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27.お義兄様との出会い

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お義兄様が散歩しようと言ったくせに、私を抱き上げて中庭へと連れて行く。
これでは散歩にならないと言ったのだけど、これでいいと言って聞いてはくれない。
仕方なくお義兄様の首に腕をまわすと、くすりと笑われる。

「心配しなくても落とさないよ。」

「そういう心配をしているのではありません。
 こうしたほうが抱き上げやすいかと思って。重くありませんか?」

「シルフィーネは軽すぎて心配するくらいだよ。
 まぁ、そうされると抱き着かれているみたいでうれしいが。」

「えっ。」

少しでもお義兄様の負担を軽くしたくてしたことだったけれど、
確かに私が抱き着いているように見えるかもしれない。
義妹でもおかしいのかもしれないと思い、手を離そうとしたら止められる。
暴れないでと言われたら、もう動けない。

少しの間だまって、お義兄様の横顔を見る。
私には柔らかな笑顔を見せてくれるけれど、こうして黙っていたり、
どこか他を見ている時のお義兄様の顔は冷たく感じる。

そんな時は少しだけ違う人を見ているような気になって、何となく不安になる。
私はお義兄様のことを全部知っているのだろうか、
私の知らないお義兄様の顔があるのではないだろうかと。

「…着いたよ。見える?」

「え?」

視線で示された先にはたくさんの薔薇の花。
私とお義兄様を囲むように白い薔薇が見える。
昨日までなかった薔薇の植え込みがたくさん。それもすべてつぼみの薔薇だった。

「…どうして?ここに薔薇は無かったはずです。」

「昨日の夜に庭師に指示した。まさか一日でできるとは思わなかったが。」

「…一日でこれだけ植え替えしたのですか。
 庭師たちはお義兄様のことを尊敬しているそうですから。
 きっと指示されて…うれしくて頑張ったのでしょうね。」

「庭師が…俺を?」

何を言われているのかわからないという顔をするお義兄様に、
まったく気がついていなかったのだと少しだけおかしくて笑ってしまう。

「ほら…お義兄様は幼いころから中庭で修行していたでしょう?
 毎日ボロボロになって…傷だらけになってもやめなくて…。」

「あぁ、幼いころは魔力を制御するのが難しかったからな。
 人に会うのも最小限にしなければいけなかった。
 俺と会っても平気だったのはセドリックや他の次期当主くらいなものだった。
 あいつらなら何があっても自分で身を守れるから。」

「お義兄様が使用人たちですら遠ざけて、
 一人で頑張っていたのを庭師たちはずっと見守っていたそうです。
 小さいお義兄様が庭の木を凍らせないように必死で制御していたのを見て、
 ずっと心配しながらもお義兄様のような当主なら心からお仕えできると。」

私が公爵家に来た当初はお義兄様に会わせてもらえなかった。
それは私が自分の身を守れないから。
お義兄様が魔力を完全に制御できるまでは会わせることができないと言われていた。


「…木を凍らせないようにか。確かにそうしていたな。
 うちの庭はいつも綺麗に手入れされていて…壊すのは嫌だったんだ。
 あぁ、シルフィーネがうちに来た頃もそんな感じだったな。」

「ええ、そうです。初めてここでお義兄様に会った時は驚きました。
 散歩しているうちに中庭の奥に迷い込んでしまって…。
 そしたらお義兄様が傷だらけで倒れていて。」

「…俺はあの時、死んだのかと思った。
 ギリギリまで魔力を使ってしまって、倒れていたらシルフィーネに助けられた。
 神の使いが現れたのだと思った。」

「え…。お義兄様、気を失っていたのではないのですか?」

あの時、お義兄様は意識が無いように見えていた。
だから私と会ったのもわかっていないと思って話していたのに。

「まずいなと思った時にはもう身体に力が入らなくなって倒れていた。
 そのうち誰か見つけてくれるだろうと思ってあきらめていたら…。
 身体がやわらかな魔力で包まれて、今まで知らなかった温かさを感じた。
 見たら小さな女の子がいて、金色の髪に光が当たってキラキラして。
 それがまるで羽のように見えていた。
 シルフィーネに治療されているなんて知らなかったから、
 神の使いが迎えに来たのだと思ってしまったんだ。」

「ふふ。それは大変な誤解をさせてしまっていたのですね。
 神の使いだなんて申し訳ありません。」

私が神の使いに見えるだなんて、
それだけあの時のお義兄様は限界だったのかもしれない。

あの時は傷だらけで倒れている人がいるのに驚いて治療して、
それから銀色の髪に気がついてお義兄様なのだとわかった。

どうしようか迷った結果、急いでお義母様に知らせた。
私が治療したことを知られていいのかわらかなかったし、
気を失ってしまったお義兄様を放っておくわけにいかない。
事情を知っているお義母様に報告するのが一番だと思ったからだ。

話を聞いたお義母様はお義兄様が倒れていたことを聞いて、
心配そうだったけれどいつものことだと教えてくれた。
いつもは使用人が様子を見に行って、倒れていたら部屋まで運んで寝かせていると。
そんな風に倒れてまで修行するお義兄様が信じられなかった。

それから気になって何度もお義兄様の様子を見に行った。
水のかたまりを宙に浮かせ、そのままの形を保ち続けているお義兄様の顔は必死で。
お義兄様が傷だらけだったのは、魔力を込めすぎると水が破裂する時に凍って、
その欠片がお義兄様へと飛んでくるからだった。
氷の欠片は鋭利でお義兄様の身体を傷つけていた。

隠れてこっそり真似してみたけれど、十秒もたたずに水は破裂してしまった。
それだけで魔力がごっそり抜けてしまい、しばらく立ち上がれなかった。
私が出せた水の量はそれほど多くないのに、そのまま維持できなかった。
その時初めて、お義兄様の訓練がどれほど過酷なものなのか知った。

お義兄様が心配で隠れて見に行き、倒れたら治療してお義母様に知らせる。
それを繰り返し季節が三つ過ぎた頃、お義兄様は魔力を制御できるようになり、
私はお義兄様の隣にいることを許された。

「…俺はあの時からずっとシルフィーネを守ろうと思っていた。
 訓練をやり遂げられたのはシルフィーネがいてくれたからだ。」

「いいえ、お義兄様が頑張ったからです。
 私は何もしていません。」

「何度もこっそり治療してくれていたのに?」

「…だって、傷だらけだったから…そのままにしておけなくて。」

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