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37.後悔
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「命令よ!ここを開けなさい!」
「こればかりは何を言われても開けません。
開けてどうする気なのですか」
怒りを押し殺すようなカミルの声に動揺するけれど、
でもここでじっと隠れているなんて嫌だ。
「私も一緒に戦うわ!」
「やめてください」
「どうして!?私だって全属性あるのよ!?戦力になれるわ!」
「そんなことはどうでもいいんです」
「え?」
「あなたは護衛対象です。守られる側なのを理解してください」
少しも譲歩する気のない答えだった。
カミルは結界を解除する気はないんだ。
だけど、どうして。
「……お願いよ、カミル。ギルバードが戦ってる。トマスも。
私だけここで守られているなんて嫌なの。
みんなを助けたいのよ」
「……」
「私なら大丈夫。こんな時のために強くなったんだもの。
だから、ここを」
「やめてください!!」
何とかしてカミルを説得しようとしていたら、途中でさえぎられた。
聞いたこともない大きな声は泣きそうで……
「お願いですから、理解してください。
あなただけは戦わせることはできないんです。
今、馬車の外で戦っている者たちも、マールさんも私も、
リディアーヌ様を守るためにいるんです。
そんなあなたを危ない目にあわせると思うんですか?」
「……だって。
私も一緒に戦えば助かるでしょう?
だって、私は戦えるのだもの。戦力になるでしょう?」
普段ならともかく、こんな状況では私だって戦ったほうがいい。
誰も傷ついてほしくないし、無事に帰りたい。
私には一緒に戦える力があるのだから。
ちゃんと説明すればわかってくれると思った。
カミルはギルバードが大事だから、また一緒に戦ってくれると。
沈黙の後、聞こえてきたのはため息だった。
あきらめて私の意見を聞いてくれたのだと思ったけれど、それは違った。
「私は……大きな間違いをしてしまったことがあります。
護衛対象を戦力にしてしまい、結果、大事な人を死なせてしまった……」
「……え?」
「一緒に戦えばなんとかなると、そう信じていたのです。
気がついた時にはもう遅かった。
私が戦うことを許してしまったから、あんなことに」
苦しそうに吐き出すような声のカミルは泣いているように感じた。
言わせてはいけないことを言わせてしまったのだとわかって、
立ち上がろうとするのをやめて力なく座り込む。
「もう、あんな思いをするのは嫌なんです。
今度こそは守り抜こうと思っているんです。
だから、お願いですから、ここにいてください」
「どうして…」
死なせてしまったというのは、もしかして。
「逆にリディアーヌ様に聞きますが、どうして素直に守らせてくれないのですか。
もし、一緒に戦ったとして、あなたが傷ついてしまったら、
トマス医師やマールさんがどれだけ後悔することになるか、わかっているんですか!」
「え?」
「もし、あなたが死んでしまったら……。
二人が後を追うことになると、どうしてわからないんですか……」
私が命がけで助けたとしても、トマスとマールは死ぬかもしれないというの?
そんなことしたら、私が死んだ意味がなくなるのに?
「後を追ったって、そんなことしても」
「ええ、無駄なことだと思うでしょう。
自分の命をささげたとしても、大事な人は戻ってこない。
だけど、後を追えるのなら、そのほうが幸せかもしれない」
「…どう……して」
「私はそれを許してもらえなかった。ギルバード様も」
「そんな…」
あの時、二人を助けたのは間違いだった?
ギルバードとカミルが生き残って、お母様と弟の命も助かった。
私のしたことは間違っていなかったと思っていたのに。
「この十年、ギルバード様は苦しむために生きてきました。
私がお二人を止めなかったから、こんなことに……。
だから、何を言われてもリディアーヌ様を外に出すことはできません」
「……カミル」
「…お願いです。おとなしく守られていてください……」
「……」
悔しくて悲しくて、何も言い返せないのが苦しくて。
ギルバードとトマスを、マールを助けに行きたいのに、
カミルの後悔を聞いて何も言えない。
……どれだけ時間がたったのだろう。
私とカミルは一言も話さず、時間だけが過ぎていく。
もう一度馬車が揺れたと思ったら、ぶわりと魔力が動いたのを感じた。
「…もう、大丈夫です。今の魔力はギルバード様です」
カミルが言うのと同時に、背もたれが倒され明るくなった。
少し服が切れてボロボロになったギルバードが心配そうに私を見ていた。
「泣いているのか?」
「……ぎる」
呼びかけは、もう声にならなかった。
手を伸ばしたら、私を抱き上げ、きつく抱きしめてくれる。
ギルバードに抱き着いて、胸にひたいをこすりつける。
「…怖かったのか。カミル、リディアーヌ嬢に怪我はないな?」
「大丈夫です、敵は侵入していませんから」
「そうか。もう大丈夫だ、大丈夫だから」
なぐさめるように髪や背中をなでてくれるけれど、
もう何に泣いているのかわからなくなっていた。
襲撃があったのに戦えなかった。守られるだけだった。
こんな時のために強くなろうと思っていたのに、結局守られるだけだった。
なんのために強くなったのかわからない。役に立つことができなかった。
あの時、私がしたことは間違いだった。
カミルが、あんなにも悲しんでいるのに、何もできない。
どうしたらよかったの。
泣いても泣いても、答えは見つからない。
ギルバードが膝の上に抱き上げ、泣く私を守るように包み込む。
ぐちゃぐちゃになってしまった気持ちをそのまま包むような腕の中で、
いつの間にか泣きつかれて眠りに落ちて行った。
「こればかりは何を言われても開けません。
開けてどうする気なのですか」
怒りを押し殺すようなカミルの声に動揺するけれど、
でもここでじっと隠れているなんて嫌だ。
「私も一緒に戦うわ!」
「やめてください」
「どうして!?私だって全属性あるのよ!?戦力になれるわ!」
「そんなことはどうでもいいんです」
「え?」
「あなたは護衛対象です。守られる側なのを理解してください」
少しも譲歩する気のない答えだった。
カミルは結界を解除する気はないんだ。
だけど、どうして。
「……お願いよ、カミル。ギルバードが戦ってる。トマスも。
私だけここで守られているなんて嫌なの。
みんなを助けたいのよ」
「……」
「私なら大丈夫。こんな時のために強くなったんだもの。
だから、ここを」
「やめてください!!」
何とかしてカミルを説得しようとしていたら、途中でさえぎられた。
聞いたこともない大きな声は泣きそうで……
「お願いですから、理解してください。
あなただけは戦わせることはできないんです。
今、馬車の外で戦っている者たちも、マールさんも私も、
リディアーヌ様を守るためにいるんです。
そんなあなたを危ない目にあわせると思うんですか?」
「……だって。
私も一緒に戦えば助かるでしょう?
