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27.コレッティ公爵家の夜会

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コレッティ公爵家の夜会は、王都にあるコレッティ公爵家の屋敷で開かれる。
王都の隣に領地をもつコレッティ家は、前王妃の生家でもあるし、
国王の叔父が継いでいることもあって、筆頭公爵家となっている。

王都に屋敷を持つ貴族は多いが、これほど大きな屋敷を構えている家は少ない。
アルフレードと婚約した時に初めて挨拶に訪れ、その後夜会で一度来ている。

招待状を見せると、広間へと案内される。
ここでジョイとリリアナは控えの間に下がる。

「おお、これはカファロ侯爵。結婚式以来ですか」

「ええ、お久しぶりです」

隣の領地の伯爵に声をかけられ、最近の領地の様子などを情報交換する。
土地が隣接している場合、こまめに情報交換していないと、
作物の病気などの異変を見逃してしまうことがある。
そのため、夜会で会うときは必ず話すことにしている。

そんな風に顔見知りの貴族と話していると、遠くにアルフレードがいるのが見えた。

いつものように数人の男性と令嬢に囲まれている。
おそらく娘を紹介されているのだろう。
私と結婚した後も王宮貴族には不満を持つものが多く、こうして娘を紹介されるらしい。

第一王子だった国王、侯爵家に婿入りした第二王子、
そして王弟となったアルフレード。
三人の王子がそろって地方貴族の令嬢と結婚したことが面白くないのだ。

また、宰相が王宮貴族の腐敗をなくそうと取り締まりを厳しくし、
たくさんの不正者を除籍したことからも王宮貴族の力は弱まってきている。
アルフレードと私を離縁させた後、王宮貴族と再婚させて、
宰相を辞めさせるように動かしたいのだと思う。

無表情で応対しているアルフレードを見て、
困っているんだろうなとは思うけれど、私が何かできるわけではない。
近づくとよけいにもめそうなので、こういう時は見なかったことに。

「気になるの?」

「え?あ、エルネスト様」

「アルのこと見てたでしょう。気になるのかなって」

「あぁ、いえ。大変そうだなって」

「だろうね」

声をかけてきたのがエルネスト様だったから、少し驚いた。
アルフレードのそばにいるんだと思っていたのに。

「今日はアルフレードのそばにいなくていいのですか?」

「今日はうちの夜会だからね。
 俺も次期当主としていろいろ動かないといけなくて。
 だから、今日はアルには一人で頑張ってと言ってあったんだ。
 まぁ、俺がいないから今ならいけると思われているかもね」

「そういうことでしたか」

なるほど。
いつもと違ってエルネスト様がいないから、断ってもあきらめてくれないのか。
アルフレードは意外と優しいから、断り続けるのに苦労していそう。

「では、カファロ侯爵。うちの親に挨拶に行きますか?」

「ええ、そろそろ行こうと思っていました。
 お願いできますか?」

「よろこんで」

主催のコレッティ公爵夫妻に挨拶に行かなければならないが、
あまり最初のほうに挨拶に行ってしまうと、目立ってしまう。
侯爵をついだばかりだし、女性ということもあって、
人が少なくなってから行こうと思っていた。

無事に公爵夫妻に挨拶を終えると、エルネスト様が飲み物を差し出してくる。
それをありがたく受け取って一口飲むと冷たい果実水だった。
会場に入ってから何も飲んでいなかったためにのどが渇いていた。

「あの令嬢のことは報告来てた?」

「ジャンナ様のことですよね?ええ、来ていました」

「宰相は王宮内の改革を進めているからね。
 わざわざあの令嬢だから調べたってことではないらしい。
 たまたま不正を見つけて処分したら、その妻がそうだったって」

「そうなんですか。まぁ、そのような結婚だったのなら、
 離縁できてよかったのかもしれませんね」

自分の父親よりも上の男性に、しかも後妻として嫁いでいる。
後継ぎはもういるそうだし、王宮貴族であれば女主人としての仕事もない。
離縁して生家に戻ったほうが気が楽かもしれないと思った。

「ほんとさぁ、カファロ侯爵は優しいよね」

「優しい、ですか?」

「ああ。エラルドと三人、あんな処罰で済ませてよかったの?」

「よかったのかと言われると、たぶんどうでもよかったのかと。
 公にしませんでしたからね。
 あれは三人の令嬢と不貞行為をしたことに対する処罰ですから。
 あれ以上の処罰をしても、それはそれで」

「あぁ、カファロ侯爵家が厳しすぎると批判がくるか」

「そう思います。あまり敵は増やしたくありませんし」

「まぁ、そうか」

エラルドは元侯爵夫人が亡くなるまでは幽閉されることになっている。
その後どうするつもりなのかはわからないが、
今になって元侯爵夫人がエラルドに勉強を教えているらしい。
いつか一人になったときに生活できるようにということなのか。

ラーラ様がいる修道院は元貴族でも平民と同じように生活するらしく、
あのラーラ様が掃除や洗濯、食事の用意を自分たちでしていると聞いて、
それなりに厳しい処罰だったのではないかと思う。

「あの三人にとって、エラルドと一緒にいられないということが、
 一番厳しい処罰だったのではないでしょうか」

「それは確かにな」

そういうとエルネスト様も納得したようにうなずく。
あれだけ一緒にいたいと言い続けていたのだから、
会いたい、そばにいたいと泣いているかもしれない。

「もうあいさつ回りは終わったの?」

「もうほとんどは。あとは出席されていないかもしれません」

「そう。じゃあ、こっちに来てくれる?」

「はい?」

何があるのか、エルネスト様に奥へと案内される。
広間を出て、廊下を通り、別棟の建物に。

「ここは?」

「ここはうちの離れ。客室とかはこっちにあるんだ。
 母屋にあると夜会の時とか騒がしいからね」

「客室ですか?」

どうしてそんなところに連れていかれているのかわからず、
聞き返してしまう。
だけど、エルネスト様は笑って答えてくれない。

「ここだ。入ってくれ」

「誰かいるんですか?」

もしかして誰かに紹介しようとしているのかもと思ったが、
その部屋には侍女がひとり控えているだけで他にはいなかった。

「ここで待っていて」

「待つんですか?」

「ああ。今日はここに泊まるってジョイには言ってある。
 明日の服とかはあとでリリアナが届けに来るって言ってたよ。
 二人はカファロ家に帰したから」

「え?泊まる?」

「そんなに時間はかからないと思うから、ここで休んで待っていて」

「あの?エルネスト様?」

さっきからエルネスト様に質問してばかりだ。
どういうことなのか説明してもらおうと思ったのに、
エルネスト様は何も言わずにっこり笑って出て行った。

侍女と部屋に残され、仕方なくソファに座る。

「カファロ侯爵様、お化粧は直されますか?」

「そうね……お願いしていい?」

「かしこまりました」

侍女に言われ、化粧をしてから時間がたっていることを思い出す。
化粧を直してもらい、お茶を飲みながら待つ。

半刻ほどしてドアがノックされる。
侍女がドアを開けると、アルフレードが入ってくる。
侍女は礼をして部屋から出て行った。

「ディアナ!」

「やっぱりアルフレードだったのね」

エルネスト様のことだから、私に不都合なことはしないと思っていた。
こんな寝台もある客室に呼ぶとしたら、夫であるアルフレードしかいない。

「でも、夜会をぬけてきてよかったの?」
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