飲みながらイザークを待つ。


イザークの身体が大変そうだったから、どうにかしてあげたかったけれど、
そこにはさわってはいけないと言われてしまった。
うーん。何かしてあげたかったんだけど、何もできなかった。
こういう時、レオナがいたら相談に乗ってくれるのに。

「って、レオナ!」

「え?」

「レオナのこと忘れてた!どうしよう!」

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