だって、私は戦えるのだもの。戦力になるでしょう?」
普段ならともかく、こんな状況では私だって戦ったほうがいい。
誰も傷ついてほしくないし、無事に帰りたい。
私には一緒に戦える力があるのだから。
ちゃんと説明すればわかってくれると思った。
カミルはギルバードが大事だから、また一緒に戦ってくれると。
沈黙の後、聞こえてきたのはため息だった。
あきらめて私の意見を聞いてくれたのだと思ったけれど、それは違った。
「私は……大きな間違いをしてしまったことがあります。
護衛対象を戦力にしてしまい、結果、大事な人を死なせてしまった……」
「……え?」
「一緒に戦えばなんとかなると、そう信じていたのです。
気がついた時にはもう遅かった。
私が戦うことを許してしまったから、あんなことに」
苦しそうに吐き出すような声のカミルは泣いているように感じた。
言わせてはいけないことを言わせてしまったのだとわかって、
立ち上がろうとするのをやめて力なく座り込む。
「もう、あんな思いをするのは嫌なんです。
今度こそは守り抜こうと思っているんです。
だから、お願いですから、ここにいてください」
「どうして…」
死なせてしまったというのは、もしかして。
「逆にリディアーヌ様に聞きますが、どうして素直に守らせてくれないのですか。
もし、一緒に戦ったとして、あなたが傷ついてしまったら、
トマス医師やマールさんがどれだけ後悔することになるか、わかっているんですか!」
「え?」
「もし、あなたが死んでしまったら……。
二人が後を追うことになると、どうしてわからないんですか……」
私が命がけで助けたとしても、トマスとマールは死ぬかもしれないというの?
そんなことしたら、私が死んだ意味がなくなるのに?
「後を追ったって、そんなことしても」
「ええ、無駄なことだと思うでしょう。
自分の命をささげたとしても、大事な人は戻ってこない。
だけど、後を追えるのなら、そのほうが幸せかもしれない」
「…どう……して」
「私はそれを許してもらえなかった。ギルバード様も」
「そんな…」
あの時、二人を助けたのは間違いだった?
ギルバードとカミルが生き残って、お母様と弟の命も助かった。
私のしたことは間違っていなかったと思っていたのに。
「この十年、ギルバード様は苦しむために生きてきました。
私がお二人を止めなかったから、こんなことに……。
だから、何を言われてもリディアーヌ様を外に出すことはできません」
「……カミル」
「…お願いです。おとなしく守られていてください……」
「……」
悔しくて悲しくて、何も言い返せないのが苦しくて。
ギルバードとトマスを、マールを助けに行きたいのに、
カミルの後悔を聞いて何も言えない。
……どれだけ時間がたったのだろう。
私とカミルは一言も話さず、時間だけが過ぎていく。
もう一度馬車が揺れたと思ったら、ぶわりと魔力が動いたのを感じた。
「…もう、大丈夫です。今の魔力はギルバード様です」
カミルが言うのと同時に、背もたれが倒され明るくなった。
少し服が切れてボロボロになったギルバードが心配そうに私を見ていた。
「泣いているのか?」
「……ぎる」
呼びかけは、もう声にならなかった。
手を伸ばしたら、私を抱き上げ、きつく抱きしめてくれる。
ギルバードに抱き着いて、胸にひたいをこすりつける。
「…怖かったのか。カミル、リディアーヌ嬢に怪我はないな?」
「大丈夫です、敵は侵入していませんから」
「そうか。もう大丈夫だ、大丈夫だから」
なぐさめるように髪や背中をなでてくれるけれど、
もう何に泣いているのかわからなくなっていた。
襲撃があったのに戦えなかった。守られるだけだった。
こんな時のために強くなろうと思っていたのに、結局守られるだけだった。
なんのために強くなったのかわからない。役に立つことができなかった。
あの時、私がしたことは間違いだった。
カミルが、あんなにも悲しんでいるのに、何もできない。
どうしたらよかったの。
泣いても泣いても、答えは見つからない。
ギルバードが膝の上に抱き上げ、泣く私を守るように包み込む。
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