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18.奪われたもの(ミーナ)
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それから何度もお兄様に話しかけたのに、
毎回にらまれるだけで…少しも話を聞いてもらえなかった。
呼びかけても立ち止まってくれることなく、どこかに行ってしまう。
今までさみしかったこと、お父様に一度でいいから会ってみたいこと、
兄妹なのだからお兄様と仲良くしたい事…何ひとつ言えていない。
お兄様の隣にはずっと義妹がいる。
血のつながりも無いのにお兄様に妹扱いされて…大事にされて。
あんな風に優しく微笑まれるのは私だったはずなのに。
愛人の子でも引き取って一緒に暮らす貴族だっているのに、
どうしてお父様は私を引き取ってくれなかったの?
お母様がいなくなったら私一人になってしまうのに、
どうして誰も迎えに来てくれなかったの?
公爵って国王の次に偉い人なんでしょ?
じゃあ、その娘の私を少しくらい大事にしてくれてもいいんじゃない?
どうして、あんな風に平民のおばさんたちにまで、
かわいそうって言われなきゃいけなかったの?
家から出られないお母さんと二人暮らしでかわいそう。
お父さんと一緒に暮らせなくてかわいそう。
貴族の血をひいているのに、平民街に住んでるなんてかわいそう。
…お母さんを亡くして、たった一人になってしまってかわいそう。
そうよ、私かわいそうなのよ。
お兄様なら…私に会ったら、今まで頑張ったねって。
優しく慰めてくれると思っていたのに。
慰めてくれるのは知らない男子学生ばかり。
それでも話を聞いてくれるのはうれしかった。
他の女子学生は関わりたくないって…話しかけても逃げられる。
もしかして、お兄様の隣にいる義妹のせいなの?
なんとか女子学生の一人を捕まえて聞いてみたら、やっぱりそうだった。
義妹は養女だけどそれでも公爵令嬢には違いないし、
公爵令嬢ににらまれたら働き口が見つからなくなるって。
「あなたももう公爵令息には話しかけないほうがいいわ。
平民と貴族はまったく違う世界にいるのよ。
下手に近寄ったら、学園から追い出されてしまうわ。」
「どうしてよ。だって、私は公爵家の娘なのよ?」
「…それが本当なら引き取られているんじゃないの?
あなたは平民なのよ。それが理解できないのなら、好きにすればいいわ。
だけど、私には関わらないで。」
そう言って、その女子学生は離れていった。
その後は話しかけても、もう答えてはもらえなかった。
学園の休みになって、住んでいた家に戻ってみたら閉鎖されていた。
家に入るどころか敷地にすら入れなかった。
門のところには売り家と書かれた札が貼られていた。
学園の寮に入るために家を出てからまだ一か月もたっていないのに、
外から見えた家は古くなった感じがした。
こんな頼りない家だっただろうか。こんな寂しそうな家だっただろうか。
家の外側をながめていてもお母様との思い出に浸ることもできない。
せっかくここまで来たけれど、仕方ない。あきらめて学園に戻ろう。
戻ろうとして歩く途中、貴族街に寄ってみることにした。
このまま落ち込んで帰っても寮で一人。することもない。
飴でも買って帰ろう…そう思って歩いていたら、青い馬車が止まっていた。
…これってバラデール公爵家の馬車だ。
もしかして、お父様かお兄様がこの近くにいる?
うろうろと探していたら、銀色がちらりと見えた。
大きなガラス窓のお店の中にお兄様がいる。
うれしくて中に入ろうとして、隣に義妹がいたのが見えて立ち止まる。
義妹がいる時に声をかけても…冷たくされるだけ。
住んでいた家にも戻れなくて途方に暮れてしまった今の私には、
お兄様に冷たくされても平気だと思える強さは無かった。
何をしているんだろう。お兄様が義妹の髪に何かをあてている。
青い石のついた髪飾り…どうして?その色は義妹の色じゃない!
それは私の色よ!
呆然としていたら、お兄様と義妹がうれしそうに笑いあっている。
私には冷たい顔しか見せてくれないお兄様が、とても楽しそうに笑う。
義妹が大切で、大事で、優しくしたい、そんな笑顔だった。
義妹はお兄様の妹という立場だけじゃなく、私の色まで奪おうというの?
許せない…それをもらうのは私のはずでしょ?
優しくされて、公爵家の娘だと認められて、うれしそうに笑うのは、
全部全部、私のはずなのに。
何もかも奪われ…悔しくて仕方が無かった。
次の日、お兄様と一緒に馬車から降りてきたあの女の髪に青い髪飾り。
日の光があたって、濃い青の石がきらきらして、
うれしそうに笑う義妹が自慢しているように見えた。
この髪飾りは、お兄様は、私のものよ、そう言われている気がした。
もうそれ以上見ていられなくて、両手で顔を覆い隠した。
このまま泣き叫んで、お兄様を取り返したい。だけど、勇気が出ない。
指の隙間から涙がこぼれていく。
校舎の入り口近くで立ち止まったまま動けずにいると、
周りの男子学生たちが心配そうに声をかけてくれた。
泣きながら聞かれるままに、悔しさを吐き出す。
「…あれは…あの髪飾りは私の色なのに。
ぜんぶ…奪われてしまったの…くやしい…私のものだったのに。」
毎回にらまれるだけで…少しも話を聞いてもらえなかった。
呼びかけても立ち止まってくれることなく、どこかに行ってしまう。
今までさみしかったこと、お父様に一度でいいから会ってみたいこと、
兄妹なのだからお兄様と仲良くしたい事…何ひとつ言えていない。
お兄様の隣にはずっと義妹がいる。
血のつながりも無いのにお兄様に妹扱いされて…大事にされて。
あんな風に優しく微笑まれるのは私だったはずなのに。
愛人の子でも引き取って一緒に暮らす貴族だっているのに、
どうしてお父様は私を引き取ってくれなかったの?
