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2.カファロ侯爵領にて
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さっき座ったばかりなのに、また立ち上がって窓から外を見る。
……やっぱりまだ来ない。
「ディアナ様、そんなに焦らなくても大丈夫ですよ」
「ええ、ええ。待っていれば、そのうち到着しますって」
「だと思うけど、ちょっと遅くない?」
その日、待っていたのは婚約者になったばかりのエラルド・ブリアヌだった。
ちょうど一週間前に王都を出たと早馬の知らせが来ていた。
昨日の夜にはカファロ侯爵領の屋敷に到着する予定だったのに、まだ着かない。
何か途中で事故にでもあってなければいいけど……。
「王都の貴族は馬車で旅行なんてめったにしないですから。
きっと予定よりも休憩を多くとっていると思いますよ」
「そっか。それなら少しくらい遅れても仕方ないのかな」
「ええ、落ち着いて待ちましょう?」
「うん、わかった」
エラルドが着かないと心配している私を、
大丈夫だとなぐさめてくれているのは執務室で働いているジョイとルーイだ。
茶色の髪に水色の目の二人は双子で、うちの分家の子爵家の出身だ。
二年前に学園を卒業し、カファロ侯爵家の側近として働いている。
ジョイとルーイは顔立ちが整っていて、性格はとても穏やかだ。
口調も丁寧だし、礼儀作法もしっかりしている。
見た目はまるで王子様のような二人は、
卒業後にうちで働かないかとたくさんの貴族家から誘われたらしい。
それなのにディアナ様のもとで働きたいとカファロ領に帰ってきてくれた。
昔から私に勉強を教えてくれたり、馬の乗り方を教えてくれた、
一人娘の私にとってお兄様たちのような存在だ。
今は、お父様のカファロ侯爵の部下として働いているが、
将来的には私と結婚する婿の部下になる予定だ。
その婿になるのがエラルドだ。
彼には学園に通う十五歳になるまで、
このカファロ領地で領主になるための教育を受けてもらうことになる。
王都育ちのエラルドとお見合いしたのは二か月前のことだった。
この国では婚約できるのは十歳からと決められている。
あまりに幼い時に婚約すると、亡くなることもあるからだ。
ほとんどの者は学園に入ってから婚約相手を探すらしいが、婿にする場合は特別だ。
早いうちに婚約者を決め、婿入りする家で教育を行うことになる。
優秀な者を先に確保するという意味よりも、
婿をしっかり教育して使い物にしなくては領地がつぶれるからだ。
そのため、私も十歳になってすぐにお見合いすることが決まった。
王都には爵位をお父様に譲ったお祖父様とお祖母様が住んでいる。
馬車で一週間かけて王都に行き、
お祖父様の紹介で会ったのがブリアヌ侯爵家の三男エラルドだ。
今の宰相の息子さんらしい。
初めて会ったエラルドは薄茶色の髪に緑目で、
少しおどおどした自信がなさそうな令息だった。
十歳にしては背が高いが、うつむいているから高くは見えない。
最初は声が小さくて何を言っているのか聞き取りにくかったが、
何度も話しかけて、やっと普通に話してくれるようになった。
どうやら高位貴族は金髪か銀髪が多いのに、
自分の髪が薄茶色だということに不満があるようだ。
「ディアナ様は銀色の髪でうらやましいな」
そう言われて、あまり自分の色を気にしていなかった私は驚いた。
領地ではそんなことよりも馬をうまく扱うことのほうが褒められていた。
「エラルド様の緑色の目はとても綺麗だと思うわ」
そう言うと、エラルド様は初めてにっこり笑った。
嘘ではない。森のような緑で、綺麗だと思ったからだ。
ちゃんと前を向けば綺麗な顔立ちをしているのにもったいない、と思った。
「ディアナ様の目は……紺色に金が交じってる?とてもめずらしいね」
「そうかも?亡くなったお母様が同じ色だったわ。
母方のお祖母様も同じ色だって」
「ふうん。じゃあ、ディアナ様の娘も同じ色になるかもしれないね」
