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7章 運命の日
13.陛下と女官長
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今にも泣きだしそうな顔をしていたが、
最後まで毅然とした態度のままジョージアは部屋から出て行った。
ジョージアも自分なりに心の中で決着をつけることができたのだろう。
「よろしかったのですか?」
「女官長…何がだ?」
俺とジョージアの会話を聞いていた女官長がそっと出てきた。
「すべてをお話にならなくても良かったのですかと。」
「…あれは俺たちの時代の責任だ。
ジョージアにそこまで押し付けなくてもいいだろう。
いつか話すことがあるかもしれないが、今じゃない。
ジョージアはビクトリアを妹として可愛がっていた。
…今はビクトリアの死を受け止めるだけで精一杯なはずだ。」
「それはそうかもしれませんが…。」
「ビクトリアを殺したのはお前の叔父だ、そう言って何になる。
それに…あんなことをしたビクトリアを庇うことはできん。」
「やはり…王弟殿下なのでしょうか。」
「お前だってそうだと思ったから、
ジョージアに話さないのかと聞いたのだろう。」
「ビクトリア様が見つかった場所が場所ですから…そうかもしれないとは。」
「俺もそう判断したよ。
あの場所にしたのはあいつからの伝言のようなものだろう。
俺は忘れていない、側妃を許さない、って。
側妃と同じことをしようとしたビクトリアを許せなかったんだろう。
あいつがそれを知って許すわけがない。」
奥庭の木小屋は…俺たちにとっては忘れられない場所だ。
そこは弟の婚約者だったレフィーネが無残な姿で見つかった場所だった。
ジンガ国に留学した弟があと二か月もすれば帰ってくるという時期だった。
見つかったレフィーネの遺体には乱暴された跡があった。
それも複数のものに乱暴されたようなひどい有様だった。
おそらくレフィーネはそのことに耐えきれず自害した。
レフィーネの名誉のためにも緘口令が敷かれた上で犯人を捜したのだが、
その当時は何一つわからなかった。
留学中で知らされていなかった弟が帰ってきた時、
愛する婚約者が二か月前に亡くなったと聞いて、その最後を知って、
絶望のあまり跡を追おうとしたのを止めるのが大変だった。
「なぜ守れなかった!」
そう責められて言葉がなかった。
弟が留学するときに約束したのに。弟の代わりにレフィーネを守ると。
だが、俺は王太子の仕事が忙しいことを理由にして守れていなかった。
責められるのも当然だった。
側妃を処刑すると決めた直後、側妃は牢の中で死んでいた。
苦悶にゆがんだ顔をしていたと報告を聞いて、
きっと弟が自分で処刑したのだと思った。
同時期、数人の貴族が同じように亡くなったと聞いて、
あぁ復讐を果たしたのだなと思った。
俺は…王妃を守るので精一杯だと思っていた。
ジョージアを産む前も産んだ後も命を狙われ続け、子を産めなくなってしまった。
側妃が二人産んだことで周りから責められるのではと思い、
ビクトリアを王妃の子にしてしまったが…。
俺のしたことは王妃を余計に追い詰めただけだったのかもしれない。
「…俺は国王としても兄としても失格だな。」
「陛下…あれは責任を負えるものではありません。
側妃の罪を最初から見抜けた者などいないのですから…。」
「それでもだ。
弟は側妃もビクトリアも容赦なく切り捨てた。
本当は俺がしなければいけない決断だった…。
…ジョージアにそろそろ譲位する時期を考えたほうがよさそうだ。」
「まだ早いですよ。
ジョージア様がリリーナ様と結婚して、
お子が産まれるまでは頑張ってもらわないといけません。」
「わかったよ。
それまでは頑張るとしよう…。」
もうすぐ朝が来る。
ビクトリアの報告は直に来るだろう。
ゆっくりと息を吐いて目を閉じたが…心が落ち着くことは無かった。
最後まで毅然とした態度のままジョージアは部屋から出て行った。
ジョージアも自分なりに心の中で決着をつけることができたのだろう。
「よろしかったのですか?」
「女官長…何がだ?」
俺とジョージアの会話を聞いていた女官長がそっと出てきた。
「すべてをお話にならなくても良かったのですかと。」
「…あれは俺たちの時代の責任だ。
ジョージアにそこまで押し付けなくてもいいだろう。
いつか話すことがあるかもしれないが、今じゃない。
ジョージアはビクトリアを妹として可愛がっていた。
…今はビクトリアの死を受け止めるだけで精一杯なはずだ。」
「それはそうかもしれませんが…。」
「ビクトリアを殺したのはお前の叔父だ、そう言って何になる。
それに…あんなことをしたビクトリアを庇うことはできん。」
「やはり…王弟殿下なのでしょうか。」
「お前だってそうだと思ったから、
ジョージアに話さないのかと聞いたのだろう。」
「ビクトリア様が見つかった場所が場所ですから…そうかもしれないとは。」
「俺もそう判断したよ。
あの場所にしたのはあいつからの伝言のようなものだろう。
俺は忘れていない、側妃を許さない、って。
側妃と同じことをしようとしたビクトリアを許せなかったんだろう。
あいつがそれを知って許すわけがない。」
奥庭の木小屋は…俺たちにとっては忘れられない場所だ。
そこは弟の婚約者だったレフィーネが無残な姿で見つかった場所だった。
ジンガ国に留学した弟があと二か月もすれば帰ってくるという時期だった。
見つかったレフィーネの遺体には乱暴された跡があった。
それも複数のものに乱暴されたようなひどい有様だった。
おそらくレフィーネはそのことに耐えきれず自害した。
レフィーネの名誉のためにも緘口令が敷かれた上で犯人を捜したのだが、
その当時は何一つわからなかった。
留学中で知らされていなかった弟が帰ってきた時、
愛する婚約者が二か月前に亡くなったと聞いて、その最後を知って、
絶望のあまり跡を追おうとしたのを止めるのが大変だった。
「なぜ守れなかった!」
そう責められて言葉がなかった。
弟が留学するときに約束したのに。弟の代わりにレフィーネを守ると。
だが、俺は王太子の仕事が忙しいことを理由にして守れていなかった。
責められるのも当然だった。
側妃を処刑すると決めた直後、側妃は牢の中で死んでいた。
苦悶にゆがんだ顔をしていたと報告を聞いて、
きっと弟が自分で処刑したのだと思った。
同時期、数人の貴族が同じように亡くなったと聞いて、
あぁ復讐を果たしたのだなと思った。
俺は…王妃を守るので精一杯だと思っていた。
ジョージアを産む前も産んだ後も命を狙われ続け、子を産めなくなってしまった。
側妃が二人産んだことで周りから責められるのではと思い、
ビクトリアを王妃の子にしてしまったが…。
俺のしたことは王妃を余計に追い詰めただけだったのかもしれない。
「…俺は国王としても兄としても失格だな。」
「陛下…あれは責任を負えるものではありません。
側妃の罪を最初から見抜けた者などいないのですから…。」
「それでもだ。
弟は側妃もビクトリアも容赦なく切り捨てた。
本当は俺がしなければいけない決断だった…。
…ジョージアにそろそろ譲位する時期を考えたほうがよさそうだ。」
「まだ早いですよ。
ジョージア様がリリーナ様と結婚して、
お子が産まれるまでは頑張ってもらわないといけません。」
「わかったよ。
それまでは頑張るとしよう…。」
もうすぐ朝が来る。
ビクトリアの報告は直に来るだろう。
ゆっくりと息を吐いて目を閉じたが…心が落ち着くことは無かった。
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