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2.第一王女はどっち

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満足そうにうなずく陛下に礼をして謁見室から出る。
そこで待ち構えていたのは目を吊り上げた。
本来なら第一王女のミリーナだった。


ほっそりとして背が高いミリーナは、
栗色の髪をゆるく巻いて胸を隠すようにしている。
ドレスのデザインは胸元が開いているのが基本なので、
真っ平な胸を見せたくないらしい。

私にしてみたらどうでもいいことだけど、
本人にとってはどうでもよくないのだろう。

「どういうことよ!あんたが王女として嫁ぐって!」

「私にはわかりません。陛下の命令ですので」

「後宮で生まれただけで、お父様の子じゃないのでしょう!?」

「そうだと思いますが、陛下は王女として嫁がせたいのでしょう」

私の母は後宮へ貢物として出された侯爵家の妾の娘だった。
黒髪黒目だったけれど、産まれた私は金髪青目だった。
この国で金髪青目は王家か高位貴族しかいない。

後宮に出入りを許された者の誰かが父親なはずだけど、
実際に誰なのかはわからない。
一応は後宮なのだから、陛下の子として認められている。

栗色の髪と緑目のミリーナは公爵家出身の王妃にそっくりで、
血筋は高貴なのだが王家の色ではなかった。

それもあって金髪青目の私を王女として認めたのだろう。
最初から何かの時はミリーナの代わりに王女として使うつもりで。
それをミリーナは納得してないのか、こうしてからまれることが多い。

「それに!どうしてイザーク様があんたなんかを選ぶのよ!」

「イザーク様とは?」

「イザーク・イルミール様よ!
 お父様がイザーク様に私とあんたの釣書を一緒に送ったって!
 どう考えても選ばれるのは私の方なのに、どうしてあんたが選ばれるのよ!
 私は夜会で何度も踊ったことがあるのに!」

あぁ、なるほど。
何を怒っているのかと思ったら、公爵はミリーナの想い人だったのか。
あいかわらず好き勝手に生きているらしい……。
王女として生まれたのなら、政略結婚に使われるのが当たり前だというのに。

だが、陛下の考えもわかる気がした。
ミリーナを選んだのなら、ミリーナが公爵夫人となることで、
義息子になる公爵をいいようにするつもりだったのだろう。

その反対で私を選んだのなら、
実娘を振った腹いせも兼ねて殺させるつもりだったと。
あのクズ国王が考えそうなことだ。

これ以上ミリーナに関わりたくなくて、すっと横を通り過ぎる。
明日には公爵領に向かって出発する。こんなことに使う時間はない。

「私には何も言うことはありません。
 陛下の命令通りに嫁ぐだけです」

「このっ!」

頭に血が上ったのか、ミリーナが扇子をふりあげて私を叩こうとした。
さすがにこれはまずいと思い、鉄扇でそれを止めた。

「なんで止めるのよ!黙って叩かれなさい!」

「死にたいのですか?」

「え?」

「以前に言ったと思いますが、私の血は毒です。
 頬を扇子で叩かれて出血した場合、近くにいるあなたは死にますよ?」

「……っ」

そのことをようやく思い出したのか青ざめて後ずさる。

「ミリーナ様、あのものに近づいたら危ないですわ。もうおやめください」

「ええ、このような化け物は関わってはいけません。
 お部屋にお戻りください」

「……わかったわよ。
 どうせ女性嫌いのイザーク様なら形だけの結婚でしょうし!」

まだ怒り足りなかったのか、私をにらみつけながら部屋に戻っていった。

公爵が女性嫌いだとは国王は言っていなかったけれど。
形だけの結婚となると初夜で殺せなくなるし、そうなったら面倒かも。

ため息をつきながら後宮に戻ると、入ってすぐのところでレオナが待っていた。

「ラディア!遅かったわね」

「うん……レオナ。部屋に戻ってから話そうか」



「嫁ぐことになった。といっても、初夜で殺してすぐに戻って来いって」

「は?どこの国よ」

「国じゃなかった。どこからも断られたみたい。
 行き先は、イルミール公爵家」

「イルミール公爵家って……竜帝国の?」

「知ってる?今の竜帝国の帝王の甥だって」

「政略結婚を向こうが承諾したと?」

なぜそんなことが気になるのかわからないけれど、
私が知っていることをレオナに伝える。

「どうやらミリーナ王女が公爵のことを好きだったみたい。
 だから、ミリーナと私の釣書を送ったって。
 選ばれたのは私の方だったみたいだけど、何が気に入ったのかな。顔?」

「そりゃ、ラディアは可愛いわよ。だけど、あの公爵が承諾するなんて」

「あの?」

「ううん、はっきりしないことは言わないほうがいいわね。
 それで、殺した後は戻って来いって?」

「うん。まだどこかの国に私を嫁がせて、
 その国を乗っ取る計画をあきらめてないみたいよ?」

「あーあきらめそうにないわね。あのクズ男ども」

これだけ国王の文句を言ったことが知られてもレオナが処刑されることはない。
殺そうにも体液が毒だということと、
レオナがいなくなったら薬を作れるものがいなくなるからだ。

薬以外に他国と貿易できる商品はほとんどなく、
これが無くなってしまえは同盟も切られるかもしれない。
それだけこの国が腐った国だと知られてしまってるからなのだが。

「すぐに戻って来るわ……どうせ逃げ出せないのだから」

自分の両腕にはまった従属の腕輪を見る。
この腕輪があるかぎり国王に逆らうことはできないし、逃げることもできない。
レオナは従属させられていないのだから、逃げられるのに。
ここにいてくれるのは私がいるからだ。

「ラディア、もし、もしよ?」

「ん?」

「あなたがイルミール公爵家から戻ってこなかったとしたら、
 その時には私も追いかけていくから」

「え?」

「十日しても戻って来なかったら、私も行くわ。
 だから、心配しないで」

「……うん」

イルミール公爵領までは馬車で二日ほどの距離だ。
どうせ行ってすぐに初夜にしろとか陛下が申し出ているのだろうから、
一週間もしないで戻ってこれるはずだ。

そのあいだレオナと離れるのは嫌だけど、
これが終われば別の政略結婚が決まるまでは一緒にいられる。

きっと、死ぬまで解放されることはないけれど、
こうしてレオナと穏やかに過ごす時間だけは失いたくない。
それが誰かを殺した褒美だとしても。



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