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54.犯人は

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「ねぇ、あなたたちに…仕事を頼んだのは誰?」

ようやくゆっくりとだけど話せるようになった。
だけど、聞いても男たちは誰も答えてくれなかった。

「さて、ゆっくりしている暇はないんだ。
 せっかくの上物だというのに、ゆっくり味わえないのが残念だ。
 お嬢さんの後はそこの女もやらなきゃいけないんでね。急がなきゃならん。」

「ミーナを犯人にするって、どうやって?
 平民のミーナがこんなこと仕組めるわけないわ。
 すぐにバレてしまうんじゃないの?」

ミーナにまで危害を加えて、どうやって犯人にできるというのだろうか。
人質をとって脅すという方法も、ミーナはお母様を亡くしていると聞いた。
まっすぐなミーナに言うことを聞かせるのは難しいと思う。
少しこの計画は無理がありすぎるんじゃなだろうか。

「ふぅん。面白い心配をするんだな。
 お嬢さんはこれからひどい目に遭うというのに。
 まぁ、これくらいは教えてやるよ。
 この女が俺たちと契約した書類がある。
 ミーナが金を払って、気に入らない女を殺して欲しいという依頼だ。」

「私、そんな契約していない!」

「偽造したに決まってんだろ。お前はうるさいから黙っておけよ。
 お嬢さんが殺された後、この契約書も一緒に発見される。
 仕事を終えて金をもらおうと思ったら、ミーナは払う金を持っていなかった。
 契約した金がもらえず怒った俺たちは腹いせにミーナも犯してボロボロにする。
 そういう筋書きだ。
 お嬢さんの遺体と、口がきけなくなったミーナが見つかれば、
 後はこの契約書を見て判断してくれるだろう?」

偽造した契約書がどれだけ本物に見えるのかはわからないけれど、
あれだけ問題行動を起こしていたミーナなら、そう判断されてしまうかもしれない。
口がきけないほど重体で見つかったら、回復する前に処刑されてしまう恐れもある。
…たしかに、この方法ならミーナを犯人にできるかもしれない。

「どうせ殺されるんだったら、本当の犯人くらい教えてほしいわ。
 そのくらいいいでしょ?」

「…まぁ、いいか。名前は知らないが、貴族令嬢だな。
 赤い髪と少し薄い赤の目をしていた。」

「赤い髪と薄い赤の目…エリーヌ様?」

力なく座り込んでいるミーナを見て、
エリーヌ様かと聞いたら、悔しそうに唇を噛みながらうなずいた。

「そう……エリーヌ様が。」

嫌われているのはわかっていたけれど、殺したいほど憎まれているとは。
初対面から敵意しか感じられなかったから、何が理由なのかわからない。

「悪いが、もう時間が無い。恨むなら、その貴族令嬢を恨んでくれよ。」

その言葉が合図だったのか、両側から男たちの手が伸びてきた。
次の瞬間、私の周りを水の壁がくるりと囲む。

「な!?どういうことだ!?」

「おい、なんだ、これ!」

私に危険が迫ったと判断したのか、お義兄様の魔術が発動する。
円柱型の水の結界の中に守られ、誰も手を出すことはできない。
何かあってもお義兄様の結界が発動するとわかっていたから、
怖くても情報を聞き出すことができた。

あのまま何もできずに私が本当に殺されていたら、
この男たちの企みのまま、エリーヌ様は捕まらずミーナが処刑されていただろう。

「この水の結界はあなたたちには壊せないわ。」

「なんだと!?水の結界だと!?
 お嬢さんはそんなものは使えないと聞いていたぞ!」

「…それもエリーヌ様からの情報ね。
 残念だけど、私に手を出すことはできないわよ。」

お義兄様の結界を壊せる人はお義父様かセドリック様くらいなものだろう。
先ほどから男たちが結界を蹴っているけれど、びくともしない。

「…お嬢さんが出てこないと、こいつを先に犯すぞ?」

「え?」

「お嬢さんが結界から出てくるのなら、
 こいつは犯さないで痛めつけるだけにしてやろう。」

「何を言っているの!?」

「こいつは騙されただけなんだぜ。
 お嬢さんを恨む貴族令嬢のせいで、平民なのに巻き込まれた可哀そうな女だ。
 助けてやりたいって思わないのか?」

「あんたたち、シルフィーネ様に何を言っているの!?」

「お前も助かりたいなら、必死でお願いしろよ。
 お嬢様、私を助けてくださいってな。」

「そんなこと言わないわ!」

「うるせえな、しろって言ってんだろ!?」

「…っ!!」

逆らったミーナに腹を立てた男が、ミーナを蹴りつけた。
倒れたミーナを何度も蹴り、その度に細いミーナの身体がきしむように見える。

「やめて!何をするの!?」

「この女を助けたかったら結界を消せよ。そうしたらやめてやるよ。」

「そんな!」

この結界はお義兄様の魔術だから、私には消すことができない。
お義兄様が解除するまでこのままだと聞いている。
どうしよう。お義兄様でなければ解除できないと伝えていいものか迷う。

きっと、お義兄様は結界が発動したことに気がついて、ここに向かってきている。
お義兄様しか結界が解除できないことを知ったら、
ここに向かってきていることも知られてしまうかもしれない。

「ほら、早く出て来いよ。
 いいのか?この女、死んじまうぞ?」

「やめて!」
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