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42.話し合い

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王宮で事件のことについての話し合いがされたのは十日後のことだった。
その四日ほど前に連絡があり、私とお義兄様で王宮へ向かうことになった。
事件を引き起こしたのが王女だったことから、
バラデール公爵家の当主としてお義母様も呼ばれていたが、
お義母様はお義兄様に一任することにしたようだ。

あの日、王宮から帰るとお義父様とお義母様に出迎えられた。
王宮で魔力切れを起こして倒れたとの連絡に、何があったのか心配してくれていた。
回復するまで休ませているとわかっていても、
そのまま王宮に泊まるほどだとは思っていなかったらしい。

帰って来た私たちに事件のことを説明されると、
お義父様もお義母様も今まで見たことも無いほど怒っていた。
その後、怖い顔したままのお義母様にお義兄様は連れて行かれ、
しばらく帰ってこなかった。

お義父様ではなく、お義母様とお義兄様が執務室で長い間話し合っていたから、
公爵家というよりかは、水の一族当主としての話し合いだったのかもしれない。
王女も水の属性を持っているが、王族はどこの一族にも属していない。
だから、水の一族に責任があるわけではないと思うけれど…。


指定された日、なぜか侍女たちに気合を入れて着替えさせられ、
スカートが広がらずすっきりとした形の水色のドレスを身につける。
生地が少し厚くしっかりとしたもので、少し古風な感じもする。

準備ができた頃、部屋まで迎えに来たお義兄様が、
少し重みのあるネックレスをつけてくれる。
夜会に行くわけでもないのに装飾品をつけるのはどうしてだろう?

「このネックレスは?」

「…これはカロリーナお祖母様からだよ。
 お祖母様が降嫁する時に王家から贈られたものだそうだ。
 公爵夫人となるシルフィーネが身につけなさいと。」

「まぁ、本当ですか?
 …そのような大事なものを私が身につけていいのでしょうか?」

「大丈夫だ。何よりも、お祖母様がそれを望んでいる。
 婚約した報告をとても喜んでくれていたよ。もちろんお祖父様も。」

「…認めてもらえたということでしょうか。うれしいです。」

何度か養女としてお会いしているが、
お義兄様の婚約者として受け入れてもらえるのか心配していた。
華美ではないけれど、重厚さを感じるネックレスは群青の宝石。
お義兄様の目の色よりももっと深い青。
この宝石は水の公爵家しか身につけられないものだという。

「さぁ、武器も身につけたことだし、王宮に向かおう。」

「…武器?」

「お祖母様がいうには、それは武器であり防具でもあるそうだ。
 まぁ、行ってみたらわかるよ。」

「?」

行ってみたらわかるというのは、王宮に着けばということなのか。
いつもどおりお義兄様に抱き上げられるようにして馬車に乗り、王宮へと向かう。

案内されて向かった謁見室には、陛下とセドリック様だけでなく、
アンジェリカ様とミシェル様、ベルトラン様とリヒャルト様も来ていた。

あの場にいなかった三人も来ているとは思わなかったが、
同じお茶会に出席していたことから呼ばれたのかもしれない。


「さて、全員揃ったな。では、父上。
 第一王女ビビアナの処罰について話し合いを始めましょう。」

「…なぁ。処罰って可哀そうだろう?まだ九歳なんだぞ?」

「まだそんなことを言うのですか…」

はぁぁとため息をついたセドリック様の目にはくまができている。
疲れているように見えるのは、この件を調べていたからなのか、
処罰を止めようとする陛下の相手が大変だったからなのか。

「これから事件の説明をもう一度します。
 たとえ九歳の王女とはいえ、許されないのはわかるはずです。」

セドリック様付きの文官が事件を説明していく。
私がフレデリク様の婚約者候補をはずれて、
お義兄様の婚約者になったことを知ったビビアナ様が、
女官たちの前で「あの女邪魔だからなんとかして。殺してもいいから。」と言った。

それを聞いた女官たちが、
ビビアナ様の命令だとわからないように私を殺害しようとした。
炎馬を使ったのは、炎馬が後宮にいたから。

王妃様が存命だった頃に献上された生き物の中に炎馬がいたが、
献上されても使い道がなく、後宮のすみで飼われていたらしい。
飼うといっても炎馬は人に懐かないため、ほとんど世話もできなかった。
近寄ることすらできず、檻に餌を放り投げるように入れて生かしていたという。

ただ何度か近くに蜂が巣を作った時に、蜂の巣に向かって火を吐くことがあった。
炎馬の好物が蜂蜜だから、近寄らせることはないようにと注意されていた。
女官の一人がそれを覚えていて、利用しようと思いついた。
これならば疑われたとしても確実な証拠がなく、
女官たちが捕まってもビビアナ様までは処罰されないだろうと。

そうして女官の一人を脅し、ただの嫌がらせだと説明した上で蜂蜜をこぼさせた。
炎馬の檻を後宮の通路近くに移動させ、私が近づいたら檻から炎馬を出す。
炎馬は蜂蜜の匂いには敏感で、すぐに走っていった。

ただ、ここで女官たちの計画はうまくいかなくなる。
ビビアナ様が私が死ぬところが見たいと、後宮から出てきてしまったのだ。
近くにいたことがわかれば、ビビアナ様の指示だとわかってしまう。
そう言って説得しようとしたが、ビビアナ様は聞くことなく近づいてしまう。

結果、私ではなく、アンジェリカ様が怪我をして、
ビビアナ様はお義兄様の前に出てきてしまった。
ビビアナ様と女官たちが一人ずつ貴族牢に入れられたことで、
口裏合わせもできなくなり、女官たちもあきらめてすべてを話している。

ミシェル様とベルトラン様、リヒャルト様は初めて聞いたのだろう。
途中から怒りだしそうなのを我慢しているように見えた。
特に、アンジェリカ様が怪我をしたことを聞いて、立ち上がりそうになっていた。

「ここまで事件のことを聞いたら、処罰は可哀そうだなんて言えないでしょう。
 父上、ビビアナがあそこまで傲慢な性格に育ったのは父上のせいですよ?」

「…だがな…ほら。アンジェリカだって平気そうじゃないか。
 怪我をしたと報告は来たが、こうしてみたらどこも悪くない。
 軽い怪我だったんだろう?」

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