お母様がいなくなったら私一人になってしまうのに、
どうして誰も迎えに来てくれなかったの?
公爵って国王の次に偉い人なんでしょ?
じゃあ、その娘の私を少しくらい大事にしてくれてもいいんじゃない?
どうして、あんな風に平民のおばさんたちにまで、
かわいそうって言われなきゃいけなかったの?
家から出られないお母さんと二人暮らしでかわいそう。
お父さんと一緒に暮らせなくてかわいそう。
貴族の血をひいているのに、平民街に住んでるなんてかわいそう。
…お母さんを亡くして、たった一人になってしまってかわいそう。
そうよ、私かわいそうなのよ。
お兄様なら…私に会ったら、今まで頑張ったねって。
優しく慰めてくれると思っていたのに。
慰めてくれるのは知らない男子学生ばかり。
それでも話を聞いてくれるのはうれしかった。
他の女子学生は関わりたくないって…話しかけても逃げられる。
もしかして、お兄様の隣にいる義妹のせいなの?
なんとか女子学生の一人を捕まえて聞いてみたら、やっぱりそうだった。
義妹は養女だけどそれでも公爵令嬢には違いないし、
公爵令嬢ににらまれたら働き口が見つからなくなるって。
「あなたももう公爵令息には話しかけないほうがいいわ。
平民と貴族はまったく違う世界にいるのよ。
下手に近寄ったら、学園から追い出されてしまうわ。」
「どうしてよ。だって、私は公爵家の娘なのよ?」
「…それが本当なら引き取られているんじゃないの?
あなたは平民なのよ。それが理解できないのなら、好きにすればいいわ。
だけど、私には関わらないで。」
そう言って、その女子学生は離れていった。
その後は話しかけても、もう答えてはもらえなかった。
学園の休みになって、住んでいた家に戻ってみたら閉鎖されていた。
家に入るどころか敷地にすら入れなかった。
門のところには売り家と書かれた札が貼られていた。
学園の寮に入るために家を出てからまだ一か月もたっていないのに、
外から見えた家は古くなった感じがした。
こんな頼りない家だっただろうか。こんな寂しそうな家だっただろうか。
家の外側をながめていてもお母様との思い出に浸ることもできない。
せっかくここまで来たけれど、仕方ない。あきらめて学園に戻ろう。
戻ろうとして歩く途中、貴族街に寄ってみることにした。
このまま落ち込んで帰っても寮で一人。することもない。
飴でも買って帰ろう…そう思って歩いていたら、青い馬車が止まっていた。
…これってバラデール公爵家の馬車だ。
もしかして、お父様かお兄様がこの近くにいる?
うろうろと探していたら、銀色がちらりと見えた。
大きなガラス窓のお店の中にお兄様がいる。
うれしくて中に入ろうとして、隣に義妹がいたのが見えて立ち止まる。
義妹がいる時に声をかけても…冷たくされるだけ。
住んでいた家にも戻れなくて途方に暮れてしまった今の私には、
お兄様に冷たくされても平気だと思える強さは無かった。
何をしているんだろう。お兄様が義妹の髪に何かをあてている。
青い石のついた髪飾り…どうして?その色は義妹の色じゃない!
それは私の色よ!
呆然としていたら、お兄様と義妹がうれしそうに笑いあっている。
私には冷たい顔しか見せてくれないお兄様が、とても楽しそうに笑う。
義妹が大切で、大事で、優しくしたい、そんな笑顔だった。
義妹はお兄様の妹という立場だけじゃなく、私の色まで奪おうというの?
許せない…それをもらうのは私のはずでしょ?
優しくされて、公爵家の娘だと認められて、うれしそうに笑うのは、
全部全部、私のはずなのに。
何もかも奪われ…悔しくて仕方が無かった。
次の日、お兄様と一緒に馬車から降りてきたあの女の髪に青い髪飾り。
日の光があたって、濃い青の石がきらきらして、
うれしそうに笑う義妹が自慢しているように見えた。
この髪飾りは、お兄様は、私のものよ、そう言われている気がした。
もうそれ以上見ていられなくて、両手で顔を覆い隠した。
このまま泣き叫んで、お兄様を取り返したい。だけど、勇気が出ない。
指の隙間から涙がこぼれていく。
校舎の入り口近くで立ち止まったまま動けずにいると、
周りの男子学生たちが心配そうに声をかけてくれた。
泣きながら聞かれるままに、悔しさを吐き出す。
「…あれは…あの髪飾りは私の色なのに。
ぜんぶ…奪われてしまったの…くやしい…私のものだったのに。」
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