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47.謝罪
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ミーナに会う日は十日後に決まった。
個人授業の期間はまだ終わっていないが、
ここで問題があれば学園には戻さずに退学させるという。
約束の時間の少し前、学園の応接室に入ると、
あの時エリーヌ様に頬を叩かれたのを思い出して、少しだけ嫌な気分になる。
「…大丈夫か、フィーネ。顔色が悪い。」
「う、うん。ちょっとだけ、エリーヌ様のことを思い出しちゃって。」
「そうか。この場所だからな…他にいい場所があれば良かったのに。」
他の学生たちに知られないようにミーナと会うため、
ちょうどいい場所がここしかなかったらしい。
前回は下座のソファに座ったが、今回は上座のソファに座る。
しばらくお茶を飲んで待っていると、立ち合いの教師が二人とミーナが入ってくる。
ミーナは少しやせたようだが、それよりも目に力が感じられないのが気になった。
あんなに私をにらみつけてきたのが嘘みたいにぼんやりしている。
口を開かないようにと言われているのか、一言も話さない。
ミーナを連れてきた教師のうち、高齢の男性教師が前に立って挨拶をしてきた。
「バラデール公爵令嬢、本日は時間をいただき申し訳ありません。
一学年平民教室担当の教師、エルマーです。
ミーナを教室に戻す前に、どうしても謝罪したいと申すものですから…。」
「ええ、話は聞きました。本当に私に謝罪を?」
「はい。ミーナ、自分で話せるか?」
エルマー先生に促されるように背中を押され、
半歩前にでたミーナはおずおずと顔をあげた。
相変わらず大人びた綺麗な顔立ちだが、表情は暗い。
「あの…私が言ったことが原因であなたが怪我をしたと聞いて…。
本当にごめんなさい。そんなつもりで言ったんじゃなかったの。」
「髪飾りを奪われたと話したのは本当?」
「そう。あの時、あれは私のものだったのに奪われたと言ってしまったの。
お兄様の妹は私で、妹として大事にされるのは私のはずだと思っていて。
だから、あなたがお兄様から髪飾りを贈られたのを知って、
本当は贈られるのは私のはずだったのにと思って…
妹も公爵家の娘も髪飾りも全部奪われたと言ってしまったのよ。」
「まぁ……」
それはミーナから見た世界はそうなのかもしれない。
本当に公爵家の愛人の娘だと信じていたなら、
今の私はミーナからすべてを奪ったように思えるのかもしれない。
「私、あなたが邪魔しているとは思ったけれど、怪我をさせたいとか、
そういうことは思ってなかった。
だから、私のせいでそうなったって聞いて…謝らなきゃと思って…。」
しょんぼりと謝るミーナに、もっと早くちゃんと説明してあげたらよかったと思う。
別に悪い子じゃないんだと思う。素直すぎて思い込みが激しいだけで。
私やお義兄様じゃなく、公的な第三者か先生にでも間に入ってもらえば良かった。
「…もう知っているのかしら。ミーナは公爵家の愛人の娘じゃないって。」
「…認めてもらえないんでしょ?」
あぁ、聞かされたけど信じていないのか。
こればかりはミーナ自身が信じようとしなければ無理な話だ。
「あのね、ミーナは誤解していたようだけど、
私がミーナを認めたら公爵家の一員になれるというわけじゃないの。」
「え?」
「私はただの養女。公爵家の血筋かどうか認めるのはお義父様とお義母様。
そして、王家と他の公爵家に認めてもらわなければ無理なのよ。
だから、ミーナのことは私には何も関係ないの。」
「…そんな…本当に?」
それでも私の話は信じられないのか、先生たちやウィルの顔を見て確認している。
三人に頷かれ、ようやく本当だとわかったようで力なくつぶやいた。
「…どうして私のことを認めてくれないんだろう……」
認めてくれないのは真実ではないからだということに気がつくのはいつだろう。
このまま本当なら自分は公爵家の娘だったのにと思い続けるのは危険だ。
先生を見ると、無言でうなずかれた。
きっと、今後も先生が違うと言い続けることになるんだ。
卒業までに気がついてくれればいいけれど…。
先生に退室するように言われ、ミーナはぺこりと頭をさげて出て行った。
どう考えてもミーナの性格では貴族になれないと思う。
もし、この状況でミーナが引き取られたとしたら…
きっと公爵令嬢らしくなるまで外に出してもらえない。
一生屋敷に閉じ込められることもあると…わかってはいないだろうな。
「フィーネ、帰ろうか。馬車でジルバード様が待っている。」
「ええ、帰りましょう。」
とにかく、これで謝罪は受けて、今後は関わらないと約束させた。
入学してから随分と悩まされたけれど、おかげでいろんな感情を知った。
お義兄様の隣を奪われたくないとあらためて実感した。
それが無かったら、婚約者になんてなれなかったかもしれない。
恐れ多いとしり込みしてしまったと思う。
