神の審判でやり直しさせられています

gacchi

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8章 新しい人生

8.出発

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そうこうしているうちに準備は終わり、出発する時間となった。
お父様とお母様ともう一度向き合うと、お母様はもうすでに泣き始めている。

「お母様…泣かないで?
 少しだけ離れるけど、ちゃんと帰ってくるから。」

「…わかっているのよ?大丈夫、泣いているのは気にしないで。
 せっかく行くんですもの。楽しんできて。
 二人とも、身体には気を付けるのよ?」

「はい。」

ぎゅうっと抱きしめられるとお母様のふんわりとしたいい匂いがする。
大好きなお母様の匂い。
幼いころの私なら、けっしてこの腕の中から離れたりはしなかっただろう。
ゆっくりと離れると、今度はお父様に頭を撫でられる。
さすがにお父様は泣いたりはしなかったけれど、その目にはさみしさが見える。

「レイニード、エミリア、うちのことは気にしないで行っておいで。
 侯爵家を継いでしまえばこういう機会はなかなか無い。
 学べるときに学んでおいで。」

「義父上、ありがとうございます。」

「お父様、行ってきます。わがままを聞いてくれてありがとう。」

「ふふ。久しぶりのわがままがこれだとはね。
 さすがに驚いたけど、二人なら大丈夫だろう。さぁ、時間だよ。」

出発の時間だとせかされ、レイニードと二人馬車に乗る。
新しい馬車なのか中は広く椅子の座り心地も良く、長旅を快適に過ごせそうだ。
御者席にはランドルくんがもう準備を終えて待っていた。
椅子に座ると、まずは馬車の窓を広く開けた。

「…いってきます。」

「いってらっしゃい。」

最後の挨拶を終え、ランドルくんに出るように伝える。
軽やかに進み始めた馬車の窓から、少しだけ顔を出して手を振る。
お父様とお母様の後ろからカミラが手を振っているのが見えた。
にこにこと笑って見送ってくれているリシャエルさんも。

侯爵家の屋敷が遠くになって、人影も見えなくなるなるまで手を振った。

「もう見えなくなっちゃった。」

「そうだね…さみしい?」

「うん、今はさみしい。でも、大丈夫。
 レイニードがいてくれるから。」

馬車の窓を閉めると、すぐにレイニードに手をつながれる。
その手を頬にあてるとくすりと笑われる。

「エミリア、窓から顔を出してたから冷たくなってるよ。
 おいで?」

レイニードの横に座ると、後ろから抱きかかえられるようにされ、
冷たくなった身体をつつみこまれる。
その温かさに身を任せたまま、これから進む道へと目を向けた。
両側にある窓から景色が後ろへと流れていく。
いつのまにか馬車は王都を抜け、何もない森の中を走っている。

静かに走り続ける馬車の中、少しずつ何かが切り離されていくように思えた。
今までの自分なのか、しがらみや古い記憶なのか…。
何一つ後悔していないとは言い切れない。
だけど、大事なことは間違えなかった。
レイニードと過ごせるのなら、それでいいと思えるようになっていた。

住み慣れた場所から、一度も行ったことのない場所へと。
少しずつさみしさが薄れ、これから行く場所への期待と不安が入り混じる。


「ジンガ国ってどんな場所かしら。」

「話には聞くけれど、やっぱり行ってみなければわからないだろうね。」

「そうよね。少しだけ不安もあるけど、お祖父さまたちにも会えるし、
 図書の森にも行ける。ジンガ国の魔術師にも会ってみたいし…。
 アヤヒメ先輩たちが戻ってきたら、会えるかしら?」

「ふふ。やりたいことだらけだね。」

「やりたいことは、もっといっぱいあるわよ?」

「エミリア、今とてもいい顔している。
 すごくわくわくしている顔。」

「レイニードも同じよ?すごく楽しみだって顔しているわ。」

「それもそうか。」

思わず笑いあって、額をつけるようにして、この気持ちを共有する。

さぁ、これからどんなことが待ち受けているのか。
もうやり直しはできない、二人も知らない未来へと。

冒険がここから始まる。




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