「そうね」
そんな風に話をしていたのを大人たちが見て、大丈夫だと判断したのだろう。
お見合いから帰る頃には婚約者になっていた。
忙しいお父様はそれどころではないので、
王都にいるお祖父様が決めてしまった。
一応は確認されたが、エラルドが嫌だという理由もなかったので、
お見合いなんてそんなものだろうと納得して領地に帰ってきた。
一度の見合いで決めて帰ってきたことを、
お父様だけでなく、使用人たちも驚いていたが、
私としては早く婚約者を決めて領地に帰って来たかった。
「王都育ちのお坊ちゃまが耐えられますかねぇ」
そんな事を言い出したのは、同じ執務室で働くロビンだ。
ロビンはお祖父様の代からここで働いている古参だ。
もう白髪になってしまった髪を後ろでぎゅっと結んでいる。
目が見えにくくなったせいで眼鏡をかけていて、
少し怖そうに見えるが私には優しいおじいちゃんだ。
ロビンは侯爵領の領主代理として長年働いてくれていた。
今はジョイとルーイの指導係として残っているが、
領地からあまり出ないせいか、王宮貴族を嫌っている気がする。
王宮貴族というのは、領地を持たない貴族のことだ。
主に王宮に勤めて爵位をもらっているので、王宮貴族と呼ばれる。
カファロ侯爵家は代々領地を守っている地方貴族と呼ばれるものだ。
そのため、一年の半分以上を領地で過ごす。
一度も王都から出たことがないものが多い王宮貴族とは考えが違っても仕方ない。
だからこそ、ロビンは心配しているのだろう。
王都で生まれ育ち、初めて王都から出るエラルドが大丈夫なのかと。
「ロビン、ダメだったらその時に考えるわ。
エラルドが領主になれるように、頑張って教育してくれる?」
「かしこまりました」
お祖父様が決めた婚約でもある。
反対する気はないのだろう。
ロビンはエラルドに教えるための本を用意し始める。
何を教える気なのかと見ていたら、ずいぶんと幼い子向けの教科書だった。
それは私が七歳の頃に読んだものじゃないかな。
十歳のエラルドには簡単すぎないだろうか。
「あ、馬車が着いたようですよ」
「本当!?」
……やっぱりまだ来ない。
「ディアナ様、そんなに焦らなくても大丈夫ですよ」
「ええ、ええ。待っていれば、そのうち到着しますって」
「だと思うけど、ちょっと遅くない?」
その日、待っていたのは婚約者になったばかりのエラルド・ブリアヌだった。
ちょうど一週間前に王都を出たと早馬の知らせが来ていた。
昨日の夜にはカファロ侯爵領の屋敷に到着する予定だったのに、まだ着かない。
何か途中で事故にでもあってなければいいけど……。
「王都の貴族は馬車で旅行なんてめったにしないですから。
きっと予定よりも休憩を多くとっていると思いますよ」
「そっか。それなら少しくらい遅れても仕方ないのかな」
「ええ、落ち着いて待ちましょう?」
「うん、わかった」
エラルドが着かないと心配している私を、
大丈夫だとなぐさめてくれているのは執務室で働いているジョイとルーイだ。
茶色の髪に水色の目の二人は双子で、うちの分家の子爵家の出身だ。
二年前に学園を卒業し、カファロ侯爵家の側近として働いている。
ジョイとルーイは顔立ちが整っていて、性格はとても穏やかだ。
口調も丁寧だし、礼儀作法もしっかりしている。
見た目はまるで王子様のような二人は、
卒業後にうちで働かないかとたくさんの貴族家から誘われたらしい。
それなのにディアナ様のもとで働きたいとカファロ領に帰ってきてくれた。
昔から私に勉強を教えてくれたり、馬の乗り方を教えてくれた、
一人娘の私にとってお兄様たちのような存在だ。
今は、お父様のカファロ侯爵の部下として働いているが、
将来的には私と結婚する婿の部下になる予定だ。
その婿になるのがエラルドだ。
彼には学園に通う十五歳になるまで、
このカファロ領地で領主になるための教育を受けてもらうことになる。
王都育ちのエラルドとお見合いしたのは二か月前のことだった。
この国では婚約できるのは十歳からと決められている。