今なら、どんなことをしてでもお義兄様の隣にいたいと思える。
そのことだけは感謝してもいいかもしれない。
個人授業の期間はまだ終わっていないが、
ここで問題があれば学園には戻さずに退学させるという。
約束の時間の少し前、学園の応接室に入ると、
あの時エリーヌ様に頬を叩かれたのを思い出して、少しだけ嫌な気分になる。
「…大丈夫か、フィーネ。顔色が悪い。」
「う、うん。ちょっとだけ、エリーヌ様のことを思い出しちゃって。」
「そうか。この場所だからな…他にいい場所があれば良かったのに。」
他の学生たちに知られないようにミーナと会うため、
ちょうどいい場所がここしかなかったらしい。
前回は下座のソファに座ったが、今回は上座のソファに座る。
しばらくお茶を飲んで待っていると、立ち合いの教師が二人とミーナが入ってくる。
ミーナは少しやせたようだが、それよりも目に力が感じられないのが気になった。
あんなに私をにらみつけてきたのが嘘みたいにぼんやりしている。
口を開かないようにと言われているのか、一言も話さない。
ミーナを連れてきた教師のうち、高齢の男性教師が前に立って挨拶をしてきた。
「バラデール公爵令嬢、本日は時間をいただき申し訳ありません。
一学年平民教室担当の教師、エルマーです。
ミーナを教室に戻す前に、どうしても謝罪したいと申すものですから…。」
「ええ、話は聞きました。本当に私に謝罪を?」
「はい。ミーナ、自分で話せるか?」
エルマー先生に促されるように背中を押され、
半歩前にでたミーナはおずおずと顔をあげた。
相変わらず大人びた綺麗な顔立ちだが、表情は暗い。
「あの…私が言ったことが原因であなたが怪我をしたと聞いて…。
本当にごめんなさい。そんなつもりで言ったんじゃなかったの。」
「髪飾りを奪われたと話したのは本当?」
「そう。あの時、あれは私のものだったのに奪われたと言ってしまったの。
お兄様の妹は私で、妹として大事にされるのは私のはずだと思っていて。
だから、あなたがお兄様から髪飾りを贈られたのを知って、
本当は贈られるのは私のはずだったのにと思って…
妹も公爵家の娘も髪飾りも全部奪われたと言ってしまったのよ。」
「まぁ……」
それはミーナから見た世界はそうなのかもしれない。
本当に公爵家の愛人の娘だと信じていたなら、
今の私はミーナからすべてを奪ったように思えるのかもしれない。
「私、あなたが邪魔しているとは思ったけれど、怪我をさせたいとか、
そういうことは思ってなかった。
だから、私のせいでそうなったって聞いて…謝らなきゃと思って…。」
しょんぼりと謝るミーナに、もっと早くちゃんと説明してあげたらよかったと思う。
別に悪い子じゃないんだと思う。素直すぎて思い込みが激しいだけで。
私やお義兄様じゃなく、公的な第三者か先生にでも間に入ってもらえば良かった。
「…もう知っているのかしら。ミーナは公爵家の愛人の娘じゃないって。」
「…認めてもらえないんでしょ?」
あぁ、聞かされたけど信じていないのか。
こればかりはミーナ自身が信じようとしなければ無理な話だ。
「あのね、ミーナは誤解していたようだけど、
私がミーナを認めたら公爵家の一員になれるというわけじゃないの。」
「え?」
「私はただの養女。公爵家の血筋かどうか認めるのはお義父様とお義母様。
そして、王家と他の公爵家に認めてもらわなければ無理なのよ。
だから、ミーナのことは私には何も関係ないの。」
「…そんな…本当に?」
それでも私の話は信じられないのか、先生たちやウィルの顔を見て確認している。
三人に頷かれ、ようやく本当だとわかったようで力なくつぶやいた。
「…どうして私のことを認めてくれないんだろう……」
認めてくれないのは真実ではないからだということに気がつくのはいつだろう。
このまま本当なら自分は公爵家の娘だったのにと思い続けるのは危険だ。
先生を見ると、無言でうなずかれた。
きっと、今後も先生が違うと言い続けることになるんだ。
卒業までに気がついてくれればいいけれど…。
先生に退室するように言われ、ミーナはぺこりと頭をさげて出て行った。
どう考えてもミーナの性格では貴族になれないと思う。
もし、この状況でミーナが引き取られたとしたら…
きっと公爵令嬢らしくなるまで外に出してもらえない。
一生屋敷に閉じ込められることもあると…わかってはいないだろうな。
「フィーネ、帰ろうか。馬車でジルバード様が待っている。」
「ええ、帰りましょう。」
とにかく、これで謝罪は受けて、今後は関わらないと約束させた。
入学してから随分と悩まされたけれど、おかげでいろんな感情を知った。
お義兄様の隣を奪われたくないとあらためて実感した。
それが無かったら、婚約者になんてなれなかったかもしれない。
恐れ多いとしり込みしてしまったと思う。
今なら、どんなことをしてでもお義兄様の隣にいたいと思える。
そのことだけは感謝してもいいかもしれない。
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