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51.王女 対 王女

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「リディアーヌ様!!」

「アリアンヌ様、どうしてここに?」

「ジュリエット様に呼び出されたと聞いて……」

私よりも先に教室から出て行ったから、もうすでに寮に帰ったと思っていた。
もしかして引き返してきたのだろうか。少し息切れしている。

「アリアンヌ!いいところに来たわ!
 この女に私が王女だと証明しなさい!」

「ジュリエット様!リディアーヌ様になんてことをおっしゃるのですか!」

「なによ。何か文句でもあるの?公爵家のくせに」

「リディアーヌ様はエシェルの王女様です!
 私たちルモワーニュ国の貴族と同じだと思わないでください!」

「うるさいわね。そんなの知っているわよ。
 同じ王女でも私のほうが年上だもの!私のほうが上の立場じゃない!」

「そういうことではありません!!」

あまりの態度の悪さにアリアンヌ様が怒ってくれているけれど、
多分この王女には何を言ってもダメだと思うんだよね。
この国の立ち位置とか王女としての身分の違いとか、
わかっていなければ言っても無理だから。

「アリアンヌ様、もういいわ。
 それで、王女だというのなら信じてあげてもいいけど、
 何のために私を呼び出したの?」

「何をって、あぁそうだわ。
 ギルバードを私に貸し出しなさい」

「は?」

貸し出せ?ギルバードを?
ふざけていると思いたいが、王女は真面目に言っているようだ。
あまりのことにアリアンヌ様は口を開け閉めしている。
どこから注意していいのか、わからないのだろう。

「だって、ギルバードと契約してしまったんでしょう?
 お父様が契約したままでは王宮に連れてくることはできないって言うから。
 じゃあ、あなたが私に貸し出してくれればいいと思って。
 契約はそのままでいいから、ギルバードを返してちょうだい」

「嫌よ」

「どうしてよ!
 ギルバードは私のものなのよ。
 私の許可なく勝手に契約したのが悪いんじゃない!!」

「お断りよ。あなたのものじゃないもの。
 返す理由もなければ、貸す理由もないわ」

本当にギルバードは私のものって言ってる。
求婚を断られ、夜会のダンスすら断られているのに。

呆れていたら、本気で怒らせてしまったようだ。
化粧のせいで顔は白いのに、首から下が真っ赤になっている。

「もう!さっきからなんなのよ!生意気だわ!」

テーブルに置かれていた茶器を手にしたと思ったら、私へと中身をかけようとした。

「リディアーヌ様!」

お茶をかけられそうになって、クラーラが叫ぶ。
私の前に出ようとしているけれど、間に合わなさそう。
熱くは無いだろうと判断して避けなかったら、急に目の前が暗くなる。

「え?」

「大丈夫か?」

暗くなったのは、ギルバードに抱きしめられていたからだった。
私を守るように、おおいかぶさるように抱きしめてくれている。

「ギルバード!やっと会えたわ!」

「え?どうしてここに?」

「間に合って良かった……怪我はしていないな?」

「ええ、でも背中にお茶がかかってしまったんじゃ……」

「これくらいは平気だ。熱くもなかったしな」

「ギルバード!?どうして私に返事しないの!」

「ごめんなさい、私のせいで」

「いいんだよ、守るって言っただろう」

「ちょっと!いいかげんにしなさいよ!」

王女の呼びかけには一切答えず私にだけ返事をするギルバードに、
我慢できなかったのか王女は叫び出した。
さすがに無視できなかったのか、ギルバードが顔だけ王女に向ける。

「ギルバード、その女から離れて!私と一緒に王宮に帰るのよ!」

「……うるさいな」

「ギルバード!?」

「どうして俺が王宮に行かなきゃいけないんだ」

「だって、ギルバードは私のものでしょう」

「違う……俺はリディアーヌのものだ」

まぁ、私の護衛だから、私のものと言えば言えるかな。
でも、王女が言ってる私のものって多分意味が違うよね。
あえてそう思われるように言ったのであれば……

「そうね。ギルバードは私のものだわ」

ギルバードがリディアーヌと呼んだのに応えて、私もギルバードと呼び捨てにした。
先生と学生という間ではなく、恋人だと思われるように。

「嘘よ!」

「本当だ。見てわからないのか?」

見て。……あ。抱きしめられたままだった。
離れようとしても、がっちり抱きしめられている状態では動けない。
もしかして、ギルバードはわざと離さないでいる?見せつけるために?

「いやよ!ギルバードは私の夫にするんだから!」

「断る。王女と結婚することはありえない」

「どうしてよ!その女はセザールと結婚するんでしょう!?」

「それも無い」

私が答えるよりも早く、ギルバードが代わりに答えてくれた。
はっきり断るつもりだったけれど、ギルバードが言ってくれたからいいか。

「……どういうことなの?」

混乱しているのか王女は、ふらりと倒れそうになる。
近くにいた侍女が王女を横からささえ、ソファに座らせようとした。
この隙に、もう帰ってしまおうとギルバードにささやく。

「そうだな。帰ろうか、リディアーヌ」

「ええ」

「待って!」

引き留める声は聞こえたけれど、ギルバードに縦抱きにされたまま学園長室から外に出る。
クラーラも私たちのあとをついて外に出てきた。
その顔がうれしそうににやけている。ここから帰れるのがうれしいのかな。

「助けに来てくれたんですか?」

「ああ。馬車が急いで戻って来たからどうしたのかと思ったら、
 王女に呼び出されたって言うから」

「トマスが来ると思ってました」

「トマスじゃなくて悪かったな。でも、俺が先に来てしまったから」

「あ、トマスが良かったとかじゃなくて。
 助けてくれてありがとうございます」

トマスが来ると思っていただけで他意はなかった。
なのに、ギルバードがしょんぼりしてしまったから、慌ててお礼を言う。

「何があっても守るって約束しただろう」

「ふふ。そうでしたね。ありがとうございます」

少し照れたように笑うギルバードがうれしくて、私も笑ってしまう。
抱き上げられたまま馬車まで行くとトマスが待っていた。

「トマス!」

「あぁ、大丈夫でしたか。話は奥棟に戻ってから聞きましょう」

「そうね。追いかけてくるかもしれないわ」

ここまでついてきてくれたクラーラにもお礼を言って別れると、馬車に乗って奥棟へと戻る。
学園内には侵入できても、奥棟に侵入させることはない。
無理やり入ってこようとしたら、捕縛して王宮へと連れて行くだけだ。
さすがに王女を捕縛するような恥ずかしいことにはならないと思いたいけれど。
あれだけ何もわかっていない王女だと奥棟に来ようとするかもしれない……。


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