あまりに幼い時に婚約すると、亡くなることもあるからだ。
ほとんどの者は学園に入ってから婚約相手を探すらしいが、婿にする場合は特別だ。
早いうちに婚約者を決め、婿入りする家で教育を行うことになる。
優秀な者を先に確保するという意味よりも、
婿をしっかり教育して使い物にしなくては領地がつぶれるからだ。
そのため、私も十歳になってすぐにお見合いすることが決まった。
王都には爵位をお父様に譲ったお祖父様とお祖母様が住んでいる。
馬車で一週間かけて王都に行き、
お祖父様の紹介で会ったのがブリアヌ侯爵家の三男エラルドだ。
今の宰相の息子さんらしい。
初めて会ったエラルドは薄茶色の髪に緑目で、
少しおどおどした自信がなさそうな令息だった。
十歳にしては背が高いが、うつむいているから高くは見えない。
最初は声が小さくて何を言っているのか聞き取りにくかったが、
何度も話しかけて、やっと普通に話してくれるようになった。
どうやら高位貴族は金髪か銀髪が多いのに、
自分の髪が薄茶色だということに不満があるようだ。
「ディアナ様は銀色の髪でうらやましいな」
そう言われて、あまり自分の色を気にしていなかった私は驚いた。
領地ではそんなことよりも馬をうまく扱うことのほうが褒められていた。
「エラルド様の緑色の目はとても綺麗だと思うわ」
そう言うと、エラルド様は初めてにっこり笑った。
嘘ではない。森のような緑で、綺麗だと思ったからだ。
ちゃんと前を向けば綺麗な顔立ちをしているのにもったいない、と思った。
「ディアナ様の目は……紺色に金が交じってる?とてもめずらしいね」
「そうかも?亡くなったお母様が同じ色だったわ。
母方のお祖母様も同じ色だって」
「ふうん。じゃあ、ディアナ様の娘も同じ色になるかもしれないね」
「そうね」
そんな風に話をしていたのを大人たちが見て、大丈夫だと判断したのだろう。
お見合いから帰る頃には婚約者になっていた。
忙しいお父様はそれどころではないので、
王都にいるお祖父様が決めてしまった。
一応は確認されたが、エラルドが嫌だという理由もなかったので、
お見合いなんてそんなものだろうと納得して領地に帰ってきた。
一度の見合いで決めて帰ってきたことを、
お父様だけでなく、使用人たちも驚いていたが、
私としては早く婚約者を決めて領地に帰って来たかった。
「王都育ちのお坊ちゃまが耐えられますかねぇ」
そんな事を言い出したのは、同じ執務室で働くロビンだ。
ロビンはお祖父様の代からここで働いている古参だ。
もう白髪になってしまった髪を後ろでぎゅっと結んでいる。
目が見えにくくなったせいで眼鏡をかけていて、
少し怖そうに見えるが私には優しいおじいちゃんだ。
ロビンは侯爵領の領主代理として長年働いてくれていた。
今はジョイとルーイの指導係として残っているが、
領地からあまり出ないせいか、王宮貴族を嫌っている気がする。
王宮貴族というのは、領地を持たない貴族のことだ。
主に王宮に勤めて爵位をもらっているので、王宮貴族と呼ばれる。
カファロ侯爵家は代々領地を守っている地方貴族と呼ばれるものだ。
そのため、一年の半分以上を領地で過ごす。
一度も王都から出たことがないものが多い王宮貴族とは考えが違っても仕方ない。
だからこそ、ロビンは心配しているのだろう。
王都で生まれ育ち、初めて王都から出るエラルドが大丈夫なのかと。
「ロビン、ダメだったらその時に考えるわ。
エラルドが領主になれるように、頑張って教育してくれる?」
「かしこまりました」
お祖父様が決めた婚約でもある。
反対する気はないのだろう。
ロビンはエラルドに教えるための本を用意し始める。
何を教える気なのかと見ていたら、ずいぶんと幼い子向けの教科書だった。
それは私が七歳の頃に読んだものじゃないかな。
十歳のエラルドには簡単すぎないだろうか。
「あ、馬車が着いたようですよ」
「本当!?」
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